2015 Fiscal Year Annual Research Report
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15H03140
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Research Institution | Asia University |
Principal Investigator |
高山 陽子 亜細亜大学, 国際関係学部, 准教授 (20447147)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡本 亮輔 北海道大学, その他の研究科, 准教授 (30747952)
藤野 陽平 北海道大学, その他の研究科, 准教授 (50513264)
田中 孝枝 多摩大学, 公私立大学の部局等, 講師 (50751319)
今津 敏晃 亜細亜大学, 法学部, 准教授 (60449973)
加藤 睦 (山口睦) 京都造形芸術大学, 芸術学部, その他 (70547702)
大塚 直樹 亜細亜大学, 国際関係学部, 講師 (80549486)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 戦争 / 観光 / ナショナリズム / ノスタルジア / 聖地 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は6月に亜細亜大学(東京都武蔵野市)においてキックオフミーティングを行い、各自の研究紹介と今後の課題について議論した。その議論を踏まえ、2016年2月に亜細亜大学において「聖地とナショナリズム―日本の近代戦争の事例から―」というテーマで公開研究会を開催した。ここでは最初に研究代表者の高山が戦争観光成立の過程とそこに見られるノスタルジアについて整理した。その後、今津による「「海軍兵学校教育参考館図録」についての一考察 ―ナショナル・ヒストリーの展示の考察の手がかりとして―」、山口による「観光資源としての零戦―茨城県阿見町予科練平和記念館を中心として―」、田中による「中国人観光客から見る日本の聖地」、2016年度より本研究に参加する楊小平(東亜大学)による「広島の原爆観光から記憶のグローバル化をみる」の発表が続き、総合討論を行った。総合討論において明らかになった点は、東アジアの戦争観光には勝利礼賛という偏狭なナショナリズムよりも、ひたむきに生き続けた時代を懐かしむノスタルジアが見られるという点である。これは今後の検討課題の一つとなる。 個別には、高山は中国・ハルビンと韓国・ソウルの戦争博物館・戦争記念碑の調査を行った。今津は鹿児島知覧、長崎佐世保、広島呉・江田島において資料収集を行い、大塚はベトナム・ホーチミンの実地調査を継続した。岡本は靖国神社における記念碑の調査を行い、田中は中国・広州の旅行会社において聞取り調査を行った。藤野は台湾・金門の予備調査を行い、山口は茨城・友部の零戦の調査を行った。それぞれの研究成果は口頭発表を経て論文として発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初は戦争観光のナショナリズムは、国威掲揚という「マッチョ」なものと、コンテンツとして戦争を耽溺するという「オタク」的なものに二分できると仮定していたが、研究会の総合討論を経て、その中間的なノスタルジックなナショナリズムが存在することが明らかになった。2001年の同時多発テロ以降、保守化する国々における戦争表象や戦争観光を考える上でノスタルジアは重要なテーマである。国内における人口減少と移民の増加という現実に対して、人々は、それを受け入れる必要があるという理性が働く一方で、貧しいながらも均質的であった時代を懐かしむ感情は捨て去ることができない。その目標に向かって努力していた時代は、東アジアの場合、戦争の時代としばしば重なるため、戦争の記憶には忌まわさと同時に懐かしさ=ノスタルジアが伴うのである。 戦争観光におけるナショナリズムを分析する上でノスタルジアという概念をメンバー全員が共有できたことは大きな成果であり、2016年度は戦争観光とノスタルジアというテーマで研究会を開催することが決まった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画に従い、戦争の観光資源化の研究を行う。2016年度より広島大学の楊小平をメンバーに加え、より学際的な見地より議論を進める。特に戦争観光におけるノスタルジアに着目し、メンバーがそれぞれ2週間程度の現地調査を行う。 2017年2月に「戦争観光におけるノスタルジア」(仮)というテーマで公開研究会を開催する。この研究会における各自の発表テーマは、「毛沢東グッズにおける社会主義ノスタルジア」(高山)、「ベトナムにおける社会主義ノスタルジア―ホーチミン観光を中心に」(大塚)、「台湾におけるノスタルジア―日本統治期の記憶から」(藤野)、「零戦のノスタルジア」(山口)である。ほかのメンバーはコメンテータとして参加する。 社会主義(全体主義)ノスタルジアは1990年代の旧ソ連、東欧諸国などの旧社会主義国と文革後の中国に見られた現象である。伝統文化の弾圧や思想統制などネガティブな記憶がある一方で、厳しい市場競争にさらされる危険のない時代は、一部の人びとにとって懐かしさや親しみを覚えるものであった。こうしたノスタルジアは中国では毛沢東崇拝とその観光、ベトナムではホーチミン崇拝とその観光という形で表面化している。それぞれの指導者が土着の神のように崇められ、商業性を強めることで、社会主義のイデオロギー性が弱まっている点が共通する。そして、ノスタルジアとキッチュが結びつく点も共通する。 ノスタルジアとキッチュは、アメリカの愛国主義的な商品が極めてキッチュであるという指摘や毛沢東グッズに対して共産主義キッチュというラベルが貼られることからも、密接な関係があることがわかる。社会主義の展示や戦争観光においてキッチュなものがあふれるという現象の指摘はあるものの、この点に関してはまだ十分な検討がされていない。そこで、本研究ではノスタルジアとキッチュという切り口から戦争観光のナショナリズムを明らかにする。
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Research Products
(22 results)