2016 Fiscal Year Annual Research Report
脳梗塞からの回復過程における神経回路機能再編と運動負荷および運動制限の役割解明
Project/Area Number |
15H03046
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
石橋 仁 北里大学, 医療衛生学部, 教授 (50311874)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
江藤 圭 生理学研究所, 基盤神経科学研究領域, 助教 (30545257)
小島 史章 北里大学, 医療衛生学部, 准教授 (30550545)
秋田 久直 北里大学, 医療衛生学部, 准教授 (70118777)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 脳・神経 / 生理学 / 神経科学 / リハビリテーション科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
脳卒中は脳梗塞や脳出血などの脳血管障害による疾患であり、言語障害、運動障害など多様な神経症状を伴う。これらの症状に対してリハビリテーションが行われるが、旧来のリハビリテーションアプローチは、脳卒中後の残存機能による代償手段の獲得が中心であり、いったん失われた機能は元に戻らないことを前提に行われていた。一方、最近のイメージング技術の発展に伴って、適切なリハビリテーションによって、脳神経回路が再編成されて、機能が回復することが示唆されている。しかし、その回復メカニズムは分かっていない。そこで、本研究では、脳梗塞モデル動物を用い、大脳皮質に生じた脳梗塞によって生じる神経回路再編成とそのメカニズムを解明すると共に、それに対する運動負荷および運動抑制の効果を検討して、リハビリテーションによる機能回復と脳神経回路機能再編成との連関を明らかにすることを目的としている。 平成27年度に脳梗塞モデルとして、脳内、特に大脳皮質にエンドセリンを微量注入することにより、比較的安定して脳梗塞を作製できることが明らかになったので、平成28年度は脳梗塞モデルの特性を明らかにすることを目的に検討を行った。その結果、エンドセリン投与群では左右前肢使用率に有意な変化が認められた。これは、姿勢を維持するために脳梗塞の影響を受けていない前肢を多く使用したために、脳梗塞の影響を受けた前肢の使用率が低下した結果であると考えられた。また、エンドセリンの投与量と脳梗塞領域の関係、梗塞領域の面積と運動機能障害等との関連性の解明についても検討課題として研究を遂行し、興味深い結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
強力な血管収縮作用を有するエンドセリンを右大脳皮質運動野に微量注入し、脳梗塞が安定して作成出来るか否か検討したところ、平成27年度に行ったローズベンガルの場合と比較して、注入部位に限局して脳梗塞ができることがわかった。また、梗塞範囲も注入量にある程度依存していることが示唆された。なお、本研究では、エンドセリンを溶解させるために0.1%酢酸を使用したが、0.1%酢酸自体の注入では脳梗塞はできなかった。エンドセリンの微量注入により脳梗塞を確実に誘発できることがわかったので、エンドセリンにより脳梗塞を作製した後の運動機能について検討した。シリンダーテストを用いて前肢機能試験を行い、梗塞部位とは対側となる左前肢の使用率について右前肢の使用率と比較した。エンドセリン投与群で、左右前肢使用率に有意な変化が認められた。これは、姿勢を維持するために、脳梗塞の影響を受けていない前肢がシリンダーテストにおける壁面タッチの回数を多くしたことにより、脳梗塞の影響を受けていない前肢の使用率が低下したためと考えられた。一方、この運動機能の障害の程度については、個々の動物でばらつきが大きく一定の傾向はつかめなかった。このため、シリンダーテスト後にTTC染色を行って、脳梗塞領域を可視化したところ、脳梗塞の大きさではなく、脳梗塞が生じた部位と運動機能障害の程度が関連する傾向が示唆された。すなわち、障害面積に関係なく、運動野が障害されていれば運動機能に影響が及ぶことが確認された。以上より、エンドセリンを運動野M1に注入することにより血管収縮を起因とした局所的な脳梗塞を生じさせるとで、脳虚血の研究が可能なモデルとなっていることが確認され、今後の行動解析を用いた研究に利用できることがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
エンドセリンを大脳皮質内に直接投与することによって、局所脳梗塞を比較的安定して作成できることが明らかとなったので、平成29年度はエンドセリン投与により作製した脳梗塞モデル動物の特性、特に運動機能について明らかにしたいと考えている。運動機能テストとしては、シリンダーテストやロータロッドテストを用いて、運動機能障害の程度と脳梗塞の程度に関連があるか否か明らかにする。平成28年度は、エンドセリンの注入から1週間後に運動機能検査を行ったので、今後は2~3週間後にも運動の検査を行い、今後のリハビリの効果にむけた基礎データを収集したいと考えている。また、神経細胞の活動変化を検討するため、再初期遺伝子c-fos の発現を検討することにより、局所脳梗塞やその後の時間経過により活動が活発になる領域や逆に活動が低下する領域の検討を行う。これらの検討をもとに、脳梗塞後の運動機能変化に関する責任脳部位を明らかにし、生化学的検討や電気生理学的検討を行って当該部位で生じている神経回路機能の変化について検討する。電気生理学的検討では、パッチクランプ法を用い、a)ニューロンの静止電位と発火パターン、b)入力 vs 出力関係、c)フィードフォワード抑制、d)細胞内塩化物イオン濃度の変化、について検討する。これらの検討に基づいて、神経機能再編のより詳細なメカニズムについて解明したいと考えている。
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Research Products
(5 results)