2016 Fiscal Year Annual Research Report
グローバル化に伴う領域横断的法学研究・教育の課題と可能性
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15H03304
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
山元 一 慶應義塾大学, 法務研究科(三田), 教授 (10222382)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
横山 美夏 京都大学, 法学研究科, 教授 (80200921)
高山 佳奈子 京都大学, 法学研究科, 教授 (30251432)
齊藤 真紀 京都大学, 法学研究科, 教授 (60324597)
小畑 郁 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (40194617)
西谷 祐子 京都大学, 法学研究科, 教授 (30301047)
船越 資晶 京都大学, 法学研究科, 教授 (70362548)
興津 征雄 神戸大学, 法学研究科, 教授 (10403213)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | グローバル化 / 法学教育 / 法の変容 / 法学領域論 / 法的思考様式 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)公法・人権領域においては,グローバル化のなかの世界と日本の規範構造の動態を把握するために,「グローバル立憲主義」の理論状況を明らかにし,「国際人権」「国内人権」の概念史を概括し,ASEANにおける人権観念の変遷を明らかにした。また戦間期に形成された「国際民主主義」思想が戦後日本の法思考にどのような影響を与えたか,について検討した。国際家族法及び国際人権法の観点からは,従来の国際私法における準拠法の決定及び適用の手法が,親子関係,ムスリム移民の家族関係の規律などの新しい問題に対処するには不十分であり,国際的な規範設定の必要性が生じていることを明らかにした。行政法的見地からは,「正統性」の概念に着目し,「行政過程の正統性と民主主義」の意義を解明した。 (2)刑事法領域においては,①犯罪論の体系の相違および法律・命令・指針といった規制形式の相違と政策決定のあり方の関連性,②社会と法制度との望ましい結び付きを,法学教育および市民の司法参加の局面から検討した。 (3)民商法領域においては,①シェアリング・エコノミーの急速な普及による法の変容について分析と検討を行い,取引法領域において,事業者の規律を通じた取引秩序の維持という国家の役割が揺るがされており,国家法に代替する秩序が模索されていることを明らかにした。②企業関連分野では,規範の名宛人である企業にとっては,外国に進出した日本企業は,規範の内容が不確定で諸規範の間の整合性がかならずしも保障されない状況下で営利目的を達成するべく活動してきたことを明らかにした。 (4)基礎法学領域では,すべての法的言説を政策に還元してしまう政策分析(比較衡量)こそ現在グローバル化している法的思考様式であること,その基盤となるのが主権国家ではなく「帝国」であることを確認したうえで,「帝国」の構造を分析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)公法・人権領域においては,順調に進捗している。「グローバル立憲主義」の理論状況が明らかになり,「国際人権」と「国内人権」の間に緊張関係が持続していること,ASEANでは,普遍的人権観念の少なくとも表面上の受容が進んでいること,戦間期・戦後初期の法思想がグローバル法現象にとっての参照枠組みとして有効であることが明らかにされた。国際家族法の各論としての子の奪取や代理懐胎の問題について,順調に検討が進んできている。また行政法領域でも,基礎理論・基礎概念に関するものについて,口頭による学会発表の形で公にしてきた。 (2)刑事法領域においても,順調に進捗している。国際的な協調の求められる領域である最先端生命科学において,日本では指針による詳細な規制が及んでいるが,基本的な政策の方針は,他の多くの先進国と同様に法律の形で民主的に決定される必要があるという課題が明らかになった。また,社会と司法との関係を構築する際には,世論から出される近視眼的なニーズには注意を要し,国際競争や国際人権水準などのより広く長い視点で取り組む必要があるとの結論を得ることができた。 (3)民商法領域においても,順調に進捗している。①シェアリング・エコノミーは,取引法領域におけるグローバル化のなかで,もっとも重大な影響を日本法に及ぼしている事項であり,それにどのように日本が対応しているかを検討した。②インタビュー等を基礎に,現実の法状況を把握することに重点を置き,予定されている聞き取り調査は順調に進んだ。 (4)基礎法学領域では,「主権国家の地位低下」の時代における支配的な法的思考様式は政策分析(比較衡量)であり,ポストモダンの精神史的地平の上で営まれるものであることを確認し,またこのような現代的な法的思考様式のグローバル化を推し進めている中心的な勢力が「法と経済学」であることを明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)公法・人権領域においては,国際公法学と国内公法学から得られている所見と交錯させ,議論をすすめることで,国内・国際両法領域にまたがる動向について統一的な観点を模索し,中国を含む東アジア(北・南)における新たな地域・国際秩序の模索を行っていく。理論的課題としては,グローバルガバナンスの民主的正統性や,現状の領域主権国民国家併存体制において正統性を基礎づける国民概念・国籍概念の検討が課題となる。また,今後の研究を推進する際には,社会学や文化人類学,政治思想や政治哲学などの知見なども盛り込みながら,学際的に新たな問題への対応,国家による規制のあり方とその限界,非国家主体の役割などを多角的に考察し,あるべき制度設計や法規範について考察する。 (2)刑事法領域においては,刑事の分野における人権保障水準の向上を目指す立場から,引き続き法体系の比較研究によりもたらされる効果と課題とを明らかにしながら解釈論・立法論上の提言を試みる。その際特に,刑事罰以外の制裁がかかわる場面での権利保障の問題も視野に入れ,グローバルな議論の成果を積極的に制度設計に生かす方向性を目指す。 (3)民商法領域においては,①シェアリングエコノミーの影響などにより近代所有概念を支える思想にグローバルな次元でどのような変化が起きているかを検討することにより,グローバル化による法学の変容の様相を明らかにする。②今後は,企業のコンプライアンスを巡る状況に力点を置いて,調査・分析を進め,このような分野横断的な課題につきどのような教育が望まれるかを検討する。 (4)基礎法学領域では,第1に,ネグリとハートの〈帝国〉論など社会学・哲学における「帝国」論とのさらなる対話を試みる。第2に,わが国は「帝国」辺境に位置するというテーゼの説得力を高めるべく,実定法学内在的ないし各論的な考察を進める。
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Research Products
(15 results)