2015 Fiscal Year Annual Research Report
中国周縁部における歴史の資源化に関する人類学的研究
Project/Area Number |
15H02615
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
塚田 誠之 国立民族学博物館, 研究戦略センター, 教授 (00207333)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
権 香淑 大阪経済法科大学, アジア研究所, 研究員 (00626484)
韓 敏 国立民族学博物館, 民族社会研究部, 教授 (10278038)
高山 陽子 亜細亜大学, 国際関係学部, 准教授 (20447147)
松本 ますみ 室蘭工業大学, ひと文科系領域, 教授 (30308564)
河合 洋尚 国立民族学博物館, 研究戦略センター, 助教 (30626312)
大野 旭 (楊海英) 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (40278651)
稲村 務 琉球大学, 法文学部, 教授 (50347126)
吉野 晃 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (60230786)
長谷川 清 文教大学, 文学部, 教授 (70208479)
松岡 正子 愛知大学, 現代中国学部, 教授 (70410561)
長沼 さやか 静岡大学, 人文社会科学部, 准教授 (80535568) [Withdrawn]
藤井 麻湖 (藤井真湖) 愛知淑徳大学, 交流文化学部, 教授 (90410828)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 文化人類学 / 中国 / 歴史 / 資源化 / 民族英雄 / 史跡 / 伝承 / 政府 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、中国における歴史の資源化について、(1)民族英雄とされる人物の顕彰のされ方や民族・地域社会の持つイメージと資源化の実態、(2)文物・史跡・景観といった可視的なモノや建造物の資源化の実態、(3)民間で記憶・記録され伝承されてきた歴史、の各問題領域において、現地での聞き取り調査や資料収集を通じて最新の実態を把握することを目的とした。 (1)について、岳飛についてはその廟が世界遺産に登録されるなど、地方政府・知識人さらに学校が資源化に関与している。他方、儂智高はベトナムで廟が新築され、民衆が英雄視し崇拝するが、政府による資源化が進行していない。また、政府や知識人が、回族の鄭和やモンゴル族のチンギス・ハーンを「民族の英雄」ではなく「中華民族の英雄」として位置付ける傾向にあることが判明した。 (2)について、四川の石楼や南京の烈士陵園は地方政府によって資源化されつつあるが、広西忻城や雲南西双版納の土司建築は資源化が十分に進行しておらず、政府や企業による歴史の価値付けに問題がある。なお、福建の客家の「祖地」の景観について、マレーシア華僑による景観建設への資金援助や一部の知識人によって「祖地」認識や「客家のルーツ」であるという自己意識を持つに至ったことが判明した。 (3)中朝国境では地方政府が国境と民俗の観光を進め、内モンゴルでは聖地オボが観光資源化されている。こうした動きを受けて延辺州で村長が村民の民俗の観光資源化に乗り出している。なお、歴史伝承の資源化について、ハニ(アカ)族の場合、村民が同じ伝承を持つとは限らないことや、ルーツ探しを通じて国境を越えるネットワークが形成されつつあることが判明した。 このように、地域・民族によって多少の違いがあるが、政府やそれに連なる知識人が歴史の資源化を進めている点など最新の実態を把握し今後の課題が明確になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、中国における歴史の資源化について、3つの問題領域において、聞き取り調査や資料収集を通じて最新の実態を把握することを目的としたが、現地での聞き取り調査や観察を経て、おおむね政府が中心となって歴史の資源化を進めていることが把握され、目的が達成され、今後の課題が明確になった。 このほか、中朝国境で国境や民俗を対象に観光化の動きが進んでいること、ハニ族の移住伝承に関してルーツ探しを通じて中国とラオス・タイ等との間で国境を越えるネットワークが形成されていること、さらに客家の自己意識の形成において華僑の影響を受容していることなど新たな知見が少なからず得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
中国の場合、政治の果たす役割が大きく、たとえば「民族英雄」の鄭和を、現在中国政府が進めている「一帯一路構想」を背景に中国と中東・アフリカをつなぐ海のシルクロードの英雄として政治的に位置付ける傾向が見られる。また、鄭和らは「中華民族の英雄」として扱うなど政治的な配慮が濃厚である。また、ヤオ(ミエン)族の文書の場合、ヤオ族はミエンを含むいくつもの支系から構成されているので、政治的にはミエンの文書をヤオ族全体の資源として位置付け難いものがある。 このように政府の力が強く、多民族国家としての中国に特徴的な事情があるが、今後、当初の計画にそって、可能な範囲内で、企業やマスメディア・民衆などの他の諸主体の動き、また隣接地域の場合など地域による相違に注目して現地調査を行うことで、歴史の資源化についてさらに掘り下げた理解を得ることが可能となる。
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Research Products
(37 results)