2015 Fiscal Year Annual Research Report
中国における差別問題の「発見」と法的対応――社会実態、理論、制度、運用上の特徴
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15H03285
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
鈴木 賢 明治大学, 法学部, 教授 (80226505)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
阿古 智子 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (80388842)
宇田川 幸則 名古屋大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (80298835)
佐藤 千歳 北海商科大学, 商学部, 准教授 (80708743)
李 妍淑 北海道大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 助教 (90635129)
小林 昌之 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, その他部局等, 研究員 (60450467)
高見澤 磨 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (70212016)
石井 知章 明治大学, 商学部, 教授 (90350264)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 差別 / 反差別法 / 戸口 / ジェンダー / 障害者 / 官製NGO / NGO / 市民社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
中国における差別問題のうち、戸口、身体障害、ジェンダー、疾病に関する差別現象について、文献情報の収集および解析、招へいないし訪問して以下のような人物を対象にヒヤリング実施やワークショップ開催により、実情の把握に努めた。 具体的には、研究者(中国社会科学院世界宗教研究所・段琦、武漢大学・張萬洪、清華大学・郭于華、同・曾繁旭、華東師範大学・邵愛玲、北京大学・賀衛方、北京航空航天大学・高全喜、中国政法大学・王建勛、同・䔥翰など)、NGO活動家(愛知行研究所・万海延、アムネスティ・インターナショナル東アジア地域事務所・ニコラ・ベクラン)、弁護士(王振宇、斯偉江)、ジャーナリスト(陳宝成、呉微、喩塵)などの各氏。 戸口による差別は差別される人口の多さと差別的に配分される資源の膨大さにおいて中国における最大の差別問題であるが、一向に解消には向かっていない。一部の都市で資産や身分ポイントによる戸口取得の道がわずかに拓かれているが、その基準自体が差別的であり、適用の対象となる者は、ごく限られている。とくに就業、教育における差別は顕著であり、格差の再生産を媒介し、社会を分断する深刻な事態となっている。 障害者、ジェンダーによる差別、労働における差別問題に取り組むことが期待される民間組織ついては、共産党に制御された官製NGOたる障害者連合会、婦女連合会、総工会しか、公式には認められておらず、草の根のNGOが生存、活動する空間はますます狭められている。あらゆる差別問題は、自律的な組織を欠くバラバラの当事者と政府が直接対峙する二元構造をなしており、差別解消をもっぱら政府の所為に期待するしかない構造となっている。せいぜい散発的、偶然的にメディアや訴訟により個別の問題を告発することができることがあるに止まり、有効な反差別法制を欠くことも相まって、根本的な解決へのボトルネックとなっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
区分(2)となったおもな理由は3つに集約できる。 1 差別問題を研究する研究者、差別問題解消に取り組む草の根NGO、弁護士との人的ネットワークの構築ができている。これにより今後3年間の研究期間において差別問題をめぐるさらなる問題状況の把握に有利な条件を提供している。NGOについては海外非政府組織国内活動管理法(2016年4月28日)が採択されるなど、ますます締め付けが厳しくなっており、今後、注視を要する。 2 戸口、障害者、ジェンダーにおける差別については、実情をかなり把握しつつあり、今後は疾病、宗教、性的指向などの差別へも拡大する見通しが立っている。いずれの領域でも個別の立法や行政的措置、単発の訴訟提起などがあり、新たな事態の展開が見られる。しかし、包括的な反差別立法はなく、差別問題を包括的に扱う政府部門はないし、相談機能も弱いという全体像は明らかになっている。 3 中国の差別問題がおかれている特殊な構造を、バラバラの当事者と政府が対峙する二元構造とモデル化し、二者間に市民社会(自由なメディア、自律的なNGO)を挟まない点に最大の特徴があることを明らかにしている。今後は三元構造がもつ効果を他国(日本や台湾)と比較して、それへの移行の萌芽は見られないのか、それにかわるメカニズムの消長の可能性を模索することになる。差別問題解消に向けた社会ガバナンス構造に迫れたことで、個々の現象の把握にとどまらない理論的なモデル化に道を開いた点がポジティブに評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度にはおもに以下のような方針で研究を推進することとする。 1 昨年と同様に文献収集、文字情報の解析、研究者、活動家、当事者、弁護士などへのインタビューを継続することにより、各種の差別問題についての沿革と現状につき、より精緻な把握に努める。また、それぞれの差別現象に近時、質的、量的な変容が生じていないかを検証する。 2 日本へ研究者や活動家、弁護士など数名を招へいし、中間的なワークショップを公開で開催し(東京、明治大学駿河台校舎を予定)、事実レベル、理論レベルでの認識深化を図るとともに、中国の差別問題に関心を寄せる日本の研究者や市民、NGO、弁護士などと情報を共有する。これにより市民レベルで連帯して、日中の差別問題に取り組む体制づくりにいささかでも貢献し、公金に由来する科学研究費補助金助成の成果を社会に還元する。 3 研究組織内部での報告会開催により、それぞれが得ている情報の共有、分析理論枠組みの検証、さらなる精緻化に向けて討議を行う。 4 本プロジェクトで得られた中間的成果を関連する研究会や学会で報告し、成果を学会に還元するとともに、理論的枠組の修正を図り、さらに有効なものへと鍛錬することとする。
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Research Products
(16 results)