2016 Fiscal Year Annual Research Report
結晶Siタンデム型太陽電池に向けたSi系ワイドギャップ新材料の探索
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15H02237
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
末益 崇 筑波大学, 数理物質系, 教授 (40282339)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 太陽電池 / シリサイド |
Outline of Annual Research Achievements |
p-BaSi2/n-Siヘテロ接合型太陽電池において、エネルギー変換効率約10%を達成した。この値は、半導体シリサイドを用いた中では世界最高の値である。作製した太陽電池の変換効率の経時変化を調べたところ、BaSi2は大気中の酸素と反応して変換効率はすぐに低下すると予想していたが、予想に反し、2016年2月以来、エネルギー変換効率の低下は見られなかった。また、エネルギー変換効率が高い素子では、BaSi2膜中には、1019cm-3以上の酸素が深さ方向にほぼ均一に入っていること、さらに、酸素濃度が高い方が、分光感度特性も大きいことが分かった。 そこで、第一原理計算により、酸素原子がBaSi2格子に入るときに、Ba原子、Si原子および格子間サイトのどこに入りやすいか、形成エネルギーを計算することで予想した。その結果、格子間サイト(4cサイト)に最も入りやすいこと、このとき、禁制帯内に再結合中心として働く局在準位を形成しないこと、さらに、禁制帯幅が拡大することが分かった。これは、p型およびn型にドーピングする際に用いる13族(B, Al, In)または15族元素(P, As, Sb)とは異なる結果である。これらの不純物は、Si原子を置換する際に最も形成エネルギーが小さくなり、このためキャリアタイプの制御に用いられるが、格子間サイトに侵入すると局在準位を形成することが第一原理計算から分かっている。このように考えてくると、BaSi2太陽電池が一般的な室内においても、変換効率が低下しないのは、空気中の酸素原子の侵入が悪さをしないためと考えることができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
結晶Siをベースとするタンデム型太陽電池を実現するために、BaSi2のSi原子の一部をC原子で置換して禁制帯幅拡大を目指す研究を2年目の前半も行ってきた。それと並行して、p-BaSi2/n-Siヘテロ接合型太陽電池の研究を行ったところ、約10%のエネルギー変換効率が得られ、さらに、一年以上もエネルギー変換効率の低下が確認されなかった。この原因を調べたところ、BaSi2中に含まれる酸素が原因と考えられる結果を得た。酸素がBaSi2の分光感度特性を格段に向上することは、予期していない結果であった。太陽電池は外気にさらされるため、酸化されやすい。このため、BaSi2中の酸素原子が悪さをしないことは、太陽電池材料として、非常に有利な特徴といえる。また、第一原理計算により、酸素がBaSi2格子内の最も安定なサイトに侵入すると、禁制帯幅が拡大するとの結果を第一原理計算より得た。このような実験結果を受けて、今後は、BaSi2の他の4cサイトにも積極的に酸素を添加して(現状の1019cm-3台の100倍以上)禁制帯幅を1.5eV以上にし、結晶Si太陽電池とのタンデム型に見合うトップセル材料を開拓する構想に至った。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により、BaSi2膜内に積極的に酸素を添加(現状の1019cm-3台の100倍以上)することで、禁制帯幅を1.5eV以上にし、結晶Si太陽電池とのタンデム型に見合うトップセル材料を開拓できる可能性があることが分かった。 申請者は、RFプラズマ源を用いた窒素プラズマによる遷移金属窒化物薄膜(Fe4N, Co4N, Mn4N, Ni4N膜の成長)の研究を10年以上行っており、プラズマガンの使用に豊富な経験と実績をもつ。そこで、BaSi2へのOのドーピングは、BaSi2膜を形成した後、O2をプラズマ化してO原子の状態で照射するか、または、MBE成長中に照射することを考えている。まず、”透明なSi(111)基板”を作製する。石英とSi(111)基板を常温接合で貼り合わせてSi側を機械研磨した後、CMP処理により0.5μm以下まで薄くする。以前、BaSi2膜の光吸収端を評価した際にも、これと同じ特殊基板を作製した (Jpn. J. Appl. Phy. 50 (2011) 068001)。次に、MBE法により、BaSi2膜をエピタキシャル成長する。成長後、RFプラズマ源によりOを照射し、表面よりOをBaSi2膜内に拡散させる。Oが十分に入らない場合には、MBE成長中にOをBa,Siと一緒に照射して、BaSi2膜中に取り込む。O原子が安定な4cサイトに入るには、適切な温度でのアニールが必要かも知れない。その後、透過光配置により光吸収係数を評価し、間接吸収端を外挿して求め、1.6eVまでの光吸収端の拡大を実証する。
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Research Products
(42 results)