2016 Fiscal Year Annual Research Report
視覚障害者のための触図に関する総合的な学習支援システムの開発
Project/Area Number |
15H02796
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Research Institution | Toyama Prefectural University |
Principal Investigator |
高木 昇 富山県立大学, 工学部, 教授 (50236197)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 教育工学 / 学習支援 / 障害者支援 / 触図 / コンピュータ支援システム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,(1)音声ガイド付触図作成システムの開発,(2)視覚障害者のための触図作成システムの開発,(3)晴眼者のための触図作成システムの実用化,の三課題から成る.H28年度には,主に課題(1)及び(2)について以下の研究を実施した. 課題(1):スマートフォンを用いた音声ガイド付触図システムを試作した.試作したシステムを元に,音声情報がどの程度触察を容易にするかの評価実験を行った.筑波技術大学に在籍する全盲の学生8名の協力を得て評価実験を実施した.その結果,主観評価,客観評価共に,音声ガイド付触図は従来の触図より有意に容易に触察できることが分かった.触図触察能力は,触図触察の経験量や学習経験に大きく依存すると考えられる.そこで,視覚障害者の触図触察時の指先動作解析を実施した.触図触察の熟達者と未熟者とでは,指先動作に大きな違いのあることが定量的に示された.この研究課題は触図触察の効果的な学習方法の検討へとつながる. 課題(2):問題点が以下の二点に集約される.①触知デバイスとして使用した点図ディスプレイDV2は,その触知面積が極めて小さく既存の触図を呈示できない,②触知ピン数が少ないため精緻な触図呈示が出来ない.H29年度には,大学に所属する全盲の物理学教員一人をユーザと定めたシステムを試作した.この物理学教員は,自身の講義で使用する補助教材をLaTeXで作成している.そこで,H28年度に試作したシステムにLaTeX翻訳機能を追加した.ここでは,LaTeXの図形コードを本システムでリアルタイムに描画できる,また,本システムで描画した図をリアルタイムにLaTeXコードに翻訳できる.全盲の物理学教員に試用して貰ったところ,LaTeXの図形表現能力が限定されていること,及びDV2の触知面積の小ささから,独力で図形を描画できるもののユーザインタフェースが優れているとは言えなかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要で述べた研究課題を実施したが,概ね順調に進んでいると評価できる. 課題(1):音声ガイド付触図システムは既に商品化または研究開発されている.しかし,申請者の知る範囲ではこのようなシステムを利用している視覚障害者はいない.我々は実用化の為にシステムが備えるべき条件を以下に定めた:①廉価であること,②既存の触図が利用可能であること,③両手で触察出来ること,④特別なデバイスを必要としないこと,⑤可搬性が高いこと.スマートフォンを用いてこれらの条件を満たす音声ガイド付触図システムを試作した.全盲の大学生8名の協力を得てその有効性を評価したところ,主観的・客観的に試作システムが従来の触図と比較して統計的に有意であることが分かった.試作したシステムの問題点は明らかにしているため,H29年度にはこれらの問題点の解決に努める. 課題(2):過去の研究成果から触知能力には視覚障害者個々の能力に大きく依存するという示唆がある.そこで,我々はユーザを大学に勤務する全盲の物理学教員一人に定めた.彼は自身の講義において補助教材をLaTeXで作成している.そこで,LaTeXとのインタラクティブな触図作成システムを開発した.このシステムは,H28年度に試作したシステムにLaTeX翻訳機能を付加したものである.試作したシステムを,全盲の物理学教員に評価してもらった.この評価結果をもとに,H29年度には更なる改善に努める.全盲のユーザを課程した図形記述言語を検討すると共に,新たな触知デバイスの可能性を検討する. 課題(3):この課題は,我々が過去中心的に実施した研究課題であり,従って既に技術的資産を保有している.H29年度にiPadとApple Pencilを用いた触図作成システムを開発できると判断する.
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Strategy for Future Research Activity |
各課題について今後の推進方策を述べる. 課題(1):H29年度では次の改善を実施する予定である.①可搬性の改善,②触図位置リアルタイム検出,③注釈用GUIの開発.①H28年度に試作したシステムでは可搬性は十分ではなかった.そこで,小型スタンドや反射ミラーを用いて,可搬性の高いシステムへの改善を目指す.②現在のシステムでは,触図は触察時に動かないよう固定する必要がある.通常,触図は固定して用いることはない.そこで,触図位置をリアルタイムに検出する機能を搭載する.③スマートフォンで取得した画像の各ピクセルに対して,音声ガイドのIDを割り当てる作業が必須である.この作業を支援するための注釈用GUIを開発する. 課題(2):以下の二点について検討する予定である.①LaTeXは元々テキストベースの組版ソフトであるため,図の描画機能は充実していない.そこで,H28年度の全盲物理学教員の協力を得ながら図形記述言語について検討する.図の概要はDV2を用いたシステムによりリアルタイムに確認できる.また,図の詳細については図形記述言語により編集可能である.②DV2に替わる大型触知デバイスの可能性を検討する.紙などを用いた従来の触図は静的であり図の詳細を伝えるのに十分とは言えない.コンピュータ制御可能な大型の触知デバイスの開発は重要な課題である.そこで,H29年度には,大型触知デバイスとして二つの可能性を検討する.まず,触知素材を柔軟なゴム製の素材を用い,空気圧により触知ピンの運動を制御するような触知デバイスを試作し,その有効性を検証する.二つ目は,指先にリニアモーター等により制御する触知ピンを装着し,この触知デバイスの位置を検出することで指先に触刺激を与えることで触図を呈示する方法である. 課題(3):iPadとApple Pencilをデバイスとしたシステムを開発する予定である.
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Research Products
(11 results)