2016 Fiscal Year Annual Research Report
「新たな社会問題」空間としての被差別部落と都市下層の再編過程の研究
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15H03410
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
野口 道彦 大阪市立大学, 人権問題研究センター, 特任研究員A (00116170)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
古久保 さくら 大阪市立大学, 人権問題研究センター, 准教授 (20291990)
阿久澤 麻理子 大阪市立大学, 大学院創造都市研究科, 教授 (20305692)
島 和博 大阪市立大学, 人権問題研究センター, 特任研究員A (50235602)
櫻田 和也 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 都市文化研究センター研究員 (70555325)
熊本 理抄 近畿大学, 付置研究所, 准教授 (80351576)
岸 直子 (齋藤直子) 大阪市立大学, 人権問題研究センター, 特任准教授 (90599284)
桜井 啓太 大阪市立大学, 人権問題研究センター, 特別研究員 (90751339)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 階級 / 階層 / 社会移動 / 部落問題 / 都市問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
大阪市内の被差別部落(S地区)で調査への協力が得られ、世帯票・世帯員票、15歳以上全員を対象とする個人票によって生活実態調査を行うことができた。公営住宅からなるS地区は、応能応益家賃方式の導入後、所得の安定層は地区外に転出し、転入者も増加し、被差別部落と都市下層の再編過程を解明する研究に適合的である。 S地区の調査対象467世帯から、335世帯、540人の有効回答が得られた(回収率は71.1%)。それにより、被差別部落の現状として極めて注目すべき実態が明らかになった。「片親と子」の世帯が全体の18.2%を占め、「夫婦と子ども」の11.9%と比べても極めて多い。「単身世帯」は43.6%と多数を占める。その大半が高齢者である。また、「夫婦のみ世帯」も同様で、この地区の高齢化は著しい。転出子をまったく出していないのは211世帯であり、124世帯から、延べ216人(世帯当たり平均1.74人)の転出子を出している。 従来、被差別部落は閉鎖的だと根拠なく言われてきたが、現実には、流動性は高い。15歳以上のもの540人のうち、この地域以外での生活を未経験者は27%にとどまる。生まれはこの地域だが他所で生活した経験を持つものは23%であり、他所から、ここに転入してきたものは48%と多い。 S地区では、地区内に福祉法人、隣保館、総合福祉センターなどがあり、様々な活動を展開し、多様なサービスを提供している。それらの認知状況、利用状況、福祉ニーズについてのデータが得られた。 また、この調査では、地元の自治会役員、団地各棟の班長、隣保館職員などに調査員になってもらった。その調査員(十数人)を対象に、聞き取り調査を行い、量的調査を補完する質的なデータを収集した。 定例的に研究会を行うだけではなく、3月下旬に合宿を行い、調査対象地域からの代表の参加を得て、データの意味・解釈を巡って、意見交換を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2016年度当初は、転入世帯に面接調査を行い、生活実態を量的に把握することは困難であると予想し、質的な聞き取り調査に切り替え、データの収集を考えていたが、その後の予備調査の結果、量的な実態調査に協力を得られる地区あることが判明し、ある程度まとまった数の世帯を生活実態調査を行うことができた。これが2016年度の大きな成果であり、研究を大きく進捗させた。 有効回答が得られた335世帯、540人の中には、2000年以降に転入してきた世帯も含まれ、本研究の重要なテーマである転入世帯(公営住宅居住者)の生活実態に解明のためのデータも得られた。また、世帯主から見て子どもがどれぐらい転出しているのか、その実態も量的に把握できるデータを得ることができた。これも2016年度の大きな成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
2016年度に実施した生活実態調査では、335世帯、540人から有効回答が得られた。回収率は71.1%である。1) これが、どのような偏りを持つものか、既存の統計と比較検討を行う。 2)「片親と子」の世帯が全体の18.2%を占め、「夫婦と子ども」の11.9%と比べても極めて多い。この偏りが転入によってもたらされたのか、他の要因によるものか、原因の解明を行う。 3)「単身世帯」、「夫婦のみ世帯」も60歳以上が大半を占め、この地区の高齢化は著しい。これと転出子との関係を分析する。4) 転入者は、どのような契機でS地区に転入してきたのか、旧来の住民とどのような関係を取り結んでいるのか、いくつかのパターンを析出し、S地区が今後、どのように再編されようとしているのか分析する。5) S地区では、地区内に福祉法人、隣保館、総合福祉センターなどがあり、様々な活動を展開し、多様なサービスを提供している。その利用者は地区外にも広がっている。それらのサービスの認知状況、利用状況、福祉ニーズのあり方を分析し、今後の街づくりの方向を明らかにしたい。6) 昨年度、調査員(十数人)を対象に、聞き取り調査を行い、量的調査を補完する質的なデータを収集した。調査員自身のライフヒストリーも含め、S地区とのかかわりや現在の住吉地区の状況についての認識、転入世帯と既存世帯との社会的関係、この調査を通じて見えてきたS地区の課題などについての語りを分析する。7) 特別措置法の期限切れから同和教育の実施状況に大きな変化が見られるが、部落出身教師の目からはそれをどのように受けとめているのか、部落問題をめぐる意識のありかたの変化などを人権教育の視点から分析する。 このような様々な視点からアプローチすることによって、「新たな社会問題」空間としての被差別部落と都市下層の再編過程を明らかにする。
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Research Products
(23 results)