2015 Fiscal Year Annual Research Report
ストレスにより認知過程が変容するメカニズムの探求ー分界条床核の役割
Project/Area Number |
15H03125
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Research Institution | Kansai Medical University |
Principal Investigator |
中村 加枝 関西医科大学, 医学部, 教授 (40454607)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
上田 康雅 関西医科大学, 医学部, 講師 (60332954)
佐藤 暢哉 関西学院大学, 文学部, 教授 (70465269)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ストレス / 嫌悪刺激 / 報酬 / BNST / 背側縫線核 / セロトニン / ドパミン / 眼球運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々の認知機能はストレスによって影響を受けるが、同じ刺激に対して感じるストレスの強度や認知機能への影響は個体差・状況による差も大きく、「ストレスの感度の調節」のメカニズムが存在するはずである。本研究はストレスにより認知行動がどのように変化するか、そしてその神経基盤を明らかにするのが目的であり、特にBNST(分界条床核)の機能を明らかにすることを目標とする。この仮説を検証するため、本プロジェクトの1年目は、サルにおいて、異なるストレス強度下における高次認知行動課題の成績と自律神経反応等の生体信号の変化を計測するシステムを立ち上げた。 行動課題では、中心点を注視すると、左右に異なる視覚刺激が呈示され、そのうち一つを眼球運動によって選択する。「行動結果により罰の可能性がある課題」では、視覚刺激A,B.Cは恒久的に報酬(A)、罰(B,エアパフ)、音(C)にそれぞれ関連付けられ、3つのうち2つのペアつまりAB,BC,ACのうち一つ(理想は、ABではA,BCではC,ACではA)を選択する。「罰の条件刺激呈示の課題」では、別のセッションで視覚刺激A,B.Cは恒久的に報酬(A)、罰(B,高濃度食塩水)、音(C)にそれぞれ関連付ける。一方、選択課題ではD、E二つの視覚刺激のうち一つ(例えばD)を選ぶと報酬が与えられるが、Eでは与えられない。しばらくすると正解は変化し、Eで報酬が与えられDでは与えられない。従って、現在の正解の視覚刺激を記憶し続けるとともに、正解が変化したらフレキシブルに選択をスイッチする必要がある。この際、試行間に、あらかじめ情動的な意味を持ったA、B、Cを呈示した。 サルにおける行動課題パフフォーマンスと自律神経反応を記録し、これらの行動課題でストレスによる認知行動課題の変化が観察された。また、この動物モデルにおいて、BNSTからの単一神経細胞記録も開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.H27年度の目標は、認知課題のパーフォーマンスと自律神経反応が、異なるストレスレベルによって変化する動物モデルを確立することであった。「行動結果により罰の可能性がある課題」では、2匹のサルで、罰が選択肢に含まれていると(AB,BC)、選択行動にエラーが起きやすいことが示された。瞳孔径・心拍数も、罰が含まれているペアで増大した。これらのことから、「罰の可能性」つまりストレスがあると、認知行動の障害や交感神経優位の変化が引き起こされることが明らかになった。「罰の条件刺激呈示の課題」では、行動結果により罰の可能性がある課題」とは異なり、罰そのものは行動の結果により引き起こされないが、情動を引き起こす視覚刺激が呈示される。一匹のサルで調べたところ、罰の条件刺激を呈示すると、エラーが増大したが、報酬の条件刺激呈示でも同様の結果が得られた。したがって、罰と報酬は程度の差はあるものの、どちらもストレスとなり、短期記憶・並列処理・柔軟性に影響があることが示された。また、罰関連視覚刺激呈示により、注視のエラーの増加すなわち反応抑制の障害が示唆された。以上のようにストレスによる行動や自律神経反応の変化を明らかにでき、目標はおおむね達成された。 しかし、行動課題を構築する上で困難な点も明らかになった。特に、条件刺激によるストレス負荷の影響は、実験のセッションによって効果が一定でなかった。これは、被験者の行動が結果に直接結びつかないからであるのと、罰刺激として用いている高濃度食塩水が嫌悪刺激としては弱いからという可能性がある。 2.BNSTからの神経活動の記録は、1頭のサルから20ニューロンほどの記録を行い、課題関連細胞の分布場所が明らかになってきた。 以上、行動実験、神経生理実験両者が順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
1.行動課題の一部改良と、行動データと自律神経反応データの計測を継続する。「罰の条件刺激呈示の課題」において、効果が一定するよう、より強い罰刺激であるエアパフを用いることを試みる。 2.BNSTニューロンによるストレスレベルのモニタリング様式を明らかにする。 異なるストレスレベル下で行動課題を行っているサルにおいて、Extended amygdala の一部BNSTの発火を記録する。異なるストレスレベルによってBNST神経細胞の発火頻度が変化すると予想される。 3.ヒトの行動課題測定、自律神経反応測定ヒトにおいて動物と同じ眼球運動課題を行わせる。ストレスや報酬は、被験者が見るスクリーン上に、報酬として得られる金銭を呈示し、これが増減する形から開始するが、効果によってはサルと同様エアパフを用いることも考える。さらに、心拍数・呼吸数・瞳孔径・注視時の微小な眼球運動を課題遂行と平行して測定する。ヒトにおいてはサルでは測定が技術的に困難な皮膚抵抗さらに質問紙による調査も行い、情動面の評価の補完とする。
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Research Products
(11 results)
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[Presentation] 物質と脳2015
Author(s)
中村加枝
Organizer
平成27年度生理研研究会
Place of Presentation
生理学研究所(愛知県岡崎市)
Year and Date
2015-12-05 – 2015-12-05
Invited
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