2015 Fiscal Year Annual Research Report
小氷期最寒冷期と巨大噴火・津波がアイヌ民族へ与えた影響
Project/Area Number |
15H03272
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Research Institution | Hokkaido Museum |
Principal Investigator |
添田 雄二 北海道博物館, 研究部, 研究員 (40300842)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
青野 友哉 伊達市噴火湾文化研究所, 文化課, 研究員 (60620896)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アイヌ民族 / チセ / 小氷期 / 気候復元 / 巨大噴火津波 |
Outline of Annual Research Achievements |
アイヌ文化期は、小氷期と大部分の時代が一致する上、特に寒冷であった17世紀は北海道では巨大噴火・津波が頻発していた。文字を持たないアイヌ民族に関しては、それらの影響について古文書から読み取ることができない。そこで我々は、これらに被災した伊達市カムイタプコプ下遺跡を発掘し遺構や遺物の科学分析から自然災害を含む当時の環境を復元して、アイヌ民族へ与えた影響を学際的に明らかにする研究をスタートさせた。 過去に実施したカムイタプコプ下遺跡の発掘調査では住居趾、畑跡、貝塚、墓などを確認しているが、小氷期最寒冷期(17世紀中頃)にあたる貝塚は未確認であった。そこで、今年度の野外調査では、津波堆積物とUs-bとの層位関係から、1640~1663年に限定することができる貝塚を発見することを最重要課題とした。 調査手法としては、できるだけ多くの貝塚を発見するため、大口径の検土杖を用いることとし、鍵層となる津波堆積物が明瞭に分布することが判明している遺跡の北側において2方向の側線を設定した。58地点を調査し、6地点において17世紀中頃の貝塚と推定される貝殻片や動物骨片を確認した。これにより次年度の遺跡発掘調査の際に、より効果的に研究目的を達成するための発掘エリアを絞り込むことが可能となった。また、同時期に形成された畑跡である可能性を示す人為的な堆積の乱れも確認した。畑跡も本研究課題においては重要な研究対象であり、作物痕の可能性がある痕跡からデンプン粒の検出が増えれば、例えばダイコンやカブのように花が咲く前に収穫される作物で畑跡から花粉が検出しづらい作物であっても、栽培種を推定できる可能性がある。これにより、人々が当時の寒冷環境に対応してどのような作物を栽培していたかが判明する可能性がある。 以上のように、今年度の調査では、来年度から行う遺跡発掘調査のエリアを決めるための重要なデータを入手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成27年5月、研究代表者の息子(知的障害児・療育手帳B)の世話をしてくれていた義父が急死し、代わりの世話人を用意しなければ出張(野外調査)が不可能となったため、6月以降に予定していた計画を延期する必要が生じた。直ちに新しい世話人を用意したが息子との信頼関係を築くのに時間を要した。幸い、平成28年1月には息子の世話を任せられる状況となったため、同月末から野外調査を開始することができた。このように、平成27年度に予定していた研究計画のうち、野外調査に関する部分の計画が遅れた。これにともなって未使用となった研究費については、「調整金」を利用した次年度使用の申請を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は平成28年度に予定している下記の研究計画について、「調整金」も含めて効率よく目的を達成させる計画である。 (1)カムイタプコプ下遺跡の発掘調査:これまでの発掘調査で確認している1640~1663年の未発掘のチセを中心に発掘エリアを設定。発掘は9月上旬に9日間実施 (2)科学分析用試料の採取と分析:遺跡および周辺における1640年津波堆積物と1663年有珠山火山灰の調査。遺跡も含めた有珠地区での地質調査は、発掘期間の他にも年4回実施する。気候復元を目的とした安定同位体と成長線の分析はセットで行い、長寿命の貝類の中からより長生きの個体を選択、実施する。栽培作物の特定を目的とした花粉および残存デンプン粒分析用の試料は作物痕およびそれに接する周辺土壌をサンプリングする。展示資料としても活用するため、断面と上面を剥ぎ取り立体復元模型も作製する。積雪量復元のための植物珪酸体分析については、遺跡およびその周辺において1663年有珠山火山灰を鍵層として土壌試料をサンプリングする。動物遺存体分析のうち、海生哺乳類骨分析は、本発掘で得られた資料に加えてこれまで有珠の近世貝塚(ポンマ、善光寺2遺跡)で報告された既存の資料も対象とし、冷水系種のAMS年代測定を実施して当時の海洋環境を復元する。 (3)成果公表:発掘期間後半の平日に一般向けと有珠小学校児童向けの現地説明会を行う。発掘終了後は各結果をとりまとめ,速報として当館研究紀要に掲載し、さらに申請者と他1名が各学会で発表する。年度末には伊達市で講演会を開催し(4名が発表)、合わせて発掘成果写真パネル展も開催して相乗効果をはかる。その際、剥ぎ取り標本も展示する。
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Research Products
(4 results)