2017 Fiscal Year Annual Research Report
An Integrated Study of Mother-of-Pearl Ornament in Asia from the Viewpoint of the History of External Exchange, Especially Focusing on the Age of Discovery
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15H03171
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Research Institution | Independent Administrative Institution National Institutes for Cultural Heritage Tokyo National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
小林 公治 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化財情報資料部, 室長 (70195775)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉田 邦夫 東京大学, 総合研究博物館, 特招研究員 (10272527)
能城 修一 国立研究開発法人森林研究・整備機構, その他部局等, 主任研究員 等 (30343792)
末兼 俊彦 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸研究部, 主任研究員 (20594047)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 螺鈿史 / 高麗螺鈿 / 南蛮漆器 / レイピア / 大航海時代 / 文化交流 |
Outline of Annual Research Achievements |
本助成研究の3年目となる本年度は、まず2017(平成29)年8月に、年代がやや遡るものの螺鈿の対外的影響関係を検討するための重要資料である中国山東省荷澤市内の元代内陸運河沈没船より出土した高麗螺鈿漆器様式経箱の実見調査を行なったほか、済南市・開封市・洛陽市・北京市などで陶磁器など関連資料調査を行ない、諸工芸間の文様影響関係や年代を検討するための情報収集を実施した。 10月には、コペンハーゲン市内の国立デンマーク博物館などの博物館にて南蛮漆器類や関連漆器、また西洋式細形長剣などの調査を実施した。続いてスウェーデン国内では王室が所蔵し、それが同地にもたらされた年代が明らかな準基準資料とされる南蛮漆器洋櫃や武器類などの調査を、さらにローマ市内およびバチカンでは、やはりもたらされた経緯や年代が明らかにされている個人蔵南蛮漆器洋櫃や関連資料の調査を行なった。またこれら各地では研究者らとの意見交換を実施した。埋没年代やもたらされた年代が確定できるとされるこれら重要螺鈿漆器作例の調査は、南蛮漆器、特に洋櫃の編年確定検討を行なう上で重要かつ必須なことであり、今年度その調査を実施できたことで、今後検討を進めるうえで大きな意味を持つものとなった。 このほか、2018(平成30)年3月にはこれまでの研究で、17世紀前半にヨーロッパから日本にもたらされた西洋式細形長剣(レイピア)を日本で当時の国内技術によって精巧に模造したであることが判明した甲賀市水口の藤栄神社所蔵十字形洋剣について、報告書作成を目的とした画像撮影を実施した。 以上のように、今年度は研究課題の実証的な検討に必要となる基礎的調査を中心に行い、南蛮漆器の編年やそれと関係する広域な交差年代を考えるための重要作例のデータを得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アジアの螺鈿史を跡付け、その歴史的な意味を考えるうえで重要なことは、各国地域で制作された様々な様式の螺鈿器についてその制作地や年代ができるだけ詳しく正確に位置付けられることである。しかしながら、工芸品とりわけ漆器類については基準資料や年代が明らかな作例がほとんど存在しないことや、研究の少なさから既存の編年論は理解に粗い点が多く、また研究者によって異なる年代観が見られるといった状況にある。 こうした中で、今年度は現地にもたらされた経緯や年代がほぼ確実だとだとされる二例の南蛮漆器洋櫃に加え、共伴した出土品から埋没年代がかなり限定され、東アジアの螺鈿編年観に大きな影響を与える可能性がある中国出土の高麗様式螺鈿漆器経箱について、長期に亘る所蔵者・管理者とのコンタクトと折衝の結果ようやく実見することができたことは、今後この問題について検討を進めるうえでの重要なステップとなったものであり、このように評価したい。
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Strategy for Future Research Activity |
本助成研究4年目にあたる来年度は、本研究の中心的対象である南蛮漆器についてはその全体編年と年代のより詳細な限定、さらに成立の経緯や消滅の過程理解のため、もっとも多くが制作されたと考えられる洋櫃について、できるだけ多くの作例に対する国内外の調査を進め、現在一応の予測を得ているその編年についてより多くの具体的な根拠に基づく具体的な編年論の構築に努めたい。 またこれまでの研究で17世紀前半に国内で制作された西洋式剣であることが明らかとなった藤栄神社所蔵十字形洋剣については、現在のところあまりよく明らかにできていないその制作方法についての検討を中心に進め、その報告作成への準備を行ないたい。 さらに、大航海時代のアジア各地の螺鈿漆器相互の影響関係について検討するため、朝鮮時代前期螺鈿漆器について分担研究者らとの共同の調査を実施するなどして、より多角的な研究の実施に取り組みたい。 このほか、南蛮漆器の成立に関わる関係がある南蛮漆器と同形の黒漆塗漆器、あるいは国内に伝わるヨーロッパ製螺鈿器の調査なども実施する計画である。 さらに、最終年度に制作する報告書作成に向けて、内容検討や執筆分担決定等の準備作業を進めていきたい。
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Research Products
(9 results)