2016 Fiscal Year Annual Research Report
非行少年・犯罪者に対する就労支援システムの展開可能性に関する考察
Project/Area Number |
15H03297
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
石川 正興 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (50120902)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 刑事政策 / 就労支援 / 司法福祉 / 更生保護 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.国内実態調査 総社市長の片岡聡一氏を早稲田大学社会安全政策研究所に招き、同市の「障がい者千人雇用計画」について講演・意見交換会を開催したほか、「ソーシャルファームジャパンサミットinつくば」に参加し、国内のソーシャルファームの最新情報を得た。 2.海外実態調査 以下二国の調査を行い、知見を得た。 ①フィンランド (ア)国がソーシャルファームに関する法律を制定し、その設立・運営を後押ししている。(イ)「犯罪者に限定した就労支援」から「犯罪者も含む、社会的弱者一般の就労支援」へと対象者を拡大したソーシャルファームの試みが数多く存在する。(ウ)比較的軽い刑事処分を受けた犯罪者に対する社会復帰支援策は司法システムの手を離れ、社会福祉行政システムに大幅に委ねられている点で、わが国における業務分担の仕組みと異なる。(エ)リサイクル品の生産・販売業や有機農法による農業など、地球環境に配慮したソーシャルファームが特徴的である。 ②フランス (ア)ジャルダンでは犯罪者を「社会的弱者」の一員として、障害者・長期失業者等と区別することなく一緒に受け入れている。(イ)有機農法という地球環境に配慮した農業生産を心掛けるとともに、近隣住民との間で定期販売契約を結んで恒常的な販売網を確保し、安定した経営を心掛けている。こうした方針は、地域住民との良好な関係維持にも役立っている。(ウ)国の支援のほかに大企業などがスポンサーとなり、CSRの一環としてジャルダンの経営を援助している。(エ)犯罪者の受け入れについては、ジャルダンと保護観察機関との間で協定書を締結している。ジャルダンが引き受ける犯罪者には、刑務所から外部通勤の形でジャルダンへ赴く者や、拘禁刑の修正として電子監視を受けつつ作業を行う者もいる。 3.日本更生保護学会の開催 ジャルダン・ド・コカーニュ代表のヘンケル氏を招き、基調講演・シンポジウムを開催した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は前年度までの研究成果を土台に調査研究を実施し、さらなる成果を得られた。その概要は以下のとおりである。 第一にジャルダン・ド・コカーニュについては、前年度までの調査で未解明となっていた点があり、この解明が最優先の課題であった。そこで平成28年度はソーシャルファームジャパンサミットにおけるヘンケル氏の講演に参加したほか、更生保護学会に同氏を招いての基調講演・シンポジウムを開催し、さらなる知見の収集に努めた。これらを経たうえで、平成29年3月にフランスのアヴィニョンを訪問して矯正施設出所者も含めた社会的弱者の受け入れをしているジャルダンおよび刑事司法機関の実態調査を行い、未解明の点についてかなりの部分を明らかにすることができた。 第二に平成28年度は、フランスに加えフィンランドを海外での調査対象地域として調査を行った。フィンランドでは近年ソーシャルファーム法が制定され、国がその設立を後押ししているほか、比較的軽微な刑事処分を受けた犯罪者に対する社会復帰支援策は社会福祉行政システムに委ねられているなど、刑事司法と社会福祉行政がわが国よりも密接に連結していた。こうした取組みはわが国における犯罪者等に対するソーシャルファームの展開にとって示唆に富むものであった。 第三に、今回のフランス調査には曾田正和氏(株式会社えちご棚田文化研究所東京支社長)、中村邦子氏(社会福祉法人白鳩会(鹿児島花の木農場経営)常務理事)、大久保洋平氏(鹿児島花の木農場花の木ファーム支援員)、鷲野薫氏(更生保護法人両全会企画室長)を同行させた。彼らはいずれも国内における農業分野のソーシャルファーム運営に携わる実務家であり、これまでの実践経験を基にした意見交換から得られた知見は、今後のわが国におけるソーシャルファーム展開のための諸条件を明らかにするうえで有用なものであるといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は最終年度として以下の研究を実施し、取りまとめを行う。 1.国内実態調査 前年度に引き続き、犯罪者を含む社会的弱者を一緒にして就労支援を行う、いわば「混成型就労支援」の展開可能性を探ることに重点を置いて、わが国における就労支援の取組みを調査する。とりわけ、「現在までの進捗状況」で紹介した国内のソーシャルファームの中には本格的に運営を開始するものや、新たな取組みを開始するものもあるので、訪問のうえ現状と課題に関する聞き取り調査を行い、わが国においてソーシャルファームを中心とした就労支援の仕組みを展開するための諸条件を解明する。 2.海外実態調査 前年度に引き続き、フィンランド・フランスのソーシャルファームの取組みと、それらを通じた就労支援と刑事司法システムとの連結に関する実態解明を行う。また、上記二国におけるソーシャルファームの取組みに見られる諸特徴が、他のヨーロッパ諸国においても同様か否かを検証するために、とくにデンマークやスウェーデンを中心としたスカンジナビア諸国を訪問して実態調査を実施する。国内調査に加えてこれらの海外調査も行うことにより、わが国におけるソーシャルファームを中心とした就労支援の仕組みを展開するための諸条件を解明する。 3.検討会の開催及び研究成果のとりまとめ 研究グループによる検討会を随時開催して成果の取りまとめを行うほか、最終年度として研究成果を報告書として公刊する。
|
Research Products
(2 results)