2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15H03068
|
Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
近藤 良享 中京大学, スポーツ科学部, 教授 (00153734)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | ドーピング防止教育 / 非RTP選手 / 学生/選手 / 無知のドーピング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は学生/選手のドーピング防止教育の基礎研究を行うことである。現状では登録検査対象(RTP)選手だけがドーピング検査の対象であるが、検査を受けないレベルの学生/選手であっても、無意図・確信を問わず、ドーピング検査の実施によって、ドーピングとなる可能性はある。世界のドーピング防止を主導するWADAの施策が明確ではなく、スポーツ界全体の薬物根絶か、特定スポーツ、特定レベル選手をターゲットにするかが明確ではないため、RTP選手だけを対象にしている。 このような問題背景に、本研究はドーピング検査を受けるレベルにない学生/選手を対象にしたドーピング防止教育の構築を目的とした。本年度は、C大学における「ドーピングに関する意識調査」の3年間の結果を踏まえて現状を把握した。具体的には、平成26-28年の3年間調査の平均で、たとえば「ドーピング行為の認否について」は、「一定条件が整えばドーピングは問題ない」と回答する学生が14.8%である。「ドーピングに関する情報について」は、「十分に得られている」「相当に得ている」と回答した学生を合わせてもわずか1%に留まる。さらに「サプリメント使用のドーピング可能性について」も、「可能性は小さい」、「可能性はまったくない」との回答は12.8%であり、それに「わからない」は20%もあり、正しく理解しているとは言えない。3年間で延べ人数1,629名の学生への調査結果から、ドーピングに関する知識・情報源が、高等学校の保健体育授業と回答した学生は、平成26年の40.8%から平成28年の48.6%へと増加している。 これらのことから、少なくとも非RTP選手へのドーピング防止教育が十分とは言えない状況が確認でき、今後、他の関連領域との連携を取りながら対策を講じる必要が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は学生/選手のドーピング防止教育の基礎研究、特にドーピング検査を受けるレベルにない学生/選手を対象にしたドーピング防止教育の構築を目的としている。 研究期間の2年目にあたる平成28年度は、前年度に収集した学生/選手のドーピングに係る問題事例の分析を進めた。特に、2010年に発生したウォータールー大学事件は、詳細な調査報告書(CCES Task Force (2011)を翻訳分析して、その調査報告書からドーピングに学生/選手が関与する諸条件がいくつか抽出できた。 2番目の課題である諸外国の主に非RTPの学生/選手へのドーピング防止のための教育・啓発活動に関する情報・資料収集を行った。 3番目の課題は、国際比較調査の準備をすすめ、学生/選手のドーピング意識調査の内容項目を決定し、その具体的な調査手順を計画した。具体的には調査用紙の英語版も作成し、現在、研究対象者の募集を他国の研究者に依頼している段階である。この調査が実施されれば、過去数年間に蓄積された日本の学生/選手との比較検討が進められ、日本独自のドーピング問題とその防止教育への貴重な基礎資料となる。 以上のように、学生/選手の問題事例の分析が進められ、新たに非RTPの学生/選手へのドーピング防止教育のための資料を収集した。さらに平成29年度に実施予定である、「ドーピングに関する意識調査(英語版)」の準備が整い、日本の学生/選手との比較検討に進める段階に来ている。よって、本研究課題は、ほぼ予定通りに進捗していると判断できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究は学生/選手のドーピング防止教育の基礎研究、特にドーピング検査を受けるレベルにない学生/選手を対象にしたドーピング防止教育の構築を目的としている。 今年度〈平成28年度)は研究期間の2年目にあたり、ほぼ計画通りに研究をすすめることができた。3つの課題のそれぞれに一定の成果が認められるし、次年度〈平成29年度)に向けた国際比較研究の準備も整った。 平成29年度は、まず、学生/選手へのドーピング防止教育のために、その基盤となるスポーツ哲学、スポーツ倫理学、スポーツ教育学に関する海外研究者を複数招聘して、多くの知見を提供してもらう予定である。 次に、いくつかの国での学生/選手に対する「ドーピングに関する意識調査」を実施して、数年間に蓄積した日本の学生/選手の調査結果との比較検討を行い、それを学会において結果を公表する。 さらには、WADA〈世界アンチ・ドーピング機構)のドーピング施策についても、ドーピング検査強化による、罰則強化、居場所情報および1時間枠設定、未成年者への親権者同意規程など、個々の施策についても批判的検討を行うことを予定している。選手に対するドーピング違反を捜査、発見、厳罰よりも、選手の健康管理に方針をシフトすることも視野に入れられる。そうすることで、現在のドーピングコントロールではなく、医学的な健康診断による競技に適した身体を根拠にして、より安全に競技ができる環境が整うと考えられる。こうしたWADAの施策への論点も次年度以降は研究の論点としていく。
|