2017 Fiscal Year Annual Research Report
物質文化と精神文化の交流と断絶からみた、海峡を繋ぐ「北の内海世界」の総合的研究
Project/Area Number |
15H03245
|
Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
小口 雅史 法政大学, 文学部, 教授 (00177198)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
天野 哲也 北海道大学, 総合博物館, 資料部研究員 (90125279)
小嶋 芳孝 金沢学院大学, 文学部, 特任教授 (10410367)
中村 和之 函館工業高等専門学校, 一般人文系, 教授 (80342434)
田村 朋美 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 研究員 (10570129)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 日本北方史 / 北東アジア交流史 / 北の環日本海世界 / 北の内海世界 / 精神文化と物質文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度も精神文化の交流を示すものとして、ガラス玉を分析の中心にした。これまで収集した大陸沿海地方のデータと、北海道のそれをつなぐ可能性のあるものとして、サハリンのガラス玉に注目して、その分析を実施した。自然科学的分析については、今年度も東京理科大学中井泉教授のチームと連携して、当方の考古学的分析結果と、成分分析結果をも比較しながら、流通ルートの検証に取り組んだ。 前年までの成果としてまとめていた、北海道での製作方法が、引き伸ばし技法から巻付技法に変わるという結論は維持された。一方ロシアの沿海地方では巻付技法に加えて管切り技法が目立つ。後者は同時代の北海道にはあまり流通していない技法である点が注目される。 自然科学的分析成果については、鉛系ガラスについては大陸沿海地方と北海道とで鉛の含有量にかなりの差が見られること、アルカリ系ガラスについても北海道は大陸沿海地方と異なる様相を示すこと、カリ石灰ガラスについてはかなりのバラツキがあり、用いられていた融剤に何タイプか存在したことなどが見えてきた。現在精査中のサハリンのデータを加味して北海道のガラス玉データの流通経路についての判断作業に入っている。 また精神文化の交流の比較対象として物質文化の交流についても補充調査を進めている。サハリンの土器と極めて近いものが道北地方で出土している。これらについてはサハリンの専門研究者との意見交換の中で、サハリンから渡った可能性が極めて高いという見解に達している。北海道古代の鉄について、その起源としてのシベリア地方との比較も引き続き検討中である。集落と墓制(精神文化でもある)についてもデータ蓄積を続けており、最終年度にガラス玉分析結果と比較検討できるよう整理中である。北海道の鷲羽の本州への流通については、本州側の調査対象が閉館中であったが、展示再開予定とのことで来年度に調査を実施することとした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
北海道と大陸沿海地方との精神文化の交流を示すものとして、ガラス玉の研究がきわめて有効であることはほぼ断定できる段階になった。さらに北海道と大陸沿海地方をつなぐ、歴史的に一つのルートであることが確実なサハリンのデータを追加できた。このルートの存在については南貝塚式土器をサハリン側の研究者と再検討して確認している。 サハリンのガラス玉分析の成果については最終整理中であるが、現時点では、サハリンのデータが大陸沿海地方と北海道をつなぐものとなるかどうかは微妙である。大陸沿海地方と北海道とをつなぐルートについては、常識的なサハリン・ルートのみではなく、大陸沿海地方から直接北海道へ渡るルートの存在が示唆されているが、最終的にこの問題についても決着がつけられる見通しである。 大陸沿海地方と北海道のガラス玉比較については、これまでのデータの整理・蓄積によって、類似点と相違点が次第に明確になってきている。成分的には北海道で鉛系ガラスの出土がアルカリ石灰系ガラスより多く、鉛含有量がかなり多いのが顕著な特徴である。技法的には濃紺色玉ではシャイギンスコエ遺跡と根室、黒色玉ではシャイギンスコエ遺跡と発寒が技法的な類似点を有する。 またガラス玉と共に精神文化に深く関わるのが墓制である。現在、大陸沿海地方と北日本の事例を引き続き蓄積中である。最終総括シンポでの報告に向けて、とりまとめを終えることにしている。 また物質文化の交流については、矢羽根の分布について、北海道産やサハリン産の猛禽類の羽が本州にまで及んでいることは確実であるが、調査先の事情でまだ終了していない矢羽根のコレクションがあり、鳥羽の専門家をまじえて、最終年度に確認することにしている。その他、鉄や刀、金、須恵器などについても分析対象は確定し、整理も進み始めているので、最終総括シンポで比較素材として提供することが可能になっている。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでのロシア極東地域のガラス玉分析成果について蓄積されたデータをあらためて精査してみると、ロシア極東地域出土のガラス玉に時代的偏りがあり、古代から現代まで長いスパンで存在する北海道出土のガラス玉との直接対比が時期によっては難しいことが新たな課題としてみえてきた。そこで今後データ比較の成果の信憑性をより高めるために、次の3つの手順を考えている。 ①ガラス玉出土遺跡の年代を再検討・精査 ②地域毎のガラス玉変遷を時間軸で整理 ③ガラス玉変遷の画期を地域・時間軸で整理 その上であらためて比較検討する。これまでの自然科学的分析成果は地域による特性を浮かび上がらせることに主眼が置かれていて、歴史学的にはそのままでは使うことが難しいデータになっている。その限界を今回は打破することを目指している。関連して、サハリンのデータが考古学的に特定できない資料であるものが多いことも問題である。本年度の調査で、ポロナイスクなどには、考古学的情報が明確な資料が存在することが明らかになった。こうした考古学的情報が確かな素材をあらためて分析することによって、比較データの精度をさらに高める予定である。 またやはり懸案事項として残っている北海道出土須恵器の起源の問題が積み残されたままである。肉眼観察でも明らかに青森県五所川原産ではないものが多数存在している。一部は秋田周辺の窯で製作されたものであると思われるが、それ以外のものも多数ある。できれば蛍光X線分析を実施したいと考えている。X線を扱う機材であることが調査を妨げてきたが最終年度にはなんとか調整を済ませて実施できるよう試みたい。粛慎羽については、仙台市博所蔵品の調査が実施できる見通しである。また信仰に関する文字の流通ルートについて韓国起源説が近年主張されている。これについても仲介者を得られたので最後の分析対象として生かしていきたい。
|
Research Products
(39 results)