2015 Fiscal Year Annual Research Report
道徳意識の生成・共有・創発過程:個人と文化の動態的関係の解明
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15H03446
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
唐沢 穣 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (90261031)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
笹原 和俊 名古屋大学, 情報科学研究科, 助教 (60415172)
日置 孝一 神戸大学, 経営学研究科, 講師 (60509850)
北村 英哉 関西大学, 社会学部, 教授 (70234284)
鈴木 敦命 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (80547498)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 道徳判断 / 道徳基盤 / 二過程モデル / 文化心理学 / 複雑系科学 / 顔情報 / 状況サンプリング |
Outline of Annual Research Achievements |
・道徳判断の基礎をなす直感的情報処理過程と熟慮的情報処理過程を比較対照するための実験研究を行った。道徳葛藤事態を実験参加者に示して事前にプライミングした道徳基盤概念の影響を調べた。忠誠基盤のプライミングにより、公正よりも忠誠を重視する回答が見出された。併せて、文化的基盤の異なる日本において既存の道徳基盤概念や指標を用いることの問題性も明らかになった。 ・道徳判断の文化的基盤の影響に関する検討として、状況サンプリング法を用いた国際比較研究を行った。日本・アメリカの両国で収集された倫理違反行為の状況記述について分類・翻訳作業を進めた。また、自己および他者の評判形成に関する日米比較研究を行うことにより、道徳判断の公表性について詳細な検討を行った。 ・行為に依拠した道徳判断を主な対象としてきた従来の研究に代わる、新たな研究テーマとして、人物属性依拠型の道徳判断の過程について重点的検討を行った。主要な実証的知見として以下の点を明らかにした。(1)職業ステレオタイプが隠匿性動機の認知と偽善判断を導く;(2)作為・不作為に関する非難は、道徳行為の場合と不道徳行為に場合と異なり、非対称性を示す;(3)損害状況の記述に用いられる他動詞・自動詞の使用は非難および社会的関係の認知に影響する。加えて、信頼性などの道徳的特性が顔つきに身体化して現れるという「人相信念」を測定するための尺度開発に着手し尺度の内的信頼性が確認された。さらに、肯定的特性が顔に現れるという信念と否定的特性が顔に現れるという信念が別の因子に分かれる可能性が示唆された。 ・日英語Twitterの分析では、道徳に関する発言取得を取得するためのプログラムの作成と試験的データ分析を行った。道徳基盤辞書に含まれる英語キーワードの頻度計測と道徳負荷量の測定などで成果をあげるなど、マクロレベルでの道徳認知の創発過程について基礎研究を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
心理学実験を主な手法とする研究班では、それぞれ実験題材の開発や予備的試行実験が着実な進捗を見せており、次年度以降さらに飛躍的に発展する可能性を十分に蓄積していると言える。また、題材の開発に伴って、日本の文化・社会に特有な道徳基盤、道徳認知の様態について新たな発見が数多くあり、これらが新規の研究仮説を導き出しているケースも多い。さらに多くの実証研究を生み出す可能性が非常に高い。ソーシャルネットワーク分析も、分析ツールの開発が順調に進んでおり、今後さらなる精緻化が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
28年度は、各研究プロジェクトにおいて27年度に行った準備状況を踏まえて、さらなる進展を計画する。まず認知過程の詳細に関する実験的検討では、プライミング手法に加え手、潜在的連合テスト(IAT)を導入するなどして、直感的過程と熟慮的過程の比較検討をさらに精緻化させる。文化的基盤の影響を明らかにするための国際比較研究では、状況サンプリング法による実験的検討をいっそう進展させる。特に、欧米社会を起点として発展してきた道徳基盤理論が十分にカバーし切れているとは言えないアジア文化に特有な道徳基盤の同定と実証を重点的に行う。一方、ソーシャルネットワーク分析では、道徳基盤の作用が個人の認知をはじめとしたミクロレベルで示す作用とマクロレベルで発現する効果との、類似点と相違点を明らかにすることを目指す。 29年度以降は、これらの異なる研究テーマや研究手法の間の学際的連携を試みる。研究分担については、当初の計画を大きく変更する必要は特に認められず、現在の体制で有意義な成果をあげることが引き続き期待できる。
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Research Products
(19 results)