2016 Fiscal Year Annual Research Report
定量的リスク管理における統計的方法の研究―接合関数とリスク尺度を中心に
Project/Area Number |
15H03337
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
塚原 英敦 成城大学, 経済学部, 教授 (10282550)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川崎 能典 統計数理研究所, モデリング研究系, 教授 (70249910)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | リスク管理 / リスク計測 / 計量ファイナンス / リスク尺度 / 接合関数 / コピュラ |
Outline of Annual Research Achievements |
金融リスク管理において,用いたリスク計測モデルやリスク尺度推定手法が事後的に見て妥当であったかどうかを検証するバックテストは極めて重要である.これに関して近年議論になっているバックテスト可能性(backtestability)と顕在化可能性(elicitability)の間には明確な関連はないことを論証した.バリュー・アット・リスク(VaR)や期待ショートフォールに倣った形で,歪みリスク尺度のバックテストも可能であり,その一例を示した. 日本統計学会分科会「金融の計量リスク管理」との関連で,今年度の日本統計関連学会連合大会において,実務家2名と国際的に著名な理論家を招いた企画セッションを開き,バーゼルIIIなどの実務上必要とされる手法・問題についての議論を深めることができた.そのための旅費・謝金として本研究費を使用した. 複数の確率変数間の相互依存関係をモデル化する道具として,近年注目されている接合関数(コピュラ)に対して,そのノンパラメトリックな推定量として経験接合関数があるが,その一種の平滑化とみなせる経験ベータ接合関数をより優れた推定量として提案した.さらに,経験ベータ接合関数は経験ベルンシュタイン接合関数の特別な場合であることを示し,かつ経験Bernstein接合関数が真の接合関数となるための必要十分条件を導出した.経験Bernstein接合関数の漸近挙動を詳しく分析した.また,様々な接合関数を想定したシミュレーションにより,経験接合関数,ベータ経験接合関数と次数を平均積分2乗誤差(MISE)最小化の意味で最適化した経験Bernstein接合関数という3つの推定量の有限標本挙動を比較・分析した.これらの結果は,共同研究者である渋谷政昭名誉教授とJohan Segersとの共著論文として,学術専門誌に投稿し,掲載された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
歪みリスク尺度は顕在化可能性という性質は満たさないが,それがバックテストに関して大きな障壁となることはないことがわかったことは重要な進展である.ただし,歪みリスク尺度に対する形式的なバックテストの統計的性質は限定的な条件の下でのみわかっているだけであり,より現実に近い条件の下での振る舞いを調べる必要がある.また,バックテスト手法の最適性に関する議論が深まっておらず,その意味で良いリスク尺度はどのようなものであるのかもはっきりさせる必要がある. 歪みリスク尺度についての資本賦課原理については,コンピュータを用いた計算コードも完成し,いくつかの分布・接合関数を用いたシミュレーションも行っていることから,順調な進捗であると言える. 本研究のもう一つの柱である接合関数について,経験ベータ接合関数の分析は理論・シミュレーションともに完了した.現在研究継続中である経験ベータ接合関数を用いたリサンプリング法について,コンピュータ計算のためのコードはできており,ベルギーの研究者グループとの共同作業も進行中である. 接合関数を用いた金融時系列データにおける複数変量間の相互依存性のモデリングについては,接合関数と所与の時系列構造の両立可能条件がまだ理論的に示されていないため,今後の課題として取り組んでいく.
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Strategy for Future Research Activity |
歪みリスク尺度の推定については,引き続き,金融時系列が長期記憶性を持つ場合や分布の裾が極端に長い場合の漸近挙動について解明する努力を続ける.また,歪みリスク尺度に対するバックテストの統計的性質を,より現実に近い条件の下で調べる必要がある.さらに関連した話題として,一般のリスク尺度について,良いリスク尺度とはどのようなものであるのかも議論し,バックテスト可能性の真の意味,そしてバックテスト手法の最適性についても何らかの提案ができることを目指す.応用上は,実施可能かつ包括的なバックテストの手法を開発することが,本研究の目的である定量的金融リスク管理のための統計モデルとデータ分析手法の開発・検討に欠かせない. 歪みリスク尺度に対する資本賦課原理については,コンピュータ上でのより効率的な計算方法を模索する. 接合関数を用いた,多変量金融時系列データにおける複数変量間の相互依存性のモデリングについては,この分野の問題に関心を持つ研究者の興味を喚起し,さらには共同研究の可能性を探ることを考えている. 接合関数に関する推定・検定を行う際に,統計量の標本分布を推定するためには何らかのリサンプリング法が必要となる.これに対する経験ベータ接合関数に基づくリサンプリング法については,漸近挙動およびモンテカルロ・シミュレーションをベルギーの研究者らとの共同研究として推進していく.
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Research Products
(10 results)