2017 Fiscal Year Annual Research Report
異種のポリマ‐ポリマ複合化を実現する新しい1次元分散型異方性複合材料の創製
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15H02298
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
堀田 篤 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (30407142)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ポリマ / 複合材料 / ファイバ / エレクトロスピニング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、異種のポリマ-ポリマ複合材料を1次元分散型複合材料で実現し、その複合効果を最大限に引き出すことで、理論弾性率に極めて近い複合材料を作ることを最終目的としている。これまでに、エレクトロスピニング(ES)法により、高強度で知られるセルロースアセテートのナノファイバ化に成功した。さらに、これに化学処理を施すことで、より強度の高いセルロースのナノファイバ(C-NF)を作製し、これを分散材としてポリカプロラクトン(PCL)母材に複合することで、力学物性を向上させることができた。しかし理論で予測する十分な弾性率には到達しなかった。これは異種材料の複合において、両者の接着性が低いため、複合材料の弾性率が増加しにくかったためではないかと考えた。 そこで、PCLとC-NFの接着性を向上させるために、母材PCLのモノマであるε-カプロラクトン(ε-CL)を分散材C-NFに表面修飾することとした。具体的には、開環重合法によりε-CLをC-NFに表面修飾させ、C-NF-g-PCLを作製した。その後、フーリエ変換赤外分光法によりε-CLの表面修飾前後におけるC-NFの化学構造を解析した結果、開環重合法によりε-CLがC-NFに表面修飾できたことがわかった。 次に、C-NFおよびC-NF-g-PCLをPCLにそれぞれ含有率10 wt%の割合で複合し、分散材であるC-NFへの表面修飾が複合材料の力学物性へもたらす効果を定量的に評価した。具体的には、引張試験により複合材料C-NF/PCLおよびC-NF-g-PCL/PCLのそれぞれの弾性率を測定した。その結果、C-NF-g-PCL/PCLの弾性率は485 MPaであり、PCLの弾性率と比べて約113%、C-NF/PCLの弾性率と比べて約15%増加した。以上より、複合材料の力学物性向上の手法としてのナノ分散材の表面修飾の有用性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の研究計画においては、ナノ構造分散型のポリマ-ポリマ複合材料に向けて、ポリマナノ分散材に表面改質を施し、それとポリマ母材との複合化によって、最終的にポリマの力学物性向上を目標に研究をしてきた。エレクトロスピニング(ES)法によりセルロースアセテートをナノファイバ化し、これに化学処理を施すことでセルロースのナノファイバ(C-NF)を作製できたことが、これまでの主な研究成果である。さらに、作製したC-NFに対して、開環重合法によりε-カプロラクトン(ε-CL)を表面修飾させることでC-NF-g-PCLの作製に成功した。また、このようにしてできた複合材料を物性評価したところ、C-NF-g-PCLを生分解材料の一種であるポリカプロラクトン(PCL)に複合したC-NF-g-PCL/PCLは、表面修飾をしていないC-NFを複合したC-NF/PCLより高い力学物性を示すことが明らかとなった。そのメカニズムの研究の一端として、走査型電子顕微鏡を用いた複合材料の破断面構造解析をしたところ、C-NF-g-PCL/PCLはC-NF/PCLと比較して分散材の母材からの引き抜けが少ないことがわかった。これにより、C-NF-g-PCLではPCLとの接着力が高く分散材の引き抜けが少ない分、複合材料にかかる荷重を分散材がより効率的に応力負担できたため、C-NF/PCLより高い力学物性が得られたと考えられる。以上より、現在のところ計画どおりに、ナノ構造を有するポリマの表面改質により、ポリマ複合材料の作製と力学物性の向上にむけた研究がおおむね順調に進捗していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度においては、これまでの研究成果である「分散材のナノ1次元化」および「分散材の配向化」、「分散材の表面改質」を統合していくことで、理論弾性率に近い1次元ナノポリマ分散材を用いた複合材料の作製を目指す。具体的には、まず最適化された条件でES法を実施し、その際に回転コレクタを用いることにより配向性を有するナノファイバ分散材を作製する。次に、これまでの研究で確立した開環重合法を用いて、作製した分散材に母材との親和性の高いモノマを用いた表面改質を施すことで、複合効果の高い分散材を作製する。このときに作製した分散材について、フーリエ変換赤外分光法および核磁気共鳴装置を用いることでモノマの重合量を測定する。また、走査型電子顕微鏡(SEM)により分散材の表面形状を解析することで、表面改質を施した後の分散材の径やその配向度を評価する。このように作製した分散材を、複合材料作製に向け、加熱圧縮成型法により母材の内部に組み込む。そして、作製した複合材料に対して、力学物性評価および構造解析を実施することで、配向化および表面改質のもたらす影響を定量的および定性的に評価する。具体的には、力学物性評価については複合材料に対して静的引張試験および動的粘弾性測定を実施する。そして、構造解析については複合材料に対してSEMによる破断面構造解析を実施し、ナノファイバ分散材の引き抜け量を測定することなどで、母材と分散材の親和性を評価する。また、研究分担者である茨城大学の前田知貴助教と協力し、複合材料における表面改質前後での分散材の修飾鎖の絡み合いや広がりを議論する。具体的には、小角中性子散乱(SANS)等により修飾鎖の絡み合いや広がりの定量化を試み、これらと力学物性との相関を考察する。以上のようにして、本研究の最終目的である理論弾性率に近い1次元ナノポリマ分散材を用いた複合材料の作製を目指す。
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Research Products
(4 results)