2015 Fiscal Year Annual Research Report
地域環境汚染問題の解決過程に関する総合的研究‐福島原発事故問題を基軸に‐
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15H02872
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
藤川 賢 明治学院大学, 社会学部, 教授 (80308072)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
尾崎 寛直 東京経済大学, 経済学部, 准教授 (20385131)
堀畑 まなみ 桜美林大学, 総合科学系, 教授 (40348488)
土井 妙子 金沢大学, 学校教育系, 教授 (50447661)
片岡 直樹 東京経済大学, 現代法学部, 教授 (60161056)
除本 理史 大阪市立大学, 大学院経営学研究科, 教授 (60317906)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 福島原発事故 / 避難指示 / 放射能汚染 / 環境再生 / 地域再建 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年6月に政府は、福島原発事故にかかわる居住制限区域の避難指示を2017年3月末までに一斉解除すると公表した。その際に調査対象地域で、多数の住民と村当局とのやり取りに時間がかかり、その間、住民自身も先行きに関する確かな情報を得られなかったため、本研究も現地調査計画の一部を2016年度に繰り越した。 この政府方針によって帰還に向けた議論が加速した反面、現実の人口・産業等の復旧は進まず、集団ADRなどの補償問題にも停滞が見られる。また、この方針は「自主避難」への支援の打ち切りと深くかかわり、多面にわたる苦労を強いられている「自主避難者」がより厳しい状況に追い込まれる可能性がある。 本研究では、長期的なコミュニティ形成に向けた展望を得るため地域リーダーなどへのヒアリング等を重ねた。一斉避難を経験した区域の中でも、比較的線量が低い地域では帰還する人数もそれなりに多い。少子高齢化が進んだとはいえ、それでも長期的な希望をもちやすく、新しい果樹栽培や伝統芸能の復活など、目に見える成果にもつながっている。他方、それが難しい地域では、帰還した住民が農業を再開するにしても軌道修正しやすい、短期的な取り組みを重視せざるを得ない状況がある。この格差は、今後も拡大する可能性がある。 2015年度計画として行ったもう一つの柱は、放射線の不安をめぐる比較調査の枠組みづくりである。低線量の放射線による健康被害は、住民にとっては不安と危険をともなう選択を迫るものになる。マーシャル諸島のロンゲラップでは、ブラボー(ビキニ水爆)実験によって汚染された故郷に帰島するかどうか、今も住民の間で切実な議論が続いている。多くの科学者が否定してもぬぐい切れない低線量被ばくによる健康影響は、アメリカの核開発関連地域でも広くみられる。これらの不安は、個人的なものと考えられがちだが、地理や歴史を超えた共通点もある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
居住制限区域の避難指示解除については、いくつかの自治体から疑問が示されたものの、結果として2017年4月1日までにほぼ全域で帰還が開始された。ただし、国としての帰還政策と各自治体ないし集落単位での動きとの間のギャップが拡大しつつある。復興を人口だけで測れば、除染や放射性廃棄物にかかわる施設を建設し、関連する流入人口を期待することもあるが、それは各集落にとっての「ふるさとの再生」にはならない。また、中心集落と周辺部集落との状況の違いも出てくる。現実の課題として、広大な汚染土壌「仮仮置き場」の存在も農業再生の大きな支障になっている。この経緯は、原発事故による地域復興がいかに長期的な取りくみになるかを再確認させるものである。とりわけ、年少人口の減少は厳しく、学校の再編も課題になりつつある。汚染源企業や行政の責任を含めて、「環境再生・地域再建の維持可能性」の課題に向けて、取り組みを強化していきたい。 その点でも、アメリカなどとの比較研究は重要である。たとえば、マンハッタン計画の一翼を担ったハンフォードでは、1987年に広域的な汚染が公表され、地域再生事業が始まったが、その目標年度にあたる現在、達成度はほぼ半分だと言われている。この経緯や地域住民への影響などから、今後の研究課題を再検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
「環境再生・地域再建の維持可能性」にかかわる今後の研究計画を進める。関連する留意点としては、上記の通り、一つは、地区ごとの違いを意識して居住者にとっての地域再建を明らかにしていくことである。帰還する人は圧倒的に50~70代にかたよることから、長期的な見通しを含めて考察していきたい。あわせて「自主避難」せざるを得ない人、現在も定住先を決めかねている人などの生活再建も重要である。 地域ごとの事情に関しては、とりわけ地域外避難者との協力も重要である。二重住民票などによる「長期避難」は避難指示の設置当時から多くの社会学者などが提案したものの、実現はしなかった。だが、少子高齢化によって長期的な維持が危ぶまれている地域では、それに似た構想も浮かぶ。人口が急減した地域では、生活拠点は地域外に新たに立てるけれども家・田畑・墓地などのつながりを残しておきたいと考える人たちとの協力が重要性を増すと思われる。いつかは生まれ故郷に帰りたいと希望する小中高校生も、わずかながら存在する。協力関係の確立・維持は簡単ではないが、何らかの制度的な支援などを考える意味は小さくないと思われる。 関連する国外の先行例として、マーシャルでは、出身の島が個人のアイデンティティに深くかかわる伝統もあって、世代を超えて、故郷の島の文化や制度を伝える試みが今も続いている。ハンフォードなどアメリカでは、地域再建にかかわる新たな街の住民の多くは外部流入者だが、先住民に関してはマーシャルと同様に伝統の系譜が重要課題になっている。また、核開発時代の技術者なども含めた歴史の世代継承の動きも垣間見える。こうした経験が福島とどうかかわるかは、放射能と原子力開発にかかわる国際的な議論にもつながるだろう。 この点では、学際的な検討が必要であり、そのための研究・情報交流にも努めていきたい。
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Research Products
(6 results)