2016 Fiscal Year Annual Research Report
アフリカ農村における技術の内部化プロセスの解明と循環型資源利用モデルの構築
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15H02591
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
伊谷 樹一 京都大学, アフリカ地域研究資料センター, 教授 (20232382)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大山 修一 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 准教授 (00322347)
近藤 史 弘前大学, 人文社会科学部, 准教授 (20512239)
瀧本 裕士 石川県立大学, 生物資源環境学部, 教授 (60271467)
荒木 美奈子 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 准教授 (60303880)
勝俣 昌也 麻布大学, 獣医学部, 教授 (60355683)
黒崎 龍悟 福岡教育大学, 教育学部, 准教授 (90512236)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 環境保全 / 感染症 / 植林 / 水撃ポンプ / 水源涵養 / 水力発電 / 多年生作物 / 放牧 |
Outline of Annual Research Achievements |
タンザニアにおける深刻な環境劣化は、その要因の1つに地域経済の低迷がある。医療や教育に多額の支出が求められるが、農村の収入は依然として低く、天候によって大きく変動する。地域住民にとって農地の拡大とそれにともなう林の減少は避けられない結果であろうが、彼らは当事者として現状をしっかり把握して対策を講じていかなければならない。水力発電や水撃ポンプは環境劣化を可視化し、住民の環境保全の意識を高めることを意図していた。林業はそうした対応策の1つで、住民は新たな収入源として、また環境を保全する方策として育苗と植林に取り組んでいった。一方、銀行のないアフリカの農村では、非常時の出費に備えて中小家畜や家禽を飼う世帯が多い。収穫を終えた畑に放たれる家畜が、雨季にせっかく植えた樹木苗を作物残渣と一緒に食べられてしまう。バナナ・キャッサバなどの多年生作物は干ばつ時の飢えを軽減してくれる貴重な救荒食物であるが、ヤギやウシはあらゆる緑葉を食べ尽くしてしまうのである。この放牧スタイルが、野火と並んで、アフリカに植林が根付かない大きな要因である。しかし、従来の放牧スタイルを改変して植林と家畜を時間・空間的に分離するのは簡単でない。そこで、生産と販売をつなぐために、外来樹木の材を使って家具を試作してみた。完成した机と椅子は高級感にあふれ、誰もが高値で売れる可能性をイメージすることができた。これは植林ムードを高め、ヤギの繋牧やブタの舎飼いが徐々に定着してきている。一方、農業と牧畜の複合による農業の集約化もこの研究の重要な課題であったが、平成28年度の4月~6月に突然ウシの感染症がアウトブレイクし、調査村では大量のウシが死んだ。われわれは、それがダニ熱の一種であるアナプラズマ症であることを突き止めたが、別の症状も見られることから複数の感染症を併発していたとみて、病原体の同定と感染経路の特定を急いでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
植林の食害や焼失、感染症のアウトブレイクなどは想定すべき事態であり、それらへの対処も含めて研究はおおむね順調に進んでいる。 新たな生業が地域に導入されたとき、それが他所でどのように利用・売買されるかを生産者がイメージすることは、実際に収入が得られるまでに生産を継続する鍵となる。今回、村内に植えられていた外来樹を数本切り倒し、製材して町で腕のよい職人に机と椅子を作ってもらった。それを村のオフィスに寄贈したことで、村人たちは実際に高級感のある家具に触れ、植林から収入までのプロセスをイメージすることができたという。この樹木は数十年前に政府が導入したセンダン科の外来樹で、材質に優れ、加工しやすく、シロアリ耐性があり、繁殖力が旺盛で、生長が早く、この地域の環境にも適していた。しかし、その葉をヤギが好んで食べるため、厳重に囲いをしないと村内では生き残れず、ほとんど栽培されることはなかった。この樹木の植林を推進して地域の経済基盤を安定させながら、人工林の利用をとおして自然林への負荷を軽減するのがプロジェクトの目的で、その実践をとおして内部化プロセスを実証的に解明していくのがこの研究の趣旨である。 一方、2015年/2016年の雨季(11月~3月)はきびしい干ばつに見舞われ、農作物は大凶作になった。農家は借金をして1年間の食料を確保しつつ、雨季終盤のわずかな降雨を利用してインゲンマメを栽培するために広大な畑を耕していった。牛耕が繰り返されるなか、ウシが次々と死にはじめた。症状からダニ熱と牛肺疫などの感染症が疑われたが、発症はきわめて局所的で、伝播経路や外延的な拡大も認められなかった。こうした局所性から、すべてのウシがいくつかの感染症に不顕性感染していて、それが過度な労働によって病気を発症したと考えられた。アフリカの農牧複合の可能性を考えるうえで、このことはきわめて重大な意味をもっている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、引き続き自治体との連繋を強化しながら、1)発電、2)揚水、3)植林、4)中小家畜管理システムの改革、5)多年生作物の増殖、6)ウシ感染症の特定などの諸活動を進めていく。過去2年間に活動を具体化させることができたので、その進捗にあわせて「技術の適正化」に焦点をあてながら内部化のプロセスの展開を分析していく。また、昨年度に進展が見られなかった4)と、新たに表面化した6)については、重点課題と位置づけ、て下記のような活動計画を追加する。 4)中小家畜管理システムの改革 対象とするのはヤギとブタである。ヤギは、この地域でもっとも重要な家畜である反面、植林した苗や多年生植物を食害する害獣でもある。すべての子どもたちが小学校へ通うようになり、牧童を確保できなくなった昨今、ヤギの放し飼いは、タンザニアの僻村といえども時代遅れと言わざるをえない。繋牧の徹底やヤギ囲いの隔離など、他地域の事例を参考にしながら飼養方法の抜本的な改革を考案する。また養豚については、飼料の確保を模索しながら、放し飼いの全面的な禁止に取り組む。 6)ウシ感染症の特定 感染症の1つは、病検体のPCR解析からアナプラズマ症であると思われる。しかし、ウシの病状には牛肺疫を疑わせるものもあった。牛肺疫にかかったウシは死亡する直前に殺処分されるため、アフリカで同定されることはきわめてまれである。そこで、現地にホルマリンを常備し、いつでもサンプリングできる体制を整えた。もしアナプラズマ症と牛肺疫の不顕性感染が認められれば、アフリカのほとんどの地域で同様の事態が起こっていると考えた方がよく、家畜を使った労働は再検討する必要があろう。
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Research Products
(14 results)