2016 Fiscal Year Annual Research Report
再興・布教から霊場化へ―増吽関連の寺院経蔵調査を中心に―
Project/Area Number |
15H03181
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
中山 一麿 大阪大学, 文学研究科, 招へい研究員 (10420415)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
落合 博志 国文学研究資料館, 研究部, 教授 (50224259)
伊藤 聡 茨城大学, 人文学部, 教授 (90344829)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 木山寺 / 神仏習合 / 安住院 / 覚城院 / 増吽 / 寺院経蔵調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度11月に行った木山寺での資料展示以降、それをベースにした出版企画が進行し、28年度前半はその実現に向けた調査、及び執筆・編集作業を中心に行った。10月に刊行した『神と仏に祈る山 美作の古刹 木山寺社史料のひらく世界』は、図録編・研究編・史料編の三部構成で、図版122点とその解説、関連論文8稿とコラム7稿、史料翻刻と解説6稿から成る、木山に関する初の本格的な資料公開と研究である。本書は研究成果物という学術的意義のみならず、地域の理解と連携に依って実現した産物であり、地方寺院での悉皆的史料調査がもたらす地域の活性化に実に大きなインパクトを与えたことは、本研究の大きな成果として捉えている。 年度後半は、本研究の中心的課題である覚城院の調査を本格的に始動させた。本堂内典籍の調査に加えて、蔵内収蔵品にも調査範囲を広げるため、大がかりな蔵内整理を行った。その過程で新たに「増吽自筆書状」や室町初期「神道灌頂印信」、寂雲自筆聖教、新安流僧の行状記など、資料価値の高い典籍の発見が相次いでいる。これらは年度内最終調査の際に、研究会報告を行い、その一部は既に学会発表や出版物によって明らかにしていく事が具体的に進行している。 また、Excelをベースとした覚城院用の調書作成フォームも作成し、実用段階に入っている。更には、今後の目録や画像の公開を見据え、先ずは研究メンバー間でデータの共有が出来るシステムの開発にも着手している。これらは今後の調査→研究→公開を円滑に進める鍵を握るものであり、試行錯誤を繰り返しながらも着実に実用化に向けて進んでいる。 その他、安住院・西福寺・国分寺などの調査も研究計画に沿って進めており、それぞれの蔵書目録作成に向けた調査を継続して行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
木山での調査成果を市販書として出版する予定は当初無かったが、寺社側との折衝により、予定を大きく上回る内容の書籍として出版することになった。これにより、新出資料紹介や新知見に満ちた研究論文を提示することが出来たことは、想定を大きく上回る成果を得たと言える。 一方、この出版作業により、研究の重点を覚城院の調査・研究にシフトする時期が半年以上遅れた。しかし、その覚城院に於いても、調書入力フォームの作成をはじめ、調査前の準備に万全を期すことで、現地での活動の効率化を高めた結果、本堂内収蔵の典籍のみならず、土蔵内の典籍の整理と調査への道筋を通すところまで行えた。加えて、当初の予想以上に覚城院所蔵典籍が学術的にも文化財的にも貴重であることが判明してきており、今後の展開が楽しみでもある。資料の貴重さと多様さを考慮し、次年度以降は新たに適任と考える研究者にもプロジェクトチームに加わっていただくべく、研究体制の強化も図った。 年度末には、現状での課題や今後の展開を共有すべく、研究会と会議を開催し、調査チーム内の意識統一も形成しており、次年度以降に向けた準備にも最善を尽くした。 木山寺・覚城院に関する事案に労力を割く一方で、安住院・西福寺・国分寺の調査も定期的に継続している。これによって多寺院間での資料的繋がりがより明確になっきており、新たな研究視点の発見や調査寺院の広がりへと発展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は、覚城院での調査を中心に、増吽やその周辺に関する研究、蓮體などの新安流僧と覚城院三等法印との関係、覚城院寺誌に関する研究などを主に行う。既に述べた如く、次年度以降の研究への体制と環境の整備を進めており、これに従って効率的に調査することで、目録の作成と成果公開を目指す。29年度は既に5月刊行予定図書に増吽関係論文を執筆中であり、9月には第1回日本宗教文献調査学合同研究集会の発起人かつ主催科研の一つとして、シンポジウムパネラー及びポスターセッションが予定されている。更に来春刊行予定の図書に覚城院蔵聖教の影印・翻刻・解題の掲載も決まっている。これらを通じて、本課題研究の重要性を広く学界に周知することに努める。 本研究は既に予想以上の広がりをみせており、それに伴う人員の整備・調査寺院の増加、及び撮影費の不足が課題である。前二つに関してはある程度の調整で対応可能であるが、研究遂行上不可欠な画像データの収集に関しては深刻な問題である。別枠予算の獲得も念頭に対応していきたい。
|
Research Products
(14 results)