2018 Fiscal Year Annual Research Report
変異体を用いたイネ茎における糖・デンプン蓄積機構の解明
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15H02428
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
大杉 立 東京農業大学, その他部局等, 教授 (40343107)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
青木 直大 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (70466811)
廣瀬 竜郎 高崎健康福祉大学, 農学部, 教授 (90355579)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ショ糖代謝 / イネの多用途利用 / イネ茎部 / 突然変異体 / ショ糖転流 |
Outline of Annual Research Achievements |
テーマ1)①液胞型インベルターゼ・アイソジーン(INV2およびINV3)のうち、INV2遺伝子破壊系統(INV2-KO;原品種「日本晴」)について解析を進めた。圃場試験において茎部の可溶性糖含量が野生型に比べて高くなることが示されたため、INV2-KOに野生型のINV2遺伝子を導入した相補系統を作出し、P1温室内のポット試験にて解析を進めたが、表現型の回復をみとめられなかった。②葉中デンプン過剰蓄積を示すLSE変異体のうち、転流経路が阻害されていると予想されているLSE2変異体について、MutMap法による原因遺伝子の候補を絞り込んだ。 テーマ2)既存の茎部高デンプン性飼料稲品種「リーフスター」もしくは茎部高糖性飼料稲品種「たちすずか」に対して、AGPL1遺伝子の機能欠損により茎部にデンプンをほとんど蓄積しない「日本晴」変異系統を交配し、さらにそれぞれの親となった飼料稲品種を戻し交配した後代(BC1F3)を圃場展開し、収穫期の茎部糖・デンプン含量と遺伝子型との関係を調べた。その結果、親品種の如何に関わらずAGPL1機能欠損個体では茎部デンプン含量がほぼゼロになるとともに、可溶性糖は正常型個体やヘテロ個体に比べて2倍程度に増加し、高糖性形質の遺伝性が確認された。また、AGPL1機能欠損個体では茎中の粗脂肪含有率が有意に増加することが明らかとなった。 テーマ3)EMS処理によって突然変異を誘発した「日本晴」変異系統について、前年度までに得られた候補系統(7系統)の後代およびそれらの一部の戻し交配系統(BC1F3)を用いて、出穂期以降の茎(葉鞘+稈)の搾汁液糖度(BRIX値)による評価を試みたが、いずれの系統についても著しい不稔が生じたため解析を中断した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
テーマ1)①液胞型インベルターゼ遺伝子の生理機能解析については、前年度のINV3に続いてINV2についても解析が終了し、これまでに得られた成果を原著論文として発表した(Morey et al. 2019)。②LSE2およびLSE3の原因遺伝子の同定に遅れが生じていたが、LSE2についてはMutMap法を用いることによって有力な候補遺伝子を特定することができた。現在、相補試験による検証を進めるとともに、LSE3についてもMutMap法による原因遺伝子の特定を試みている。 テーマ2)リーフスター/AGPL1-KOやたちすずか/AGPL1-KOの戻し交配系統(BC1F3)の解析から、収穫期の茎部高糖性形質が後代に引き継がれることが確認されたことは大きな成果といえる。また、前年度までに、AGPL1機能欠損ホモ個体の可溶性糖とデンプンをあわせた全糖・デンプン含量は正常型個体やヘテロ個体のそれよりも明らかに低く、光合成産物の一部が糖・デンプンとは異なる未知のシンクに移行した可能性が示唆されていたが、今年度の解析から、光合成産物の一部が(糖蓄積とは別に)脂肪酸・脂質等の合成・蓄積に利用されたことが明らかとなり、次年度の後代を用いた解析に期待がもてる。 テーマ3)EMS処理によって突然変異を誘発した「日本晴」茎部高糖性候補系統に著しい不稔が生じたため、解析および形質の固定に遅れが生じた。不稔が生じた原因については不明であるが、将来的な育種を考えると稔実率は大きな問題となるため、高糖性形質との関連性を検証することは重要な課題であると考える。 以上のことから概ね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
テーマ1)「イネ茎葉部におけるショ糖代謝・転流機構の解明」では、①液胞型インベルターゼの2つのアイソジーンの茎部(地上部)における機能解析は終了したが、いずれのKO系統においても根の形態異常が示唆されていることから、今後は根系における機能解析を進め、茎葉部におけるショ糖代謝および個体レベルでの同化産物の分配との関連性を明らかにする。②LSE2変異体については、候補遺伝子を野生型(日本晴)から単離し、相補試験による検証を行う。LSE3変異体については、MutMap法による原因遺伝子の特定を試みる。 テーマ2)「イネ茎部におけるデンプン・ショ糖の分配および蓄積機構の解明」では、①リーフスター/AGPL1-KO_BC2系統およびたちすずか/AGPL1-KO_BC1系統の自殖後代を用いて、AGPL1-KOの有無と分げつ数、茎葉乾物重、および茎葉部におけるデンプン・可溶性糖濃度および粗脂肪の蓄積パターンに焦点を絞って解析する。 テーマ3)「イネ茎中ショ糖蓄積変異体を用いた高糖性に関わる新規遺伝子の探索」では、既に得られた候補系統の自殖後代について茎中のデンプン・可溶性糖濃度の蓄積パターンの解析を行うとともに、一部の系統については戻し交配を行う。また、各系統の稔実率について出穂期の茎部糖濃度や気象条件との関連性を解析する。
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