2015 Fiscal Year Annual Research Report
常染色体優性遺伝病モデル遺伝子改変ブタにおける病態発症機構の解明と表現型制御
Project/Area Number |
15H02480
|
Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
長嶋 比呂志 明治大学, 農学部, 教授 (50318664)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大鐘 潤 明治大学, 農学部, 准教授 (50313078)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | ブタ / 遺伝子改変動物 / 常染色体優性遺伝病 / ハプロ不全 / マルファン症候群モデル / エピジェネティクス / CpG shore / メチル化修飾 |
Outline of Annual Research Achievements |
ハプロ不全として定義されている優性遺伝病の発症機序を明らかにするために、マルファン症候群モデル動物であるヘテロFibrillin 1遺伝子(FBN1)変異クローンブタを作出し、表現型(病態)の解析を実施した。 ブタ胎仔線維芽細胞(雄)にFBN1のexon 10を標的とするZinc Finger Nucleaseを導入してヘテロFBN1変異クローン細胞株(+/Glu433AsnfsX98)を樹立し、この細胞を用いて変異クローン胚を作出し、借り腹雌への移植により合計19頭のクローン産仔を得た。これらの産仔中の5頭には、新生仔期にマルファン症候群に関連する表現型(上行大動脈弾性板の断裂、骨端の石灰化遅延、漏斗胸、口蓋裂)が見られた。他に、新生仔期には病変を示さず、成長期以降(5ヶ月齢)に脊椎側弯症や漏斗胸を示す個体2頭が確認された。残る13頭は、12ヶ月齢までの観察期間内にマルファン症候群に関連する病変を現さなかった。このように、作出したクローン産仔は同一の遺伝子変異と遺伝的背景を有するにも関わらず、多様な表現型を示した。このことは、マルファン症候群の発症動態が同一家系内でも多様であることと類似している。 従って、我々が作出したヘテロFBN1変異ブタは、エピジェネティック修飾と表現型の関連を明らかにする、本研究の目的に適したモデルであると判断される。 FBN1のエピジェネティック修飾の違いを解明するために、FBN1プロモーター領域の解析を進めた。まず、アリルごとにDNAメチル化状況が異なるCpG shoreをブタFBN1 プロモーター領域で同定した。続いて、アリルを区別したDNAメチル化解析に必須である一塩基多型(SNP)を、FBN1 CpG islandに有するブタ系統を同定した。更に、正常と変異アリルそれぞれから転写されるFBN1 mRNA発現量を区別して解析する検出系を構築した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マルファン症候群は、同一家系内でも多様な発症動態(重篤度や異常組織の種類の差)を示すことを特徴とする。我々がこれまでに作出したヘテロFBN1変異クローンブタの集団は、同一の遺伝子変異と遺伝的背景を有するが、個体毎に様々な病態を呈した。このことから、マルファン症候群の発症動態を再現する疾患モデルブタが作出できたと考えられる。すなわち、ハプロ不全優性遺伝病の病態発現にエピジェネティクスが関与する機構の、解明の基盤となるモデル系が確立されたことになる。さらに、一部のヘテロFBN1変異ブタを性成熟期まで育成し、今後、後代産仔を作出する体制を構築した。また、FBN1 CpG islandに固有のSNPを持つブタ系統(雄)を同定した。 この個体をヘテロFBN1変異ブタとの交配に用いることで、FBN1 CpG shoreのメチル化状況の解析において、正常・変異アリルの区別が可能となる。 エピジェネティック修飾の解析分野では、FBN1 CpG islandにアリルごとにメチル化状況が異なる、いわゆる“ゆらぎ”が生じるCpG shore領域を同定した。また、正常・変異アリルを区別したFBN1発現解析系、およびアリルを区別した高精度なDNAメチル化解析系を確立した。これにより、次年度以降に行う予定である、ヘテロFBN1変異個体における正常アリルのメチル化度合と、FBN1の転写量との相関の検証に必要な解析基盤を構築できた。 以上の結果から、当初の計画通り研究は進んでいると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
マルファン症候群の原因となる変異型FBN1をヘテロで有するブタを体外受精や交配によって作出し、研究に供する。固有のSNPを同定したブタをヘテロFBN1変異ブタとの交配に用い、FBN1 プロモーター領域のSNPを指標に、正常および変異FBN1アリルの区別が可能な個体を作出する。得られたヘテロFBN1変異ブタについて、病態および病理組織学的特徴を詳細に検討し、同時に線維芽細胞を樹立する。 上記線維芽細胞を検体とし、2015年度に確立した解析系を用いて、ヘテロFBN1変異個体での正常アリルに着目したCpG shoreのDNAメチル化解析を実施する。これと平行して、スプライス前の前駆RNAに注目したFBN1 mRNA発現の解析をRT-PCRを用いて行う。これにより、FBN1遺伝子の正常アリルと変異アリルのDNAメチル化状態とmRNA発現状態との相関を検討する。 また、FBN1 CpG shoreでのDNAメチル化のゆらぎ確立時期の同定を目的として、今年度は受精直後から胚盤胞期の初期胚、および体外培養期間を延長した胚盤胞についてのFBN1 CpG shoreのDNAメチル化解析を実施する予定である。
|
Research Products
(12 results)