2016 Fiscal Year Annual Research Report
ハナバチ送粉系の生態系機能の解明:植物群集の開花構造と形質進化
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15H02641
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
工藤 岳 北海道大学, 地球環境科学研究院, 准教授 (30221930)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
亀山 慶晃 東京農業大学, 地域環境科学部, 教授 (10447047)
市野 隆雄 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (20176291)
石井 博 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 准教授 (90463885)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 送粉系 / 高山植物 / ハナバチ / 開花フェノロジー / ハエ類 / 遺伝子流動 / 種内変異 / 形質進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
海外フィールド調査として、モンゴルのホスタイ国立公園で、6月、7月、8月にそれぞれ10~14日間のフィールド調査を行なった。前年に設置した20数箇所のプロットで、植物の開花状況と花生産の定量化を行い、花形態の観察、花色計測、ならびに訪花昆虫の組成と頻度の計測を行なった。植物群集の開花構造について、2年間のデータをもとに解析を行なった。 国内フィールド調査として、北海道大雪山系、中部山岳地域の乗鞍、美ヶ原、御岳ならびに立山で、花形態と開花フェノロジー、訪花昆虫相の調査を行った。標高傾度(ウツボグサ・サラシナショウマ・キツリフネを対象)や雪解け傾度(ミヤマキンバイ・ミヤマリンドウ・エゾコザクラ・ハクサンボウフウを対象)に沿った花形質、外部形態、フェノロジー特性の種内変異について明らかにするため、これまでに開発したマイクロサテライトマーカーを用いてエコタイプ・個体群間の分化や遺伝子流動、および自殖率の測定を行なった。 大雪山系に生育する主要対象種としてハエ媒花植物のミヤマキンバイ・ハクサンボウフウ・ハクサンイチゲ、ハチ媒花植物のミヤマリンドウ・エゾコザクラ・ヨツバシオガマを選定し、それぞれ20~30セットのマイクロサテライトマーカーを新たに開発した。開発した遺伝マーカーによる解析を順次進めている。 これまでに得られた成果は、学会で発表(19報)するとともに、順次学術論文として公表(5報)、あるいは投稿の準備を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
海外調査は予定通り順調に進んでいる。これまでの解析により、植物群集の花の形質群の組成が、地域の送粉者相の違いを反映して構築されていることを明らかにしつつある。また、植物群集の開花構造は、訪花昆虫相の中で社会性ハナバチのウェイトが高まるにつれて、明瞭な季節構造を有する傾向にあることが明らかにされつつある。 標高傾度に沿ったポリネーター組成変化に対応した植物の花形態や繁殖システムの種内変異の研究では、ウツボグサ、サラシナショウマ、キツリフネの3種でそれぞれ明瞭な遺伝的変異が検出されている。また、雪解け傾度に沿ったフェノロジー特性、形態形質、繁殖システムの研究では、ミヤマキンバイとミヤマリンドウで明瞭な遺伝的変異が生じていることが示された。 遺伝マーカーの開発と予備実験はほぼ完了した。野外調査とサンプリングも順次実施している。ミヤマキンバイについては、開花時期や生育地の違いを反映して繁殖様式や集団の遺伝的特性が変化していることが明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
新たな海外調査地として、台湾の高山帯に調査プロットを設置し、植物群集スケールの開花フェノロジー構造の定量化、花形質の計測、並びにポリネーターの組成と頻度の季節変動の観測を開始する。台湾へは、生育シーズンを通して3~4回の渡航を予定している。これまで継続してきたモンゴル高原における調査は、今年度は総括として開花シーズンピークの7月下旬から8月上旬にかけての1度のみの調査を行う。 国内の新たな調査地として、長野県開田高原の半自然草原でこれまでと同様のデータを採取する予定である。送粉者相と花形質群の組成を複数の群集間で比較することで、送粉者相の違いが植物の群集構造に与える影響を明らかにする。 標高傾度に沿った種内変異の研究は、ウツボグサについては新たな遺伝マーカーを開発し、それを用いて標高間分化の実態を明らかにする。サラシナショウマについては、検出されたエコタイプ間の繁殖様式の分化がなぜ生じたのかについて野外調査により明らかにする。キツリフネについては、新たな遺伝マーカーの開発を進めるとともに、調査地点数を増やして調査を行う。 大雪山系における雪解け傾度に沿った局所個体群間の遺伝構造・開花特性・形態形質の種内・種間変異の研究では、野外調査と遺伝解析を並行して進める。主要6種(ミヤマキンバイ・ハクサンボウフウ・ミヤマリンドウ・エゾコザクラ・ヨツバシオガマ・ハクサンイチゲ)の繁殖様式や集団遺伝学的特性を明らかにする。最終的には、ハエ媒植物とハチ媒植物の花粉流動、交配システム、形質変異に着目して研究成果を統合する。
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Research Products
(25 results)