2015 Fiscal Year Annual Research Report
アフリカ農村における技術の内部化プロセスの解明と循環型資源利用モデルの構築
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15H02591
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
伊谷 樹一 京都大学, アフリカ地域研究資料センター, 准教授 (20232382)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
荒木 美奈子 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 准教授 (60303880)
勝俣 昌也 麻布大学, 獣医学部, 教授 (60355683)
瀧本 裕士 石川県立大学, 生物資源環境学部, 教授 (60271467)
大山 修一 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 准教授 (00322347)
近藤 史 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 助教 (20512239)
黒崎 龍悟 福岡教育大学, 教育学部, 准教授 (90512236)
山本 佳奈 京都大学, 総合地域研究ユニット, 特定助教 (10723413)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 乾季作 / 環境保全 / 作物の多様化 / 水撃ポンプ / 水源涵養 / 水力発電 / 植林 / 放牧システム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、深刻な環境劣化に直面しているタンザニアの農村において、自然資源の新たな活用方法を見出し、地域住民の生存基盤(食や経済)に繋がる新たな循環型資源利用モデルを構築することにある。研究の対象とした地域は、土地が痩せている上に気候が不安定で、安定した現金収入源もない、国内でも最も貧しい地域の1つである。この農村では無秩序な林産資源の販売や農地の拡大が横行し、生態系は著しく荒廃して乾季には水源も干上がるようになっていた。そこで、平成24年頃から彼らの強いニーズでもあった電気を河川の水力でつくりだし、河川水位の季節変動を可視化しながら水源涵養の重要性を説いていった。26年頃には天候不順に左右されにくい商業林を経済基盤に据えることの意義がようやく理解されはじめ、保全と利用を目的とした植林事業がスタートした。ところが、当該村では家畜を村内に放し飼いする習慣があったため、植林した苗はことごとく柵を破って食べられてしまった。そこで全村民会議を開き、放牧エリアの設置と牧夫による徹底した監視など、放牧システムを抜本的に改変していった。これによって、それまで栽培できなかったキャッサバ、食用バナナ、タロなど、多年生デンプン作物も栽培できるようになり、主食であるトウモロコシの不作を補えるようになった。 また、産業革命以前に開発された『水撃ポンプ』という簡単な機械を模作し、川から村の中心にまで揚水することにも成功した。これは、植林用の育苗所への灌漑を意図していたが、近年盛んになってきた乾季の野菜栽培にも利用するようになっていった。活動の相互の関係性をつねに意識しながら諸活動を並行して実施することで、生態環境―水―食料―経済というリンクが住民に強く印象づけられていった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
活動はおおむね順調に進んでいる。活動を進める上でいくつかの弊害はあるが、それらは、研究上はむしろ非常に重要な課題でもある。1つは、住民の自然観との協調であり、もう1つは平等性である。自然環境に関わる場合、必ずと言ってよいほど地域の慣習と抵触するので、時間をかけて住民と協議を続けていかなければならない。たとえば、水撃ポンプで河川水を村の中心にまで揚水する際、河岸を少しだけセメントで加工し取水しやすくした。その工事をした日の夜、乾季であるにもかかわらず大雨が降り、翌朝には村人が工事現場の近くで巨大なニシキヘビを発見して大騒ぎになった。現地の人びとにとってニシキヘビはチーフの祖霊の化身であり、それは雨や河川水など水全般を司っていて、雨乞いの対象となっている。ニシキヘビの出現は悪いことの予兆のように思われたのである。当然、工事は中止し、祖霊の怒りを鎮める儀式に1週間を要したが、そのときの議論をとおして彼らの世界観を深く知ることができた。 もう1つは平等性の問題である。この事業は、事前に組織された住民グループが主導する形で実施されたが、アフリカ農村での実践的な活動で注意しなければならないのは、一部のグループ(住民)に富が集中して平等性が損なわれることである。試験的に実施した水撃ポンプは、揚水には成功したものの水量が少ないために使用制限をかけていた。ところがある日、揚水用のパイプが何者かによって山刀で切断されるという事件が起こった。一部の者だけが川の水を独占することへの不満がその原因であろうと想像するが、産物を住民に広く還元しながら根気よく修理をくり消していくしかないのか、今後の推移を見守らなければならない。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は循環型の資源利用モデルを構築することでなるが、上述したようなトラブルは当然起こりうる問題であり、それへの対処はモデルに内包されていなければならない。すなわち、当該地域の自然観や平等性との抵触こそが、外部技術が地域社会に内部化されていくプロセスを理解する上での重大なポイントなのである。 平成28年度は引き続き各活動の進捗にあわせて 1)解決策の構想、2)適正技術の創造、3)評価と実践、4)自然資源の共有と保全の観点から内部化のプロセスを分析していくことになる。今後の研究に大きな変更はないが、昨年度に表面化してきたこれらの事象を重視しながら、諸活動の実施可能性や持続性をつねに評価・検証していくことになる。
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Research Products
(30 results)