2016 Fiscal Year Annual Research Report
教員による実施可能な精神保健リテラシー教育の開発普及と思春期精神疾患予防の促進
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15H03083
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐々木 司 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 教授 (50235256)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大沼 久美子 女子栄養大学, 栄養学部, 准教授 (00581216)
布山 毅 東京藝術大学, 大学院映像研究科, 教授 (10336654)
西田 淳志 公益財団法人東京都医学総合研究所, 精神行動医学研究分野, プロジェクトリーダー (20510598)
安藤 俊太郎 公益財団法人東京都医学総合研究所, 精神行動医学研究分野, 研究員 (20616784)
大島 紀人 東京大学, 学生相談ネットワーク本部, 講師 (70401106)
三木 とみ子 女子栄養大学, 栄養学部, 客員教授 (80327957)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 精神保健リテラシー / 思春期 / 児童生徒 / 早期発見 / 学校 / 教員 / 保護者 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、小中高の児童生徒の精神保健向上と精神疾患対策に役立つ授業プログラムを開発し、その効果を検証することにある。精神疾患は10代で急増するため、この時期の精神疾患教育は極めて重要である。プログラムは、時間と予算に乏しい我が国の学校での実施可能性を高めるため、小学校用は45分1回、中高用は50分2回(または1回)と短くし、かつ外からの専門家でなく、その学校の教員が実施できるよう教材や指導書などを工夫した。また短くても有効性を確保できるようアニメを中心に質の高い映像教材を準備した。効果検証には授業前後と3か月後のアンケート調査を用いた。これまで100校以上で授業を実施し、精神疾患の知識、援助希求の必要性への認識・意識などの授業後の有意な改善が確認された。 この検証をより確実・詳細なものとするため、対照クラスの設定、地域や学校、学年による効果の違いの検討を試みた。対照クラスの設定は残念ながら現在の日本の学校では抵抗が大きく、たまたま研究と実証に関する理解の高い教員のいた高校1校のみで、授業の実施時期をずらすデザインで実施できた。学年による効果の違いは、複数の学校での小学校5・6年での効果比較を行い、6年生の方が5年生より有意に効果の高いことが示された。また中高生のみでなく小学生でも、実施直後のみでなく3か月後でも効果は有意であることが確認された。なお地域や学校の特徴の影響は、今後の検討課題として残っている。 またこの教育を早期発見・早期対処を含む予防の実践に役立てるためには、周りの大人、特に教員と保護者の精神保健リテラシーも、子ども達と同様に高める必要がある。このための教育プログラム開発を進め、特に教員については講習会の実施、それに用いるアニメ教材の作成を行った。効果検証のための質問紙調査(プログラム実施前後で実施)について、現在解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
小学生を対象にした効果検証で、授業プログラム実施3か月後にも効果が継続して見られたことが確認され、また学年による有意な効果の違いを確認するなど、今後の精神保健教育の広がりに向けての重要な知見を見出すことができた(成果は国際誌に投稿し、現在査読結果をもとに修正中)。一方で、地域・学校の特徴による効果の違いは今後の検討課題として残っている。また対照クラスの設定は高校1校で複数年にわたり実現できたものの(現在国際誌への投稿準備中)、対照設定を他の学校にどのように広げていくかが課題として残っている。また、周囲の大人への精神保健リテラシー教育プログラムは、教員向けのものを中心にプログラム作成を進めているが、その改善と効果検証はこれからの課題として残っている。この課題は非常に大きな課題であり、今後の継続的取り組みが必要であることが明確となった。
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Strategy for Future Research Activity |
児童生徒向けの授業プログラムをさらに多くの学校で実施するとともに、可能な限り、実施各校の地域特徴・学校の特徴についての情報を収集し、どのような特徴が授業の効果に影響するか、それらの影響と実施学年との関係などを解析し、今後、精神保健・精神疾患授業を実施する上で考慮すべき知見を明らかにする。直近の指導要領改定案で、高校における精神疾患授業が今後正式採用される可能性が高いことを考えると、これは喫緊の課題である。 またこれまでの研究活動を通じて現在の学校文化では対照設定が容易でないことが分かったが、今後厳密な効果検証を進めるには対照設定は不可欠であり、これを我が国の学校と学校教員にどのように理解してもらえるかの検討も別途必要である。 周囲の大人の精神保健リテラシー向上のためのプログラム開発については、まだ始められたばかりであり、今後の大きな課題として研究を進めていく必要がある。
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