2015 Fiscal Year Annual Research Report
伝統的生産システムによる保存手法の研究-熱帯地域木造建造物保存の国際共同研究
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15H02636
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
上北 恭史 筑波大学, 芸術系, 教授 (00232736)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
稲葉 信子 筑波大学, 芸術系, 教授 (20356273)
下田 一太 筑波大学, 芸術系, 助教 (40386719)
小野 邦彦 サイバー大学, 総合情報学部, 教授 (50350426)
花里 利一 三重大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60134285)
佐藤 浩司 国立民族学博物館, 民族研究部, 准教授 (60215788)
吉田 正人 筑波大学, 芸術系, 教授 (60383460)
清水 郁郎 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (70424918)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | インドネシア / タイ / ラオス / 木造建造物 / 保存 / 慣習法 / バウォマタルオ村 / ナーンヤンタイ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年8月にインドネシア共和国ニアス島バウォマタルオ村における慣習法と伝統的家屋の保存・修理状況について調査を行った。また平成28年3月にタイのバンコク周辺に残る木造水辺集落の保存調査、およびラオスのルアンプラバン周辺の伝統的集落の保存調査を実施した。 バウォマタルオ村はこれまで本研究チームとの協議を経て、6月に村の保存規則を作成した。村に残る伝統的家屋の取り壊しを禁じているほか、慣習法を援用した罰則などを反映したものになっていた。また南ニアス県によって伝統的家屋3棟が修理され、家屋の所有者、修理を担当した大工にヒアリングを行った。これまで行われてきた村人の協働作業を取り込むことは難しく、修理業者(大工)の入札、市場における材料の調達、工期の短縮が行われていた。修理については本研究チームが提案した文化遺産の修理方法に準じて行われていたが、予算の都合で材料が本来使われていたものと異なる材料が使われたり、予算額の不足のために改修を予定していた箇所を変更せずに現状のままとされた事例が見られた。修理の方法に慣習法の方法を継承できていないために、保存手法に慣習法による手法を援用する必要性が確認された。 タイの水辺集落は河川や沿岸における生活様式と密接に結びついて形成されたのである。バンコク南部のアムパワーは本来果樹園の集積・出荷地として発展したが、集落後方の果樹園の衰退・宅地化、そして観光化によって本来の木造集落継承の意義が失われつつある。そのほかアユタヤ近郊の農村水辺集落も伝統的住居は残るものの、河川と関連していた生活様式は失われつつあり、伝統的住居も次第に少なくなりつつある。 ラオスのナーンヤン村は文化村として伝統的木造家屋が残るが、ゴム園のプランテーション開発のために周辺の森林資源を失っており、今後の伝統的住居の継承に問題を生じている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は平成28年度以降の予算から前倒しして予算を確保することにより、東南アジア諸国に残る伝統手木造集落の保存状況について調査を行うことができた。 インドネシアのバウォマタルオ村はこれまでの研究の蓄積をもとに、慣習の継承について具体的に調査を開始している。南ニアス県知事、バウォマタルオ村村長との協議により、保存規則、保存条例の策定に協力をしている。本年度は村の周辺に残る森林の調査を行い、木造建造物に使われている樹種の生息状況について確認した。ニアス島南部の島に生息する巨木はオモセブアの土台に使われている太い材料を算出するが、商業資本により伐採されつつある。調査対象地を村の周辺だけではなく、周辺の島にまで広げていく必要がある。 インドネシアは慣習についてadatと呼び、伝統的生活に継承されてきたのを認識しているが、タイやラオスの東南アジアでの調査対象地では住民の生活を強く縛るような規範の考えが希薄であった。政府による強い管理下に置かれている影響もあるが、コミュニティーよりも個人の考え方が尊重される傾向にあり、共同体の生活が崩れつつある。タイは近代的な生活様式が早くから取り入れられ、農業の機械化が進むと共同体を必要としなくなる。一度共同体の生活様式が崩れると、無形的な生活様式を把握することは難しくなる。ラオスのナーンヤン村はまさにこれまで継承してきた生活様式の転換点にあるといえる。村には大工がおらず男子が建築技術を代々継承している。現在父親の代は大工技術や材料の伐採方法、櫃割の方法などを継承しているが、息子の代の多くは村を離れているために、これらの無形的技術や知識の継承は難しい。
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Strategy for Future Research Activity |
バウォマタルオ村はこれまで研究を進めてきたために、人的、組織関係を維持しながら調査を進めていくことが可能である。さらに研究調査の成果を保存活動に反映させていくことも可能であり、慣習法を援用した新たな保存手法の開発を試みていくことを目指す。また平成27年度の研究において村の周辺の自然環境だけではなく、ニアス島の近辺に所在する島の森林も伝統的木造建造物の材料となっていることが分かり、これらの範囲にまで調査を広げる必要がある。平成27年12月に南ニアス県知事およびバウォマタルオ村長の選挙が行われており、新しい行政の指導者に村の保存の方針について説明し、本調査チームが今後も保存事業に協力していくことを確認する必要がある。 インドネシアにはまだバウォマタルオ村のように伝統的生活様式を残している集落が多く残り、スンバ民族やバタック民族の集落の保存状況と慣習生活の調査を進めていく必要がある。このため平成28年度以降は研究予算額と調整して調査対象地を選定し調査を実施する。 東南アジアのミャンマーに伝統的木造集落が残るが、これらの集落についてのデータは限られているため、今後の研究活動のために情報収集を行っていく。またタイ、ラオスについては必要に応じて追加調査を検討する。
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Research Products
(6 results)