2016 Fiscal Year Annual Research Report
公正な雇用ポートフォリオモデルの構築と雇用区分管理手法の開発
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15H03380
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
平野 光俊 神戸大学, 経営学研究科, 教授 (10346281)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
江夏 幾多郎 名古屋大学, 経済学研究科, 准教授 (00508525)
余合 淳 岡山大学, 社会文化科学研究科, 准教授 (50736808)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 雇用ポートフォリオ / 非正規労働者 / 均衡・均等処遇 / 限定正社員 / 分配的公正 / 衡平理論 / 社会的比較 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究プロジェクトの2年目にあたる平成28年度は、第1に昨年度の企業との産学連携研究の成果の一部をワークショップ形式で発表した。具体的には雇用ポートフォリオの問題をグローバル経営における日本人と外国人の人材育成に焦点化し、神戸大学大学院経営学研究科と現代経営学研究所(RIAM)の共催でワークショップ(WS)を開催した(2016年7月17日、神戸大学梅田インテリジェントラボラトリ)。WSの記録はRIAMが発行する会報誌『Business Insight』No.95で公表した。 第2に、日本労務学会全国大会における統一論題シンポジウム「雇用システムの新展開―雇用ポートフォリオの理論から実践へ―」を、本研究プロジェクト研究代表者の平野が企画コーディネートするとともに座長を務めた。シンポジウムでは本研究プロジェクトの産学連携研究会で得られた知見を踏まえて解題発表を行い、パネリストとともに議論した。 第3に、平成27年に実施した大阪府労働協会との共同調査の成果『中小企業における女性と若者の活躍推進に関する調査報告』http://1.l-ork.jp/security/up/tyousahoukoku2016.pdfを公表した。本調査で得られたデータを用いて研究代表者の平野が日本産業カウンセリング学会の大会で報告するとともに研究分担者の余合淳と共著でディスカッションぺーパーを発表した。 第4に西日本を中心に食品スーパーを展開するマックスバリュ西日本の店長180名を対象としたアクションリサーチおよび店舗従業員1400名を対象とした質問票調査を行った。雇用ポートフォリオを女性従業員と非正規従業員の活躍推進に焦点化し、それを促進する店長のリーダーシップと家族支援的上司行動を高めることを目的に、延べ6回の研修を行った。その研修効果を確認するとともに、質問票調査で得られた結果の一部を用いてディスカッションペーパーを発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究プロジェクトの目標は、公正な雇用ポートフォリオ・モデルを理論的に構築し、操作性に優れた実践的な雇用管理区分の手法を開発することである。そこでの重要な視座は、労働分野の政策の「意図せざる結果」を予測し、それを封じ込めることである。 その目標に鑑みて、平成28年度は各種の研究から次の知見を得たことが「おおむね順調に進展している」とした主たる理由である。得られた知見は以下の3点である。1)質的基幹化は非正規従業員のモチベーションを喚起している。2)賃金分配における公正性の知覚が非正規従業員のモチベーションに影響する。3)正社員との処遇格差に関わらず非正規従業員のモチベーションが低くないのは、分配的公正を評価する際に、正社員ではなく同じ非正規従業員を比較対象にしているからである。そしてこのことは政府の労働政策および企業の雇用ポートフォリオ・マネジメントに対して重要な含意を持っている。 日本では現在、非正規従業員の処遇改善を目的として、改正労働契約法による非正規従業員の無期雇用への転換促進および同一労働同一賃金が政策課題となっている。その議論の前提は、非正規従業員は処遇格差に不満を持っているということである。しかし、本研究プロジェクトで明らかになったように、日本では非正規従業員のモチベーションは正社員に比べて低くない。日本企業は、非正規従業員の質的基幹化政策によって、その内発的モチベーションを喚起し、一方で正社員と非正規従業員の境界の壁を高くすることによって正社員との比較を遮断してきたといえる。 しかし今後、労働契約法の改正に伴う有期雇用から無期雇用への転換の促進や、同一労働同一賃金といった一連の労働政策が、それまで休眠状態にあった非正規従業員の、正社員との処遇格差への不満を覚醒させる可能性が高い。この点を考慮した雇用ポートフォリオを具体的に検討することが最終年度の課題となる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度に当たる平成29年度は、これまでの研究の仕上げとして、衡平理論(equity theory)と社会的比較(social comparison)という概念を用いて、公正な雇用ポートフォリオ・モデルを構築し、その成果を公表する。これまで明らかになった非正規従業員の公正性の知覚と比較対象の関係の知見を確たるものにするために、本年度は食品スーパーを全国展開するライフコーポレーションの従業員を対象とする質問票調査を行う。また、公正な雇用ポートフォリオの人事制度への展開における課題を検討するために、日本能率協会(JMA)とタイアップし、企業の人事部長を対象とした大規模質問票調査を行う。 成果については現在得られている知見を図書に総合的にまとめ、研究代表の平野と研究分担者の江夏の共著で年内に有斐閣から出版する。また10月に開催される経営行動科学学会大会において研究成果を報告する。 学術論文としては以下の2つについて適切な学術雑誌に投稿する。1)マックスバリュ西日本の店長研修のアクションリサーチのデータを用いた店長のリーダーシップと女性活躍及びワークライフバランスの関係、2)GMSとSMなどチェーンストア小売業に勤めるパートを対象としたWEB調査を用いたパート労働者のモチベーションの規定因研究。なお、本研究プロジェクトでは、企業の実務者へ得られた知見をフィードバックすることも重要である。そのためJMAと共同で企業の人事スタッフを対象としたシンポジウムを年内ないし来年始に開催する。
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Research Products
(7 results)