2017 Fiscal Year Annual Research Report
再興・布教から霊場化へ―増吽関連の寺院経蔵調査を中心に―
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15H03181
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
中山 一麿 大阪大学, 文学研究科, 招へい研究員 (10420415)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
落合 博志 国文学研究資料館, 研究部, 教授 (50224259)
伊藤 聡 茨城大学, 人文社会科学部, 教授 (90344829)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 覚城院 / 寺院経蔵調査 / 真福寺 / 根来寺 / 地蔵寺 / 金剛寺 / 安住院 / 木山寺 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度後半から本格始動させた覚城院の調査であるが、調査が進むにつれて新たな発見があり、多義に亘る史料の宝庫として、その実態把握を加速させている。字数制限上、覚城院に関する主たる成果のみ以下に記す。 6月には、中山一麿「寺院経蔵調査にみる増吽研究の可能性-安住院・覚城院」(大橋直義編『根来寺と延慶本『平家物語』』、勉誠出版)において、新出の増吽関係史料を中心に、増吽やその周辺の研究を進展させると共に、聖教調査研究が新たな発展段階にあることを示唆した。 9月には本科研を含めた6つのプロジェクトの共催で、「第1回 日本宗教文献調査学 合同研究集会」が行われたが、中山はその開催に主導的役割を果たし、二日目の公開シンポジウム「聖教が繋ぐ-中世根来寺の宗教文化圏-」では基調報告として「覚城院所蔵の中世期写本と根来寺・真福寺」を発表し、覚城院から発見された根来寺教学を俯瞰する血脈の紹介を交えつつ、覚城院聖教が根来寺・真福寺などの聖教と密接に関係することを報告した。加えて、同時に開催された寺院調査に関するポスターセッションでは、全29ヵ寺中、本科研事業に参加する研究者5名で計10ヵ寺分(覚城院・安住院・随心院・西福寺〈以上中山〉・木山寺・捧択寺〈以上向村九音〉・善通寺〈落合博志〉・地蔵寺〈山崎淳〉・薬王寺〈須藤茂樹〉・宝泉寺〈中川真弓〉)のポスターを掲示した。 3月には「第1回 覚城院聖教調査進捗報告会―今目覚める、地方経蔵の底力―」を開催し、覚城院調査メンバーから9名の研究者による最新の研究成果を公表した。同月末刊行の『中世禅籍叢刊 第12巻 稀覯禅籍集 続』(臨川書店)においては、覚城院蔵『密宗超過仏祖決』の影印・翻刻・解題を掲載し、翻刻(阿部泰郎)・特論(中山一麿)・解題(伊藤聡・阿部泰郎)がそれぞれ担当して、本書の持つ中世禅密思想上の意義やその伝来が象徴する覚城院聖教の重要性を論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の主な調査寺院と日数は以下の通り。覚城院のべ20日。西福寺のべ5日。善通寺のべ5日間。木山寺のべ4日間。地蔵寺のべ4日間。安住院のべ3日間。その他の寺院のべ8日間。 覚城院聖教は調査を重ねる毎に予想以上に重要度が高まっており、広範な研究分野(時代・テーマ・海外を含む関係各所との繋がりなど)に資することが判明してきている。その一端は実績概要に記した事項を中心に、可能な部分から積極的に成果を発信している。それに伴って関心を共有する研究者も増加し、本年度だけで新たに6人の調査参加メンバーが加わり、現状で17人態勢での調査組織を形成するに至っている。今後も文学のみならず分野を横断した研究者が参加する予定となっており、更に充実した成果が期待出来る環境が整っている。 一方、覚城院以外の寺院に於いても作業は進行しており、西福寺では目録の作成が50%程度まで進んでいる。木山寺では蔵書整理がほぼ完了し、目録作成に向けた調書入力が進行している。安住院では棒目録の書誌追加及び確認の作業に並行しつつ、善本解題集の作成に向けた作業を開始している。これらの寺院での作業を並行して行うことで、本研究課題の目的である多寺院間の経蔵比較研究に資する資料収集が着実に進んでいる。 加えて、調書作成能力の向上と入力済み調書の確認を兼ねて、若手研究者を中心に勉強会を発足させており、月一度のペースで調書作成上の問題点の検討や共通認識の醸成を行っている。 これらの研究は既に出版社からの関心も得ており、寺院経蔵調査研究を特集した論集の刊行に向けた折衝の開始へと進展している。 反面で、資料価値の高さによる修復や撮影が必須の聖教数の増大と関心の高まりによる研究組織の増員は財源の不足を深刻化させている。財団助成などの獲得など、資金繰りにも尽力せねば成るまい。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は、上記で触れた寺院の他にも、以下の寺院で調査に進展が見られる予定になっている。地蔵寺(大阪)では蓮體書写本を大量に含む別置聖教函が出てきており、山崎淳代表の科研と協力してこの調査を開始する。高幡不動尊金剛寺(東京)では既存の目録のデータ化が終了し、伊藤聡代表の科研と共にデータの追加・補訂の為の調査が開始される事になっている。備中国分寺では、若手研究者を中心に現物実査と調書作成の実践の場として、某目録作成の作業を始動する予定である。 覚城院では、本堂収蔵分に加えて、蔵内収蔵分の調査を本格化させる予定で、それに伴って日本史学及び東洋美術学の研究者による文書及び絵画の調査も平行して取りかかる予定にしている。 以上の如く、既に作業軌道に乗っている調査の他にも次年度は新たに新展開する調査企画も多い。予算や人員の分配など、より一層に計画的な事業推進を行っていく必要がある。 そのひとつの目安となるのが、現在折衝中のシリーズ本の出版計画である。本科研及び関連事業の進捗と平行するような内容を盛り込んでいくことを検討している。
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Research Products
(15 results)