2016 Fiscal Year Annual Research Report
労働市場の近代化と人的資本形成に関する比較史的研究
Project/Area Number |
15H03371
|
Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
齊藤 健太郎 京都産業大学, 経済学部, 教授 (10387988)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
谷本 雅之 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (10197535)
山本 千映 大阪大学, 経済学研究科, 教授 (10388415)
梶井 一暁 岡山大学, 教育学研究科, 准教授 (60342094)
三時 眞貴子 広島大学, 教育学研究科, 准教授 (90335711)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 経済史 / 教育学 / 人的資本 / 労働市場 / 学校 / 近代化 / イギリス / 日本 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は一昨年度に参加・開催した二つの国際学会、世界経済史会議(WEHC,京都国際会館)と日英歴史家会議(AJC, 大阪大学)で得られた結果と研究方針に基づいて、各自が研究を進めることが中心となった。 各自の今年度の研究内容を以下にまとめる。齊藤(研究代表者)は、イギリス19世紀中期から20世紀中期までの賃金のコンバージェンスを分析しているが、その一要因としての労働組合の賃金標準化に関する調査を行った。また、日本に関して明治・昭和戦前期の労働市場統合の進展について研究を進め、その一部を2017年2月に韓国・啓明大学で行われた国際学会で報告した。また、山本(研究分担者)は産業革命期の犯罪者の識字率の分析を進め、2017年3月の比較教育社会史研究会春季例会で、三時(研究分担者)と共に、関連報告を行った。谷本(研究分担者)は高梨家文書を用いて、醤油醸造経営における雇用労働を分析している。労働供給に関して、明治中後期の年給労働者の増加、また幕末期から明治中後期にかけての労働者の供給源の近接化を明らかにした。また、三時は19世紀後半のバーミンガムにおける基礎学校での『技術教育』の実践について調査し、体系的に特別科目を教える基礎後学校の設立により、実業教育が普及していたことを示すことで、学校教育から技能の標準化への道筋を示した。梶井(研究分担者)は19-20世紀日本における国民教育の確立を学校を通じた労働力標準化の前提として、学校教育による制御や統制に慣れた児童生徒を、すなわち標準化された身体を持つ労働力予備軍を、事例として研究を進めている。 これらの進捗について2016年11月19日に広島大学・教育学部において研究会を開催し、各自の研究の進捗を確認・検討した。また、研究代表者・分担者ともにイギリス・日本の文書館・図書館等において、研究計画に述べた資料調査および収集を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
進捗状況を「やや遅れている」とした理由として、第1に研究が「遅れている」点について、第2にそれが「やや」であった点について述べる。 第1に研究進捗が「遅れている」であったとする理由は、初年度に開催した二つの国際学会で形成したセッションから得られた課題の展開が共同研究として十分に進められていないことによる。WEHCでは近代化過程における労働市場の変化を労働移動などの労働供給・人的資本の影響・職業構成の変容などの局面から、国際比較に視野を広げながら検討できた。また、AJCでは、19世紀後半から20世紀初頭の教育への政府や企業の関与を日英比較することで、社会的特質や産業化の諸段階を背景にして教育や訓練が独自の展開をみたことが示された。本年度はこれらの点を、各自の調査・研究領域で再検討し、調査を進めた上で、関連領域内で統合する予定であったが、研究会の開催などが十分にできず、個々の研究としての進行が中心となった。そのため、進捗は「遅れている」とした。 第2に、研究進捗の「遅れ」が「やや」であったとする理由は、議論の統合がおくれてはいるものの、個々の研究は資料収集などを中心に確実に進展しているからである。本研究の課題は、第一に労働者の知識や技能の変化を検証し、第二に人的資本の変化が労働者・企業・地域社会・国家において多様な展開を取ったことを示し、第三にそれらの独自性を「労働市場の進化」として捉えなおすことにある。学会報告では、日英の人的資本形成過程の多様性の一端を示したが、第一点の知識や技能の変化とその社会的評価の研究とこれらの相違点との関連を明示的に論じることはこれからの課題である。したがって、その総合である「労働市場の進化」についても引き続き、広い国際的な比較研究のなかで考察していく必要がある。以上の諸点から、進捗状況につき上記のように評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
上の「現在までの進捗状況」で示したように、今後の研究の推進方策として以下の3点を考えている。第1に、昨年度と同様に、18世紀後半から20世紀初頭の労働者一般の知識や技能がどのように変化したのかを検証し、その知識や技能の到達水準を数量的に示すための実証的な分析を進めることである。イギリスについては、引き続き、18世紀末から19世紀中半の識字率の算定、19世紀を通じて整備された基礎教育学校における一般教育と技術教育の内容の分析を進める。マンチェスターに加え、バーミンガムやその他の産業都市での事例研究を進める。また、そのような技能をもつ労働者の供給に関して、労働移動の点からイギリス国内・国外において分析する。日本に関しては、引き続き世帯からの労働供給の形態の変化を調査する。また、教員養成機関および小学校での手工科や実業科のカリキュラム開発の動向等について資料調査・分析を進める。技能訓練に関しては、徒弟学校などのカリキュラムから職業教育の内容と近代化共に導入された技術との関連を確認する。 近年、技術の進歩と新しい技能への需要の変化、また労働者側からの供給形態の変化などの新しい研究などが現れている。そこで第2に、経済史における新しい潮流などをも含めて、本研究の理論的な枠組みに対しても常に新しい検討を加えることを、研究推進の方策の一つとし、経済学やその他関連領域の専門家を研究会に招くなど、幅広く学会動向に改めて目を配る計画である。 第3に、以上の計画のために、年3回程度の研究会開催を通じて、それぞれの進捗を確認し、研究内容の検討を行う。また、成果の発信のために海外の研究者の招聘を行い、小・中規模程度の国際研究会の開催を計画している。実証研究の進行のため、引き続き現地での資料収集および調査を計画している。
|
Research Products
(6 results)
-
-
-
-
-
[Book] 第3章・谷本雅之「醤油醸造業における雇用と労働」、井奥・中西編『醤油醸造業と地域の工業化』2016
Author(s)
井奥成彦, 中西聡, 髙梨節子,石井寿美, 石崎亜美, 谷本雅之, 天野雅敏, 花井俊介, 前田廉孝, 桜井由幾, 森典子, 岩淵令治
Total Pages
616 (pp.157-192)
Publisher
慶應大学出版会
-