2016 Fiscal Year Annual Research Report
トレハロース法による海底遺跡出土文化財の保存処理研究-自然エネルギー利用に向けて
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15H02952
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Research Institution | 公益財団法人大阪市博物館協会(大阪文化財研究所、大阪歴史博物館、大阪市立美術館、大阪市立東洋陶磁美術 |
Principal Investigator |
伊藤 幸司 公益財団法人大阪市博物館協会(大阪文化財研究所、大阪歴史博物館、大阪市立美術館、, 大阪文化財研究所, 室長 (50344354)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | トレハロース / 海底遺跡出土文化財 / 自然エネルギー |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、海底遺跡出土文化財の安全で経済的な保存処理方法の必要性が高まっている。トレハロース含浸処理法は鉄イオンを安定化して吸湿を防ぎ、長期に安定した状態を保つと考えられている。本研究では、長崎県松浦市鷹島海底遺跡出土文化財の保存処理をモデルケースとして、省エネルギー・省コストで効率よく安全に保存処理を進めるためのシステムを構築することを目的としている。 28年度は太陽熱集熱式含浸処理装置(試作機)を製作、鷹島埋蔵文化財センターに設置した。太陽熱集熱装置は、太陽光発電システムと比べ安価であり、性能も非常に熱効率の良い真空管式が開発されている。この装置を採用し、小型の含浸処理槽と組み合わせた独自の含浸処理装置を製作、設置し稼働を開始している。また、昨年導入した廃液再生装置については実際に稼働し、予想を上回る量の再生液が回収できており、良好な結果を得ている。 これらの研究成果については、日本文化財科学会(於:奈良大学)、WOAM(国際博物館会議出土水浸木製文化財保存専門会議、於:イタリアフィレンツェ)で発表を、トレハロース含浸処理法研究会(於:大阪)では実習を含む研修を行った。さらに、モンゴルにおける乾燥・半乾燥木製品保存処理研究プロジェクトを立ち上げ、モンゴル科学アカデミー考古学研究所等を訪問し、モンゴル出土木製文化財へのトレハロース含浸処理法の適応性を調査、予備的な実験及び現地研究者への技術移転も行うなど、共同研究を開始した。また、タイ王国文化省美術部国立博物館より2度にわたって招聘され、現地でトレハロース含浸処理法に関する講演ならびに保存処理の技術指導を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度に予定していた太陽熱集熱式含浸処理装置(試作機)の製作と設置、トレハロース廃液再生装置の稼働については順調に進めることができている。太陽熱集熱式含浸処理装置については当初計画で大阪文化財研究所に設置予定であったが、海底遺跡出土遺物の保存を目的にしていることから、将来的に鷹島海底遺跡出土木製文化財の保存処理体制を確立することを念頭に置いて、鷹島埋蔵文化財センターへ設置した。 また、トレハロース含浸処理法について、国内外の保存処理担当者からの要請が高まっている。これまで継続して日本文化財科学会やWOAM等の国際学会、トレハロース含浸処理法研究会を通じ、研究成果を広く公開してきたことが実を結んでいる。情報をオープンにし、多くの方に実践していただくことも当研究の大きな目的であり、当初の予定以上に達成できていると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
海底遺跡出土文化財への適応研究については、鷹島海底遺跡出土文化財への含浸処理実験を継続して行い、得られたデータから以後の保存処理実施に向け、その有効性を評価する。 太陽熱集熱式含浸処理装置(試作機)については、稼働試験を行う。同試験では含浸処理装置内の温度の安定性や消費電力の測定、制御機器の調整など、実用機の製作を念頭に置いたデータの収集を行う。 トレハロース廃液再生装置については、良好な結果を得られていることから、同様の装置を鷹島埋蔵文化財センターにも設置、使用して有効性を検討する予定である。
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Research Products
(8 results)