2016 Fiscal Year Annual Research Report
魚類の交雑に起因する特異な発生・生殖の分子機構解明と育種応用
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15H02457
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
荒井 克俊 北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (00137902)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤本 貴史 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (10400003)
山羽 悦郎 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 教授 (60191376)
宗原 弘幸 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 准教授 (80212249)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 水産学 / 農林水産物 / 発生・分化 / 遺伝学 / バイオテクノロジー / 雑種 / クローン / 倍数体 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.異種間受精と初期発生:ゼブラフィッシュ雌×パールダニオ雄由来の雑種は二倍体で生存性を示したので、定期的な固定を行い、生殖腺の組織学的観察、生殖関連遺伝子の発現解析の準備を整えた。サケ科のシロザケ雌×アメマス雄等で三倍体化による生存性回復効果を確認した。シロザケ雌×アメマス雄雑種の組織学的観察から、雑種三倍体では純粋種と同様の正常な胚発生が進むが、雑種二倍体では受精後12日以降に胚体の矮小化が顕在化し、受精後21日目にはレンズと眼杯の位置関係が異常な胚と比較的正常な胚の2型が生じることが分った。この差は以降の胚頭部サイズの2型と関係した。眼の形成異常に着目し、それに関与する遺伝子の配列を明らかにし、リアルタイムPCRを用いた発現解析に着手した。 2.非還元配偶子形成機構:昨年度に続き、北海道網走地方と石川県能登島地方のドジョウについてクローンの識別を行ったところ、前者では23%がクローンであったのに対し、後者ではクローンの出現率は僅か2%であった。異種精子とUV照射精子を用いた交配実験から能登島地方のクローンも雌性発生により繁殖することが確認できた。染色体操作、人為性転換の手法によりクローン二倍体雌雄およびクローン四倍体雌雄の作出を行った。これらの組織学的観察から、クローンでは卵原・精原細胞の大型化が見られ、非還元配偶子形成との関係が注目された。 3.半クローン生殖:スジアイナメを対照として、野生雑種卵巣の組織学的観察を行った結果、対照と同様の像は認められなかった。スジアイナメ、アイナメ、クジメは2n=48で、人為F1雑種は両親種の中間を示すが、野生雑種では特徴的な大型中部着糸型染色体を示した。野生雑種とスジアイナメの戻し交配ではこの特徴的な染色体が引き継がれるが、その個体とスジアイナメの交配子孫では大型染色体が消失し、それとともに半クローン生殖も生じないことが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コイ目魚類についてはゼブラフィッシュ雌×パールダニオ雄雑種が生存性で二倍体雑種であることを確認でき、その標本について生殖腺の組織学的観察と生殖関連遺伝子の発現解析を実施する準備が完了し、本雑種における生殖能力検討に一部着手できた。サケ科では、いくつかの組み合わせで三倍体化による雑種の生存性回復現象を確認することができた。そこで、本機構の分子細胞機構解明のため、特にシロザケ雌×アメマス雄雑種において、発生胚の詳細な組織学的な観察から、眼の形成に関与する遺伝子を候補とする、リアルタイムPCRを用いた遺伝子発現解析に着手することができた。また、従来の方法に比べて凍結保存精子の運動能力向上が大きく期待されるグルコースとメタノールを保存液とする方法により、種々のサケ科魚類精液の保存が一層進み、次年度以降のより広範囲な交雑実験を可能にした。 ドジョウでは北海道網走地方、石川県能登島地方由来の野生型系統、クローン二倍体系統(全雌)、クローン由来三倍体系統を維持するとともに、クローン受精卵・胚の染色体操作と性転換の手法により、クローン二倍体の性転換雄や四倍体クローンを作出した。これらを用いた生殖腺の組織学的観察から、卵原・精原細胞のサイズ変化が見られ、特殊な非還元配偶子形成、減数分裂雑種発生の起こる時期について示唆を得ることができた。 アイナメ属野生雑種に特徴的な動原体融合により形成されたと推察される大型染色体をマーカーとして、野生雑種とスジアイナメを交雑した個体、さらにそれをスジアイナメに戻し交配した個体におけるマーカー染色体の存否が半クローン生殖の存否に関連することを明らかにできた。 以上より、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
1.異種間受精と初期発生: ゼブラフィッシュ雌×パールダニオ雄生存性二倍体雑種の準備済み標本について生殖腺の組織学的観察を進め、生殖能力低下が生じる細胞機構を解明するとともに、生殖関連遺伝子の発現解析から分子機構解明を目指す。サケ科魚類を用いた三倍体化による生存性回復効果の機構解明を、今年度絞り込んだ候補遺伝子群のリアルタイムPCRを用いた発現解析から切り込む。凍結保存精子を用いて広い範囲で交雑実験を行い、異質三倍体化の効果判定、特殊発生の存否の調査を継続する。 2.非還元配偶子等形成機構:雑種起源が推測されるクローンドジョウのゲノム構成を識別するための種・系統ならびにクローン判別が可能なDNAマーカーを開発し、分子細胞遺伝学的な手法によりクローンのゲノム中の異なる系統由来の染色体セット(サブゲノム)を識別する。本法により、クローンにおける非還元配偶子形成、クローン由来三倍体におけるサブゲノム削減の細胞機構を組織学的観察とあわせて解明する。また、ステージの異なる生殖細胞から発現RNAを採取し、de novo RNA-seq解析を用いてゲノム構成変化に応じて特異的に発現する候補遺伝子クローニングを試み、発現動態解明に進む。 3.半クローン生殖:アイナメ属の野生雑種と人為雑種、およびこれらの戻し交配子孫の染色体構成と生殖特性の関係を明らかにするとともに、核型についてもFISH法等を用いた精密な分析を行う。また、半クローン生殖における半数体卵形成機構解明のため、時系列を追った生殖腺の組織・細胞学的観察、染色体挙動の分子細胞遺伝学的観察を行い、ゲノム削減時期と生殖細胞の特定を試みる。
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Research Products
(10 results)