2017 Fiscal Year Annual Research Report
Consevation methods of traditonal houses by local custmany practices -International cooperation reseach of wooden building conservation in tropical regions
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15H02636
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
上北 恭史 筑波大学, 芸術系, 教授 (00232736)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
稲葉 信子 筑波大学, 芸術系, 教授 (20356273)
小野 邦彦 サイバー大学, IT総合学部, 教授 (50350426)
花里 利一 三重大学, 工学研究科, 教授 (60134285)
佐藤 浩司 国立民族学博物館, 学術資源研究開発センター, 准教授 (60215788)
吉田 正人 筑波大学, 芸術系, 教授 (60383460)
清水 郁郎 芝浦工業大学, 建築学部, 教授 (70424918)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 伝統的生産システム / インドネシア / 木造建造物 / 慣習法 / バウォマタルオ村 / ニアス島 / フローレス島 / ロンボック島 |
Outline of Annual Research Achievements |
インドネシアをはじめ東南アジアの熱帯地域に残る歴史的建造物とその集落は、地域風土に根ざした慣習法(adat)や伝統的生産システムによって維持されてきたが、生活のグローバリゼーションによってこれらの伝統的生活様式は変容しつつある。本研究は、熱帯地域の民族の慣習からなる伝統的生産システムについて調査を行い、慣習法による伝統的相互扶助システムや木造建造物を構築してきた伝統技術、自然環境から得られる材料の循環的利用などの仕組みをとらえ、熱帯地域の木造建造物の保存に必要な新たな保存方法を探ることを目的にしている。 平成29年度には、インドネシア熱帯地域木造建造物集落の調査を行い、前年度から継続してきた北スマトラ州南ニアス県に残るバウォマタルオ村の調査を行い、さらにフローレス島、ロンボック島に残る伝統的集落の調査を行った。 ニアス島のバウォマタルオ村は2017年7月にインドネシア政府によって国の重要文化財に指定された。国の遺産に指定される以前から世界遺産の暫定リストに記載されていて、その文化的価値を高く評価されていた。しかしながら南ニアス県による保存条例についてはその原案ができているもののまだ成立しておらず、地元政府による文化遺産保存の体制は整っていない。 フローレス島には8つの民族が居住し、山間部を中心に伝統的集落が残る。また外国人観光客も多いため観光開発も積極的に行われている。マンガライ県ヌサテンガラではすでにもとにあった伝統的住居は失われていたが、観光開発のために復元された住居に住民が居住していた。復元はその他いくつかの場所で確認されたが、構法や伝統的な生活様式が失われているものも確認された。ンガダ県バジャワには草葺の高床式住居からなる伝統的集落が残り、観光収入を伝統的家屋の修繕にあてるなど慣習法を持続させている集落も確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年に行ったインドネシアのバウォマタルオ村は7月に国の重要文化財に指定されたが、県政府の保存条例の制定が遅れるなどの現状もあり、地元における保存体制の整備が求められている。保存条例のドラフトは文化遺産の指定の枠組みなどが記載されているだけで、伝統的家屋の保存修理における補助規定などは記載されていない。保存条例の次に作成される予定の保存計画、マスタープランなどに保存手法に関わる細則が記載されなければならない。本研究で明らかになってきたことは公共事業として保存事業が行われると、修理のための材料などは入札の手続きを経なければならず、これまで使われてきた村周辺の熱帯雨林に育っている木材資源の利用にはつながらない。村人はこれまで協力して周辺の熱帯雨林から木材を切り出し搬出して利用してきた。利用価値があるからこそ森林の保全やメンテナンスも行われるわけで、文化遺産として他地域の木材資源が使われるようになると、本来慣習生活でつながっていた伝統的家屋と周辺の森林環境の連携が切れてしまう。 本研究が目的にしている慣習法の要素を取りいれた保存手法は、村の周辺に残る森林との関連を保つために、材料の調達を入札ではなく、村周辺の森林資源から調達することをめざすものである。そのため保存計画やマスタープランに、村周辺の森林利用や村人が保有する木材の買上げなどの方法を提案していかなければならない。 また、ほとんどの伝統的家屋がサゴヤシの葉による草葺きからトタン板の屋根材に代えているが、サゴヤシはもともと食用で植えられていたものを利用してきたものであり、現在食用として植えられることはないためサゴヤシの葉を村内で調達することは難しい。補助事業の買上げ措置により村内でサゴヤシパネルの生産を計画することもできるが、補助事業で伝統的生産過程を復活させるのは行き過ぎの可能性があることを考慮しなければならない。
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Strategy for Future Research Activity |
フローレス島に残るンガダ県の伝統的集落ではまだ慣習法による伝統的家屋の維持が行われいることが確認された。これらの集落は観光客から徴収する入場料を修理に利用し、伝統的生活の継承に役立てていることから、外部資金を利用して伝統的家屋の維持をしている形式である。 バウォマタルオ村は慣習組織は存続するが、伝統的家屋の修理・維持は所有者で行われており、公共事業による補助を必要としている集落のタイプである。このような集落は、慣習組織の協力体制や生活規範は希薄化してきているので、文化遺産保存制度を運用することによって維持されなければならない。 フローレス島の伝統的集落とバウォマタルオ村の集落では、慣習法による保存を考える上でその手法は異なっている。慣習組織の関わり方、周辺自然環境との結びつき、伝統的建設技術の継承などの条件によって、保存の手法も異なってくると考えられる。 平成30年度は、保存計画に慣習法の要素を取り入れる方法を考え、バウォマタルオ村の保存計画を事例に保存計画のアウトランを提案し、バウォマタルオ村及び南ニアス県と議論を行い保存計画の諸条件を検討する。またバウォマタルオ村と同時期に国の文化遺産になったスマトラ島のジョロン・パダンを調査し、保存条例や保存計画について把握する。またインドネシアの世界遺産暫定リストに記載されているミナンカバウ文化の集落も比較事例として調査を行う。
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Research Products
(2 results)