2016 Fiscal Year Annual Research Report
被災地目線で検討するeデモクラシーに関する基礎的研究
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15H02790
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
河村 和徳 東北大学, 情報科学研究科, 准教授 (60306868)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三船 毅 中央大学, 経済学部, 教授 (00308800)
篠澤 和久 東北大学, 情報科学研究科, 准教授 (20211956)
堤 英敬 香川大学, 法学部, 教授 (20314908)
小川 芳樹 東北大学, 情報科学研究科, 教授 (20322977)
窪 俊一 東北大学, 情報科学研究科, 准教授 (50161659)
善教 将大 関西学院大学, 法学部, 准教授 (50625085)
湯淺 墾道 情報セキュリティ大学院大学, その他の研究科, 教授 (60389400)
菊地 朗 東北大学, 情報科学研究科, 准教授 (80177790)
和田 裕一 東北大学, 情報科学研究科, 准教授 (80312635)
坂田 邦子 東北大学, 情報科学研究科, 講師 (90376608)
長野 明子 東北大学, 情報科学研究科, 准教授 (90407883)
岡田 陽介 立教大学, 社会学部, 助教 (90748170)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 東日本大震災 / 選挙権年齢 / 移動支援 / 投票参加 / 民主制下での復興 / 原子力災害 / 意識調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年7月に行われた第24回参議院議員通常選挙に向け、選挙権年齢引き下げや共通投票所制度の導入といった制度改正が行われた。とりわけ、東日本大震災後の被災地選挙で積極的に行われた「交通の『足』をもたない有権者に対する移動支援」や「巡回型の期日前投票所の設置」に対する予算措置が明文化されたことは、被災地選挙の経験が制度創設に影響を与えた1つの事例として注目されるものであった。また2016年参院選は、東日本大震災被災地を含む東北六県の選挙結果が、全国的な傾向と異なり、与党が苦戦した点でも注目された。一般的には、政府に頼る有権者が多い被災地では与党志向が強くなると予想されるが、この予想を覆すものであった。 2016年度は、選挙環境の変化に注目して記述的な分析を行った。また、彼らの意識の中にある政治的な態度や、彼らの政治参加行動について明らかにするため、先行して実施された被災地有権者に対する意識調査データの分析を行った。ただし、先行した行われた調査の質問項目は、本研究の意図と異なる部分もあるため、2016年参院選の終了後、福島県の有権者を対象とする意識調査を実施した(これについては2017年度に分析する予定である)。 今年度の研究で大きな成果は、被災地と呼ばれる地域であっても、非被災者は存在し、原子力災害の避難者を受け入れている被災地の非被災者の中には、被災地全体の復興支援を望みながらも,原発事故避難者に対して「複雑な感情(原子力災害の被災者に対して同情する一方で、生活を賠償に依存することへの反発を同時に併せ持つ)」を持つ者がいることが明らかになった点である。民主制下で長期にわたって復興を進めるためには、被災者の民意を把握するだけではなく、非被災者の民意にも配慮する必要があり、研究結果から合意形成の難しさが改めて明らかになったことは収穫であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
福島県民に対する意識調査は研究計画よりも遅れて実施し、分析が次年度持ち越しとなった点はマイナスである。しかしながら、被災者と非被災者双方に意識調査を実施した取り組みはきわめて少なく、東日本大震災の復興過程を将来振り返るにあたって貴重なデータを収集できた。調査が遅れた原因は、研究計画時には予期しなかった制度変更(共通投票所の導入など)があったからである。ただし、研究を進めるにあたっては柔軟に対応でき、年度をまたがずに済んだ。 研究成果については、国内を中心に着実に発表できていると自己評価する。また、最終年度に研究成果を書籍化して社会に還元するのが一般的かと思われるが、本課題では最終年度を待たずに、『被災地選挙の諸相 現職落選ドミノの衝撃から2016年参院選まで(河村和徳・伊藤裕顕、河北新報出版センター、2017年)を上梓できた。 また本課題では、学術的な成果だけではなく、社会に対しても成果を既に還元できている。たとえば、都道府県選挙管理委員会連合会が刊行する『月刊選挙』に成果の一部を連載することで、選挙管理委員会事務局職員の知識向上に役立っている。また研究成果に基づいた講演を市町村アカデミーなどで行われる自治体職員研修で行うことで、選挙管理業務の改善に役立ててもらっている。 更に意識調査の結果は、平成29年度の早い時期を通じて新聞などで福島の有権者に対して知らせることが決まっている。 以上から、研究は順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度では、学術的な報告を積極的に進めるとともに、研究成果の社会還元に力を入れて進めていく予定である。東日本大震災から時間が経過し、被災者は少数派になり、政治的な発言力が弱まっていく。本課題では、多数決を基本ルールとする民主制の下で彼らの声を拾っていく仕組みを検討することを重視しており、その立場から少数になる被災者の声をヒアリングで拾うとともに、非被災者を含めた有権者全体の意向をサーヴェィで確認することで、そのギャップを明らかにしていきたいと考えている。 また研究を政策形成等に還元してもらうことから、地方自治体職員等などと積極的に交流を図り、情報共有に努めていきたいと思う。また研究拠点がある宮城県では、研究代表者なども参加する「みやぎ防災・減災円卓会議」が発足している。東日本大震災を経験した地元メディアと研究者、行政、市民団体などが連携し、震災 教訓の伝承や発信に取り組む組織である。こうした組織と情報交換したりしながら、被災地における合意形成のあり方、そしてそれに情報技術をどう組み合わせればいいのか、検討していきたいと思う。
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