2015 Fiscal Year Annual Research Report
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15H03068
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
近藤 良享 中京大学, スポーツ科学部, 教授 (00153734)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ドーピング防止 / 非RTP選手 / 学生/選手 / 無知のドーピング |
Outline of Annual Research Achievements |
今日の日本では一流競技選手(RTPA)だけがドーピング検査の対象であるが、ドーピング検査を受けないレベルの学生/選手に対してドーピングの正しい知識や価値観を教育しないと数々の事件を引き起こす可能性がある。毎年、国内外においてドーピング違反関連の事件が起こっているが、本年度はカナダの一流大学の元学生/選手事件に焦点をあてた。事例としたカナダ・ウォータールー大学のドーピング事件は、アメリカンフットボール部の部員が薬のバイヤーとなって禁止薬物を部員らに供給した事件である。この事件を受けて大学側とカナダ・ドーピング防止機構がそれぞれ調査を実施し報告書を出した。2つの調査委員会の提言をまとめると以下のようである。①ドーピング防止教育と倫理的意思決定の教育は、すべてのスポーツに参加する選手らに焦点をあて、州や地域の教育機関のカリキュラムに組み込まれ、また、身体イメージやドーピングに特化した健康教育は、すべての学生に実施されるべきである。②ドーピング防止教育は、コーチ、トレーナー、スタッフらの必須にすべきである。③フットボール選手へのドーピング検査対象を年間2,3%から30%に増やし、特定選手への検査を強化すべきである。④ドーピングの情報を入手するために専用窓口とウエブ上の報告ツールを創設すべきである。⑤選手個人の資格停止処分に留まらず、チームや所属機関も処分を行うべきである。⑥ドーピング防止関連団体間の経費負担について合意形成をすべきである。 カナダのドーピング事件への大学側、国内ドーピング防止機構の対応は、個人の権利に配慮しながらも厳格、厳罰化の方向が明確である。だが、大学というのは、本来、学びの場であり、それを疑いと監視の場にすべきではない。よって、第一義的にドーピング防止のための教育的手段について検討し、学生/選手を真のスポーツパーソンとして涵養すべきであると結論づけられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、世界各国の学生/選手に係るドーピング不祥事、事件の収集と当該国のドーピング防止教育の現状把握を行うことであった。そのために3つの課題を設定した。最初は、カナダのウォータールー大学のドーピング事件に着目し、その事件の概要と対応について詳しく分析を行った。この事件からはあらゆる機会を利用して、ドーピング防止教育、啓蒙活動を実施することが必要なだけではなく、単なる形式的、ルーティン化した対策では効果はないことが判明した。特に、毎年学生が入れ替わる(卒業・入学する)大学体育会では、定期的、繰り返しのドーピング防止教育プログラムが求められる。 2番目の課題は、平成22年度から平成27年度までの6年間、毎年実施しているC大学のアンチ・ドーピング意識調査を経年的にまとめ、その特徴をとりまとめる課題であった。この課題については、現在、調査済の用紙が委託業者によって入力作業中である。それが終了してから経年的な特徴、特に高等学校の保健体育教科書に「ドーピング」項目が登場したが、その学習成果がどのように現れているかに注目して考察する。 3番目の課題については、諸外国のドーピング防止教育・啓発活動の情報収集のために研究者ネットワークを構築中であり、その構築が終えれば、日本で行っているアンチ・ドーピング意識調査を英語版に翻訳して、国際比較を行う予定である。しかし、現在は、諸外国における調査内容の検討と予備調査としての調査用紙の翻訳を行っている段階である。 以上のように、本年度に計画した3つの課題、すなわち、①外国のドーピング事件を取りあげて分析すること、②我が国の大学生が抱く「アンチ・ドーピング意識」の調査の特徴分析、③諸外国との調査比較の準備を行うなど、本研究は、ほぼ予定通りに進捗していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、ほぼ計画通りに研究を進めることができた。次年度にむけて、現在準備中の諸外国で実施するための「アンチ・ドーピング意識調査」の英語版を完成させ、研究者ネットワークを利用して調査を実施する。この調査と平行して、調査の当該国におけるアンチ・ドーピング教育活動に関する資料を収集して分析する。 また、各国で起こったドーピング事件やそれへの対応策を収集し、本年度で分析したカナダの事例の他、各国がどのようにドーピング問題への対応を行っているかを明らかにしていく。特に、各国のNOCが指定するドーピング検査対象者(RTP)と非対象者との教育・啓蒙活動について調査する。非RTP選手は、新聞やネットによる情報以外に、ほとんどドーピングに関わる情報提供や防止教育を受けていない可能性がある。低年齢の未成年が一流となりうる競技種目においては、選手よりも指導者レベルのドーピング防止教育が必要と考えられる。しかし本研究では、基礎研究として、まず各国のドーピング防止教育の実態を把握することを主眼に研究を進めていく。
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