2017 Fiscal Year Annual Research Report
Development of a methodology for the energy-free long-term preservation of biological materials
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15H02378
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
櫻井 実 東京工業大学, バイオ研究基盤支援総合センター, 教授 (50162342)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 乾燥耐性 / LEAタンパク質 / 熱変性 / 蛍光タンパク質 / 分子シミュレーション / ゲノム編集 |
Outline of Annual Research Achievements |
われわれの開発したLEAタンパク質のモデルペプチドPvLEA-22が細胞乾燥保護剤として利用可能かどうかを調べるため、ネムリユスリカ由来の培養細胞Pv11細胞に対する乾燥保護能を調べた。具体的には、i)細胞内部に一過的にPvLEA22を発現させた系、およびii)細胞培養液中にPvLEA-22を添加することで、細胞外部にPvLEA-22を存在させた系を用意し、それぞれを乾燥・再水和処理した後、蘇生率を調べた。その結果、PvLEA-22ペプチドは細胞の内外どちらに存在する場合にも乾燥耐性を付与する機能はないとの予想外の結果となった。 昨年度から始めたネムリユスリカ遺伝子のゲノム編集では、Pv11細胞においてRISPR/Cas9システムが機能することが分かったが、ノックアウト効率が低く、また内因性遺伝子のノックアウト細胞を選別できなかった。そこで、ノックアウトされた細胞に目印となる遺伝子が発現するように実験系を構築し直した。PITCh法を用いて、標的遺伝子上にAcGFP1とzeocin耐性遺伝子の発現ユニットをノックインし、薬剤耐性とソーティングを行うことで、ノックアウト細胞のみを選別することができた。 PvLEA-22が酵素の熱変性や蛍光タンパク質の乾燥変性をどの程度抑止するかをin vitro系の実験で調べた。その結果、このペプチドを添加しておくと、リゾチームは変性温度以上においても変性しないことが判明した。また、このぺプチド添加により、赤色蛍光タンパク質の立体構造は乾燥→再水和過程を経ても維持されることが示された。 乾燥状態でPvLEA-22が細胞膜を保護するメカニズムを原子レベルで明らかにするため、分子動力学シミュレーションを実行した。その結果、このペプチドはβシートリッチな構造でまく表面に結合し、乾燥・再水和ストレスによる脂肪鎖の秩序低下を抑制することが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で利用している東工大計算機センターのスーパーコンピュータリプレースのためソフトウェア再チューニングに予想外の時間がかかり、分子シミュレーションを用いた研究に若干の遅れが生じたが、その部分は2018年度に繰り越して実施し、ほぼ計画通りの成果を挙げることができた。 昨年度からはじめたネムリユスリカの乾燥耐性を司る遺伝子を同定するため、CRISPAR/CAS9システムを用いたゲノム編集の実験がほぼ順調に進み、学会発表ができる段階まで達した。PvLEA-22による生きた細胞の乾燥保護実験は当初の予想通りの結果は出なかったが、一方で、ゲノム編集の実験が進んだことにより、生きた生物の中で細胞がどのように乾燥から保護されているかを解明するためのアプローチにおいて前進があった。 PvLEA-22ペプチドの熱変性保護作用では、一度変性してしまったタンパク質の凝集を抑制するという、シャペロン的機能が明らかとなり、当初想定していた分子シールディング効果を上回る機能の発見であった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、in silico, in vitroおよびin vivoの3方向のアプローチから細胞の乾燥耐性のメカニズムとその応用を目指した研究を行ってゆく。 in silicoの問題としては、今年度明らかとなったPVLEA-22ペプチドの酵素熱変性抑制機能を分子シミュレーションによって解明する。タンパク質の凝集を扱うため、系のサイズが大きくなりall-atomシミュレーションでは困難と予想されるため、粗視化シミュレーションの導入を図る。 LEAタンパク質とともに、細胞の乾燥保護剤として重要な役割を果たしていると考えられている二糖トレハロースの機能をin vitroとin silicoの実験・計算から追及する。具体的には、トレハロース脂質/リン脂質混合膜の物理化学的性質をAFMを用いたin vitro実験から調べるとともに、その水和特性や細胞膜との相互作用を分子シミュレーションを用いて調べる。 ゲノム編集の実験を引き続き行い、Pv11細胞の乾燥耐性能を保持したまま外来遺伝子を安定的に発現できる実験系の構築を行う。
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Research Products
(12 results)