2015 Fiscal Year Annual Research Report
海綿共生細菌Entotheonella属による多様な生物活性物質生産機構の解明
Project/Area Number |
15H03112
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
脇本 敏幸 北海道大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (70363900)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | Entotheonella / 海綿動物 / 二次代謝産物 |
Outline of Annual Research Achievements |
海洋無脊椎動物の中でもとりわけ海綿動物は天然生物活性物質の宝庫として知られている。海綿動物は付着性で大量の海水をろ過することで、有機物を摂取して生きており、この際に一過性に取り込む微生物とともに、多種多様な微生物が共生している。海綿動物が保有する多様な生物活性物質の多くは共生微生物によって生産され、化学防御物質として機能すると考えられている。それらの中には医薬品のリード化合物として有望視されるものが複数存在する。中でも、ハリコンドリンBは海綿由来の生物活性物質が抗がん剤開発に成功した例として記憶に新しい。 我々は先行研究において、Theonellidae科に属する海綿Theonella swinhoei及びDiscodermia calyxの2種おいて二次代謝産物生合成遺伝子の解析を進め、遺伝子をコードする共生細菌の同定に成功した。同定した生産菌は新門Tectomicrobia門に属するEntotheonella属難培養性細菌であり、ポリケタイドからペプチドなど多様かつ複雑な生物活性物質の生産を担う、極めて物質生産に秀でたバクテリアであった。 本研究では海綿共生微生物Entotheonellaが有する物質生産能をさらに詳細に検証するために、Discodermia、Theonellaに属する様々な種の海綿動物を対象に生合成遺伝子の取得や新規代謝産物の探索を進める。現段階では2種海綿動物にとどまっている知見をさらに拡張することで、Entotheonella属バクテリアの海綿共生細菌としての普遍性や生産菌としての重要性を明らかにすることを目的とした。本年度は特に伊豆半島や紀伊半島に生息するDiscodermia kiiensisを研究対象とし、その代謝産物の探索や生合成遺伝子の取得、生産菌の同定を試みた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Discodermia kiiensisには環状デプシペプチドであるdiscodermin類が主要な二次代謝産物として含まれていることが知られている。また、よりマイナーな成分として紀伊半島産D. kiiensisよりdiscokiolide類が報告されている。我々は2014年に伊豆半島産D. kiiensisより新規リポペプチドlipodiscamide類を単離、構造決定した。環状構造内にジラクトン結合を有し、シトルリン、ウレイドアラニン、デヒドロノルバリンなどの異常アミノ酸を含む特異な環状デプシペプチドであった。 このように、日本産D. kiiensisからは3つの特異な環状デプシペプチドが見出されている。しかし、それらの生合成遺伝子や生産菌の報告例はこれまで皆無であった。そこで、これら代謝産物の生合成遺伝子を取得し、その生産を担う共生微生物の同定を試みた。D. kiiensisの人工海水懸濁液を光学顕微鏡によって観察した結果、フィラメント状の特徴的な形態を有するバクテリア細胞が多数認められた。この形態はEntotheonella属バクテリアの特徴でもあることから、それらを密度勾配遠心法によって分画し、エンリッチした画分からゲノムを抽出し、次世代シークエンサーによって解析した。その結果、discodermin及びlipodiscamideの生合成遺伝子クラスターの取得に成功した。Discoderminに関してはNRPSのA domainの基質特異性を検討した。Lipodiscamideに関してはクラスター内にコードされた硫酸基転移酵素の存在からの硫酸化lipodiscamideの存在が予測されたため、実際に海綿抽出液中の探索を行い、新規化合物sulfolipodiscamideを単離、構造決定した。以上の結果から、これらの化合物はいずれも海綿共生微生物Entotheonellaによって生産されていることが明らかになった。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度は主に伊豆半島産海綿D. kiiensisを解析対象とした。その結果、主要代謝産物であるdiscoderminや新規リポペプチドlipodiscamideの生合成遺伝子の取得に成功し、それらがEntotheonellaによって生産されていることを明らかにした。しかし、もう一つの既知代謝産物であるdiscokiolideに関しては遺伝子情報が得られなかった。Discokiolideは紀伊半島産D. kiiensisから得られているため、今後は紀伊半島産の海綿を用いて解析を進める必要がある。さらに他の種の海綿動物に焦点を当て、同様の解析を進める。特にDisocodermia属には日本近海の固有種が複数知られており、D. japonicaやD. jogashimaなど深海性の海綿動物の解析を進める。すでに我々はD. japonicaには特異な環状デプシペプチドcyclolithistideが含まれていることを2014年に報告している。Cyclolithistideの生産菌の探索も同様に進める。これらの研究によってEntotheonellaによる多様な物質生産が明らかになるとともに、この新規バクテリアの起源についても知見が得られることが期待できる。
|
Research Products
(18 results)