2016 Fiscal Year Annual Research Report
行き倒れに関する国際的比較地域史研究-移動する弱者の社会的救済・行政的対応の分析
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15H03247
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Research Institution | The Institute of Buraku Problem |
Principal Investigator |
藤本 清二郎 公益社団法人部落問題研究所, その他部局等, 研究員 (40127428)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
竹永 三男 公益社団法人部落問題研究所, その他部局等, 研究員 (90144683)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 行き倒れ / 非人・乞食 / 社会的弱者 / 移動する弱者 / 近世史 / 近現代史 / 国際比較史 / 地域史 |
Outline of Annual Research Achievements |
清代中国・植民地朝鮮・女性史等を研究する5名を新たに連携研究者として迎え、歴史学・経済学・社会福祉学・法学(法制史)分野の17名からなる研究組織を構成し、近世から戦後現段階を通して、また日本と中国・イギリス等との比較による共同研究を進めた。 研究例会は、2015年7月24日、9月19日、10月2日、10月23日、2017年2月5日、3月19日の6回開催した。これらの研究報告では、研究分担者・連携研究者・研究協力者が合計12の報告を行った。その分野は、日本史8(17~20世紀)、イギリス史1(17~19世紀)、朝鮮史2(17~20世紀)で、歴史学(社会史)、経済学、法学(法制史)と幅広い時代や分野にわたり、国際比較史、地域史の方法による報告と討論がなされた。とくに10月23日の研究例会は、本科研費プロジェクトの中間的な小シンポジウム(研究例会)と位置付けて、部落問題研究所主催「部落問題研究者全国集会」歴史分科会として開催し、日本近世・イギリス近世・植民地朝鮮の報告をもとに国際比較、地域比較の議論の場とした。 これらの報告と討論により、「行き倒れ」の世界的な普遍性と多様な発生原因や状況、その対応の各国、各時代の固有性が確認され、現在のところ方法の有効性とその深化が共通の課題認識となった。10月23日の研究例会には研究協力者としてM.Ehlers氏(ノースカロライナ大学シャーロット校)を招聘し、報告を得た。 また史料収集については、前年に引き続き近代の長崎県庁文書と解読を完了し、研究報告の共通史料とした。近世の尼崎長吏文書を解読し、報告を行った。さらに新たに、近世史料(紀伊藩領尾鷲大庄屋文書・和泉南部岸和田藩領大庄屋文書等)を調査し、近代の北海道・秋田・東京・埼玉・千葉・大阪・山口県域の社会政策に関する行政史料を調査し、写真撮影などにより入手し、収集史料の拡大を図った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
4月に共同研究基本計画を確認し、年間研究計画を具体化し、以下のように遂行した。 第一に、研究例会を6回開催し、延べ12人が報告した。日本近世については、尼崎藩非人番組織、紀州の行き倒れとその救護システム、越前大野藩の行き倒れ、江戸浅草新町の解体過程、近現代については、明治前期の行旅病人の逓送に関する行政措置、20世紀大阪の方面委員制度と貧民救護の実態・法制、20世紀沖縄県民の関西移動と扶助組織について報告された。行き倒れに関連する救貧法制・社会的救貧活動の国際比較については、20世紀植民地朝鮮の行き倒れ・救済体制、17~19世紀イギリスの救貧法制に関する報告であった。総じて、本研究の方法的見地である「国際的比較地域史」の具体的展開を図った。 第二に、新しく日本近世(森下徹、沢山美果子)、幕末維新期(J.Porter)、中国清代(村上正和)植民地期朝鮮(金津日出美)の5人が連携研究者として参加し、その研究報告・助言を得たことで、初年度にまして国際的な視野が広がり、課題達成に向けて研究を充実させた。 第三に、日本近世における対象地域が広がり、行き倒れ現象の背景となる社会状況についての洞察が深まる条件を確保した。また近代の長崎県の行き倒れと行政措置に関する史料を撮影し、解読を進めた。後者の長崎歴史文化博物館所蔵長崎県庁文書中の棄児・行旅病人関係文書群は、全国的な行旅病人関係文書の中でも類例の稀少な簿冊であり、本研究の主題に直接関わる貴重な公文書である。これらの文書群は2016年度の共同研究実施の一つの核となる共通史料となった。またイングランドの史料収集も連携研究者による訪英調査によって実施し、当該分野の研究深化が見通された。さらに、本研究の主題に関する近世都市史料、近現代都市貧困政策に関する報告書を購入して研究資料の充実を図った。 以上のように、本研究は順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
次の三つの柱で諸研究を推進し、最終年度にあたり総括的シンポジウム・成果報告に取り組む。 1.前近代・近現代を通した「行き倒れ」とその対応の研究を進める。①塚田孝は『道頓堀非人関係文書』により近世都市大坂の「行き倒れ」と非人の検討を進める。②藤本清二郎は紀州徳川藩領・泉州岸和田藩領・播州林田藩領を、町田哲は徳島藩領を中心に、沢山美果子は津山藩領を、森下徹は毛利藩城下町萩をそれぞれ対象として、都市、農漁村(浦方・地方)の乞食・「行き倒れ」・困窮者の分析を進める。③J.ポーターは、明治維新後の東京における非人の解体過程と地域に関する分析を進める。④竹永三男は、近代の東京府、秋田県・長崎県を対象に「行き倒れ」対応法制・行政の分析を行う。 2.「行き倒れ」に至る社会的弱者の研究を学際的に進める。①廣川和花は、ハンセン病者・「精神病者」の実態と救護法制・地域社会の対応システムを検討する。②西尾泰広は近代の大阪府南王子村、櫻澤誠は沖縄県出身者の同郷会をそれぞれ対象としてその相互扶助機能を分析する。③茂木陽一は、長崎県を対象に棄児・間引等の研究を進める。④飯田直樹・大杉由香は、近代大阪の方面委員制度と「行き倒れ」救護行政の分析を進める。⑤鈴木忠義は、戦前・戦後の「行旅死亡人」に関する社会福祉法制・行政を系統的に分析する。 3.国際比較史研究を進める。①小室輝久は、イングランドの行旅死亡人に関するロンドンでの調査史料の分析を進める。②村上正和は清代中国の刑政と救貧行政を、金津日出美は総督府統治下の朝鮮の「行き倒れ」対応行政をそれぞれ検討する。 4.研究成果をシンポジウムおよび『部落問題研究』誌上で発表する。海外在住の研究協力者の参加も得て、研究成果を研究期間内に「国際比較地域史シンポジウム(仮称)」で発表するほか、研究期間終了後に速やかに『部落問題研究』誌上に関係論文を発表する。
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Research Products
(43 results)