2016 Fiscal Year Annual Research Report
心のダイアグラムを活用した自己調整による“身心”の機能の最適化
Project/Area Number |
15H03454
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
坂入 洋右 筑波大学, 体育系, 教授 (70247568)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中塚 健太郎 徳島大学, 大学院総合科学研究部, 准教授 (00609737)
三田部 勇 筑波大学, 体育系, 准教授 (00709230)
清水 武 筑波大学, スポーツR&Dコア, 研究員 (20613590)
征矢 英昭 筑波大学, 体育系, 教授 (50221346)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 体育心理学 / セルフコントロール / 研究法 / 二次元気分尺度 / 個人差 / 包括的媒介変数 |
Outline of Annual Research Achievements |
子どもやアスリートが “心のダイアグラム”を活用して毎日の心理状態をモニタリングしながら、“身心の自己調整プログラム”を継続的に実施することで、各自のコンディションを最適な状態に調整して能力を十分発揮できるようになることを目的として、学校教育領域およびスポーツ・健康領域において、次年度の介入研究の準備として予備的研究を実施した。小学生および大学生アスリートを対象とした研究を各実践領域で実施したが、結果として、学校教育領域での活用において介入の効果が顕著であった。小学6年生を対象として6週間実施した介入研究において大きな効果量が確認され、各児童が自分の心理状態を各自の目的に適した状態に自己調整できるようになり、レジリエンス能力の得点も向上した。この結果を踏まえて、次年度に中学校において大規模な効果検証研究を実施する準備が整った。 さらに、心理指標である“心のダイアグラム”以外に、各自の“身心”の状態のモニタリングに活用可能な生理指標(自律系反応)、及び行動指標(重心動揺)を確立するための基礎研究に取り組んだ。しかし、まだアウトカムの予測が可能な包括的媒介変数として有効な指標の構築ができず、次年度の継続課題となった。 また、課題のパフォーマンスなどのアウトカムの予測が可能な指標を包括的媒介変数としてセルフモニタリングを継続し、状況と個性に応じて適した対処法を各自が実施する“身心の自己調整システム”の有効性を検証する研究を通して、個人差を重視した応用科学のための独自の研究法を具体的に提示することも本研究の重要な目的であり、応用科学のための新たな研究パラダイムの提案を、国際会議等で行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、以下の3つの目的を達成するために研究および成果の発信を行ってきた。1.“心のダイアグラム”を活用した“身心の自己調整プログラム”を教育領域・スポーツ健康領域に応用し、その有効性を検証すること。2.最終アウトカムを予測することが可能な包括的媒介変数の継続的モニタリングを通して、個人差と状況差に応じた身心の機能の自己調整を可能にし、パフォーマンスの向上を可能にする、新たな実践と研究のパラダイムを提案すること。3.心理指標である“心のダイアグラム”以外に、アウトカムの予測に適した包括的媒介変数として活用可能な、生理指標及び行動指標を構築すること。 目的1に関しては、“身心の自己調整プログラム”の学校教育現場での実践的活用とその効果の検証に計画通りの成果が得られた。また、目的2に関しても、国際会議での提案や著書の発刊などを通して、新たな実践と研究のパラダイムの社会への発信ができた。しかし、目的3に関しては、生理データや行動データの変動が大きく、アウトカムとしての課題のパフォーマンスの予測に適した指標と分析方法の構築が、まだできていない。 一方、本研究の実施過程で、研究対象者が各自の課題に取り組む際に、自己の心身の状態や総合的な体験およびアウトカムのモニタリングを毎日継続的に行うことによって、本研究の開始時に想定していた、コンディションの調整による実力発揮効果としての課題のパフォーマンスの向上だけでなく、その課題のスキル自体が顕著に向上すること、さらに、そのような課題への取り組み方(学習方法)が、実践者の内発的動機づけや自己効力感を高めることがわかってきた。そこで、新たな研究目的4として、学習効果の検討を追加して取り組むこととした。 2つの課題が順調に進展しており、残りの1つは遅れているが新たな1つを加えたので、総合的にはおおむね順調に進展していると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究における3つの目的のうち、“心のダイアグラム”を活用した“身心の自己調整プログラム”を教育領域・スポーツ健康領域に応用し、その有効性を検証すること(目的1)と、その成果に基づいて、応用科学における新たな実践と研究のパラダイムを提案すること(目的2)は、当初の計画通り進んでいるので、今後も同様に推進していく。生理指標と行動指標を活用した包括的媒介変数の確立(目的3)に関しては、脈波や重心動揺では難しいことが分かったので、平成28年度に購入した生理測定機器を活用して、新たな指標を探索し、アウトカムの予測指標としての有効性を確認していく。 また、これまでの2年間の研究を通して、当初予期していなかった成果が得られた。それは、包括的媒介変数としての自己の“身心”の状態や課題のアウトカムのモニタリングを毎日継続的に実施することは、その課題に関する各個人の体験的データを蓄積していくボトムアップ型の学習方法としての機能を有していること。そして、そのような学習方法自体が、一般的に行われているような、何らかの正解や理想とされるモデルの習得を目指して反復練習するトップダウン型の学習方法と対比して、学習者にとって楽しいものであり、その課題のパフォーマンスが示すスキルの向上効果も大きいことがわかってきた。そこで、当初は、ボトムアップ型のパラダイムに基づく新たな実践方法の有効性を検討する際に、テストや試合場面における実力発揮の結果としてのパフォーマンスの向上効果に着目していたが、学習や練習過程における楽しさやスキルの向上効果についても検証することを新たな目的として追加し(目的4)、最終年度に向けて研究を進める。
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