2016 Fiscal Year Annual Research Report
An Integrated Study of Mother-of-Pearl Ornament in Asia from the Viewpoint of the History of External Exchange, Especially Focusing on the Age of Discovery
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15H03171
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Research Institution | Independent Administrative Institution National Institutes for Cultural Heritage Tokyo National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
小林 公治 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化財情報資料部, 室長 (70195775)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉田 邦夫 東京大学, 総合研究博物館, 特招研究員 (10272527)
能城 修一 国立研究開発法人森林総合研究所, その他部局等, 主任研究員 等 (30343792)
末兼 俊彦 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸研究部, 主任研究員 (20594047)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 南蛮漆器 / 国際研究会 / レイピア / 17世紀前半 / 学際研究 / ネジ / アジア・ポルトガル様式 / 螺鈿 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は逸翁美術館、広島県立美術館において南蛮漆器の熟覧調査、またいくつかの館で開催された南蛮漆器に関する展覧会出陳作の調査を行なったほか、大分県立美術館で開催された国際シンポジウム「南蛮工芸」、浦添市美術館で開催された国際シンポジウム「アジアに広がる螺鈿の文化と歴史」にそれぞれ参席し、登壇者や参加者らと意見交換を行なった。 また、研究分担者や研究協力者と共にポルトガル国内各地で同国内伝世の各種南蛮漆器やアジアポルトガル様式に含まれる南蛮漆器類似漆器類などに対する総合的調査、さらにイスタンブールにてイスラム螺鈿器の調査を実施した。 11月にはこれまでの研究成果の一端について、明治大学で開催された漆サミット2016において「ポルトガルに伝世する南蛮漆器及び関連漆器の現況」として、また同月浦添市美術館で開催された「琉球の漆文化と科学2016~螺鈿と文化~」においては「アジアの螺鈿史瞥見ー真珠光沢への希求ー」という題名で発表した。 こうした調査などを受け、2017年3月には東京文化財研究所にて「南蛮漆器の多源性を探る」という公開研究会を開催したが、それに参加した海外のパネリスト2名、また研究会への海外参加者十数名と日本近代有数の建築螺鈿漆工装飾である目黒雅叙園の調査ほか、徳川美術家、南蛮文化館、浦添市美術館などにおいて漆器類などの調査を実施した。 このほか、本年度には甲賀市藤栄神社に伝わる十字形洋剣について、国内金工・刀剣研究者や保存科学者らと共に熟覧調査と京都国立博物館でのCT調査を実施した上、当研究所研究会でその調査成果について各々発表の上討論を行なった。また、日程調整の関係で翌年度に繰り越した西洋武器類専門家による熟覧調査を2017年9月に甲賀市立水口歴史民俗資料館にて実施し、東京文化財研究所の文化財情報資料部研究会にてその成果発表を行なうことが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、当初より第二年度目にそれまでの研究成果について研究分担者や研究協力者らの参加による研究会の開催を計画していた。本年度はそのテーマとして南蛮漆器を具体的な対象に設定し、代表者以外に国内研究者8名、海外研究2名の合計10名の研究者による研究会を開催することができた。また発表内容の一部は、前年度や本年度に国内やポルトガル等で実施した調査での成果を中心としたものとなり、この科研費による研究成果をまとめた上で早期に公表することができたと考えている。また、2日間にわたって開催したこの研究会の国内外参加者からは、その内容の公刊を求める声など、多くの高い関心と評価が寄せられた。 また藤栄神社所蔵十字形洋剣の調査については、今年度の日本人研究者による検討やX線CTによる調査によって、ヨーロッパ製の作例と極めて強い類似性と高い完成度を持つことが明らかになったが、洋剣自体の制作地や年代については結論が出せない状況にあった。しかしながら、予算の一部を翌年度に繰り越して実施したメトロポリタン美術館の西洋刀剣類専門家を招へいによる実見調査の結果、この洋剣が17世紀第1四半期のスタイルを持っているが、素材や技法などの点から、ヨーロッパ製ではなく日本製と見られることを明らかにできた。しかも柄には銅が、鉄製の剣身と柄との接合には桃山時代に海外国からもたらされた特殊技術であるネジが使われるといった、当時の最先端技術を駆使した模造品であることが判明した。 以上のように、本年度は当初より計画していた課題を想定以上の内容で実施できたこと、また新たな課題として上がってきた研究テーマについてもこれまで知られていなかった種々の歴史的事実を明らかにできたことなどから上記評価と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、これまでの国内外各地での南蛮漆器類の総合的調査成果と、それを元に研究分担者や研究協力者などの研究者10名の参加を得て開催した公開研究会での発表内容および総合討論で得られた認識や討議内容等をベースとして、研究基盤となる基本的事実関係の研究を進めたい。 代表者の小林は、すでに編年案を公表している南蛮漆器書見台やそれと密接な関係を持つアジア製書見台などに対する補足調査をポルトガル国内等で実施し、既発表論文の補訂作業による精緻化を行ないたい。また、一器種の編年から南蛮漆器全体の編年構築への研究レベルアップのため、南蛮漆器で最も多い洋櫃の実見調査を国内外各地で実施の上その編年検討作業に着手、大まかな編年見通しを得たい。 研究分担者の研究については、吉田とは昨年度行ったストロンチウム同位体分析による漆産地特定のため、広い研究者との議論も含めて国内資料分析結果の検討を重ね、東アジア産漆産地特定の洗練化を図りたい。またC14年代測定についてはこれまでの南蛮漆器年代の見解と大きな齟齬が生じた原因についての検討を進めたい。能城による樹種同定については、種の特定までは困難なものの、鮮明な画像であれば針葉樹か広葉樹かの分類は可能という経験的判断により、これまでの調査画像からの樹種検討を実施するとともに、高解像度のCTスキャニング画像を活用した非破壊法による樹種同定や年輪年代分析検討を試みたい。また飾金具の研究については、上記研究会で公表された金具樹葉文様の編年モデルを基本として、討議を行いつつ金具の他要素も併せ含めて、桃山時代から江戸時代初期にかけての飾金具編年案の構築検討を行っていきたい。
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Research Products
(8 results)