2016 Fiscal Year Annual Research Report
展示映像のアーカイブのための記録・保存・再現のシステム構築
Project/Area Number |
15H02875
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
脇山 真治 九州大学, 芸術工学研究院, 教授 (00315152)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 展示映像 / アーカイブ / 博覧会 / 博物館 / マルチ映像 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は博覧会や博物館等で制作された「展示映像」を再現可能な(擬似的再現も含む)状態で保存するためのシステムを構築することが目的である。平成28年度は、既に上映が終了した展示映像の発掘を継続すると同時にその再現を保障するシステム構築をすすめ、実験的検証をめざした。 年度内の調査において存在が明らかになった展示映像は(1)『JL002東京~サンフランシスコ』科学技術館、360度9面全周映像(サーキノ)、1970年代。(2)『日本・人と自然』1974年スポーケン国際博覧会(日本館)3面マルチ映像。(3)『新しい北海道』北海道開拓記念館(現北海道博物館)6面マルチ映像、1980年代。(4)『マリンフラワーズ』1975年沖縄海洋博覧会(海洋博ホール)3面マルチ映像。(5)『未来への挑戦~渋沢栄一物語~』1988年さいたま博覧会(渋沢栄一館)3面マルチ映像等である。本研究で構築した再現システムは、28年度内においては6画面までの同期上映システムであるため、確認した展示映像のうち、映像データの調整作業が終わった(3)(4)(5)の3作品である。 3面マルチ映像は本研究で特注した120吋スクリーン3枚、映像の同期送出システム(アールシー社MMC7420)、BenQプロジェクタによって再現を確認した。(3)は6面を要する作品であるがスクリーンの構成ができていないため、年度内の再現確認はできていない。再現実験では、オリジナルのスケールや当時の上映空間の環境デザインを復元することはできないが、映像コンテンツ自体は、ほぼ完璧な同期状態で上映ができることを確認した。後年の研究者や制作者の参考資料として有効に機能することが期待される。 また本研究の延長として、今年度までの実績をもとにJSTの科学技術コミュニケーション推進事業に応募したことはひとつの成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の年度目標は3つある。(1)公開前提の「展示映像」保存の形式と方法の検討。これは導入済みの映像同期再生システムを活用することで、比較的に簡便に上映が可能であることを確認した。すでに6面までの再現システムを開発・構築することができたため、国内外でももっとも多く制作されている3面マルチ映像の再現は確実に行えることになった。(2)具体的な再現方針の策定。かつての作品のほとんどはフィルムだが、展示映像ではすでにフィルム撮影・フィルム上映はなされていない。したがってデジタル化とデジタルデータの保存、再現が必須となっている。国内最大手のフィルム~デジタル化の専門会社「イマジカ」との協働により、本研究で収集したフィルムはデジタル化作業が進んでいる。これは次年度にも引き継がれる。また計画ではプラネタリウムでの議事再現の可能性について検討することにしているが、平成29年10月に開館予定の福岡市科学館において実験する計画を構想している。(3)日本展示学会での中間報告。すでに「展示映像はなぜ保存されないのか」で査読申請中であり、中間報告として成果をまとめている。 平成28年度の進捗のうち、前年度からの継続調査については、当初予定になかった成果もみられる。代表的なものは東京の科学技術館において開館以降およそ20年間上映されてきたサーキノ=360度全周映像のフィルム原版の存在を確認したことである。制作会社はすでに倒産したが、そのフィルムは奇跡的に東京国立近代美術館フィルムセンターに残されていた。まだセンターには登録されていないため、リスト検索ではなく実地に「フィルム缶票」を目視調査した結果、現存することが確認された。音声は現時点では見つかっていない。そのフィルムは著作権等をクリアした後にデジタルデータ化され、本研究の成果として九州大学にて保存している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は失われつつある「展示映像」を調査して救済し永続的にアーカイブすること、ならびにその作品は何らかの方法で再現可能な状態で保存することをめざし、そのために必要な「記録・保存・再現」のためのシステムを構築することである。システム構築とは、上映機材や再現制御機材といったハードだけではなく、保存指針や管理方法といった制度上のシステムも含んでいる。 本研究の基盤はわが国が参画したかつての国際博覧会や1960年代以降に建設あるいはリニューアルした博物館のために制作された「展示映像」の所在を調査し、保存の実態を明らかにすることから始めなくてはならない。したがって次年度もこの調査を継続しながら、再現可能なシステム構築を前提にした保存方法を検討することになる。平成28年度に予定していたヘッドマウントディスプレイによる擬似的な再現の検討は、必ずしも十分でなかったために次年度も引き続き検討する。 次年度には本研究の目標としてあげている「展示映像アーカイブセンター」の設置を目指して、これまでの成果をまとめながら、継続的な展示映像の収集、保存を社会的な活動として広めるために、学会での発表や大学からの記者会見等の機会を活用して、本研究成果や将来構想を発信していきたい。 本研究の成否は、単に学術的な側面だけでなく展示映像に関わる企業、自治体、博物館等の組織などの関与が不可欠である。したがって当初の研究計画に掲載している東京国立近代美術館フィルムセンターや福岡市総合図書館(福岡フィルムセンター)とも連携しながら推進していく計画である。すでにJSTの「科学技術コミュニケーション推進事業」へは「展示映像の総合アーカイブ推進」計画を提出しているが、採択の可否に関わらず、展示映像の保存の意義について社会に問うていくことが必要と考えている。
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Remarks |
このサイトには小職の研究概要と共に「展示映像アーカイブ」についての成果の一部を掲載している。
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