2016 Fiscal Year Annual Research Report
戦争叙述のための博物館の可能性―歴史の方法の有効性について
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15H03259
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Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
佐々木 真 駒澤大学, 文学部, 教授 (70265966)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
丸畠 宏太 敬和学園大学, 人文学部, 教授 (20202335)
辻本 諭 岐阜大学, 教育学部, 准教授 (50706934)
剣持 久木 静岡県立大学, 国際関係学部, 教授 (60288503)
西山 暁義 共立女子大学, 国際学部, 教授 (80348606)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ヨーロッパ史 / 軍事史 / 戦争 / 博物館 / 記憶 / 歴史叙述 / 歴史認識 / 平和 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は研究分担者4人に加え、連携研究者2人(鈴木直志、原田敬一)、研究協力者3人(西願広望、松本彰、斉藤恵太)で研究を実施した。まず、5月1日に全員が集まり、世田谷平和資料館を視察した後、夏期の調査対象の絞り込みを行った。ここでの議論を踏まえ、8月15日から23日にかけて、以下のヨーロッパの博物館を視察した。帝国戦争博物館(IWM、ロンドン)、帝国戦争博物館北館(IWM North、マンチェスター)、ラ・クーポール(第二次世界大戦と宇宙開発博物館、ノール県、フランス)、王立軍事史博物館(ブリュッセル、ベルギー)、イン・フランダース・フィールズ博物館(イーペル、ベルギー)、ベルギー南部の戦跡・戦争墓地・記念碑。昨年度と同様に多くの博物館を訪れたこと、また各国の戦争博物館が指標とする帝国戦争博物館を視察したことにより、各館の位置づけをより明確に行えるようになった。 1月7日から9日にかけて、広島方面の博物館の視察を行い、以下の施設を訪問した。福山ホロコースト記念館(福山市)、海上自衛隊第 1 術科学校(江田島)、入船山記念館(呉市)、呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム、呉市)、海上自衛隊呉史料館(てつのくじら館、呉市)、広島平和記念資料館(原爆資料館、広島市)、国立広島原爆死没者追悼平和祈念館(広島市)、広島市内の原爆関連記念碑。昨年度と同様に戦争や軍事に関する博物館と平和に関する博物館の双方を視察したことにより、ヨーロッパの博物館との比較の視座をいろいろと得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究により、ヨーロッパの博物館についての理解がさらに深まり、研究の進展がみられた。懸案であった帝国戦争博物館(IWM、ロンドン)の見学からは以下の2点の知見を得た。(1) 第1次世界大戦をめぐる展示では、武器や制服、ジオラマによる戦争そのものの内容と経済や銃後の生活などのありようがバランス良く展示されており、コンパクトかつ適切に示された解説や映像資料の利用が印象的であった。これらの随所におけるさまざまな工夫により、第一次世界大戦についての理解を深めることが可能となっており、この展示内容が他の博物館に影響を与えたことがよく理解できた。(2) 戦争展示において各国の状況が展示されていることや、2層にわたってホロコーストの展示がなされていることから、戦争を単なる国民国家との関係でなく、ヨーロッパの経験や記憶として描こうとすることが理解できた。本年度の視察でもうひとつ印象的だったのが、ラ・クーポールである。プラネタリウムを併設するこの博物館は、第二次世界大戦中にドイル軍のV2ロケット発射基地であったところに開設されている。歴史展示の主軸は、戦争中のロケット開発から戦後の宇宙開発への流れであるが、開発の中心人物であったドイツ人フォン・ブラウンにスポットを当てることや、V1飛行爆弾やV2ロケットの開発と生産が行われたミッテルバウ-ドーラ強制収容所についての展示を行うことにより、対象を多角的に捉えて提示する工夫がなされており、戦争や兵器の描き方としての新しい潮流を知ることができた。この他、戦場となったベルギーの博物館や史跡なども研究への視点を与えてくれ、本年度の視察により、ヨーロッパの戦争・軍事博物館のあり方をある程度パノラマ的に提示できることとなった。 また、日本における博物館の見学では、これも懸案となっていた広島地方を訪れることができ、昨年度と同様に大きな成果があった。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である今年度は、前年までの研究の状況を踏まえ、若干の方策の変更を行う。海外調査については、過去2年間の経験から、ヨーロッパの戦争・軍事博物館が抱えている課題や新たな模索については、ほぼ総合的に理解することができた。これに対する比較の参照軸として、本研究では日本の博物館も調査しているが、第3の軸として、ヨーロッパ諸国や日本とは異なる戦争体験を有してきたアメリカの博物館を調査する必要性がメンバー間で認識された。本来ならばワシントンD.C.などを対象として、アメリカ本土の調査を行うべきであるが、予算の関係上難しいので、真珠湾(ハワイ)の訪問を予定している。ここには、日本軍の真珠湾攻撃で沈んだ戦艦アリゾナの記念館、戦艦ユタの記念碑、1945年9月に降伏調印式が行われた戦艦ミズーリ、パールハーバー太平洋航空博物館、潜水艦ボーフィンなどの多くの博物館・記念碑があり、有益な比較対象となることが期待される。 日本国内の博物館については、昨年度の広島・呉での調査を踏まえ、平和博物館と軍事博物館の双方をバランスよく調査する。一番の候補は、平和博物館の研究上の拠点である立命館大学 国際平和ミュージアムで、これと同時に、所蔵品がユネスコの世界記憶遺産に登録されている舞鶴引揚記念館を訪問する。いずれの館でも、関係者とのミーティングを行う。その他、予算が許せば他の博物館の調査も実施する。 最終年度となる本年度は、3月に最終的な打ち合わせを実施する。博物館の調査が主体となる本研究では、研究期間中に出版等の具体的な成果を出すことが難しいので、研究期間終了後に研究成果の公表を行う。そこで、研究を公表する方法や媒体などについての話し合いを3月の研究集会で行い、公益性の高い公表のあり方を決定する。
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Research Products
(25 results)