2015 Fiscal Year Annual Research Report
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15H03521
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
内田 和之 京都産業大学, 理学部, 准教授 (10393810)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岩田 潤一 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (70400695)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 第一原理計算 / モアレ / 薄膜物質 / 大規模計算 / 電子構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年の本年度は、「物質のスピン構造(磁性)が、物質のモアレ模様をどのように反映するのか」を調べる為、グラフェン2枚を互いに逆方向へとねじって積層した系から帯状に切り出した「ねじれ積層した2層グラフェン-ナノリボン」のスピン構造を第一原理計算の局所スピン密度近似(LSDA)で調べた。 1枚のグラフェン-ナノリボンにおいてはzigzag型の端に特異な局在電子状態(以下、端状態と表記)が現れ、端状態がスピン分極する(磁性を発現する)事が知られている。2枚のグラフェン-ナノリボンを積層した場合、リボン間の相互作用によって両リボンの端状態同士が再混成し、端状態のスピン分極も影響を受ける。リボン同士の積層がAA型の場合には混成が大で磁性が抑制され、AB型の場合には混成が小で磁性が抑制されにくいことが知られているが、リボン同士の積層がねじれを伴う場合のスピン構造計算はこれまでになされていない。その理由の1つは、ねじれを伴うグラフェン-ナノリボンの第一原理計算はコストが大きく、通常の平面波法では現実的な時間で計算を実行する事ができないからである。 今回、我々がこれまで独自に開発してきた実空間法による第一原理計算を適用する事で「ねじれ積層した2層グラフェン-ナノリボン」の大規模スピン構造計算に成功した。ねじれ積層はモアレ模様を生み出し、リボンの中でも場所によってリボン同士の積層構造が異なる。結果、AA積層した箇所では磁性が抑制され、AB積層した箇所では磁性が発現するという予想通りの結論を得た。今回の計算により「物質のモアレ模様が、物質のスピン構造に反映する」という具体例が初めて発見された。 尚、研究上のデータを保存しておく為の大規模な外付けハードディスクを購入する必要がなくなった為、未使用金が発生した。しかし、研究の遂行上には支障はない(それを代替するサーバを利用する事ができた)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全体として、研究課題はおおむね順調に進展している。ただし、申請時の計画では初年度および2年目には「モアレの物質科学」(さまざまな物質種の原子レベル薄膜物質を、モアレが生じる形で積層した時の電子構造と原子構造を調べて、比較対照すること)を目標としていたが、実際には「スピン自由度とモアレの相関」(申請時には3年目以降に計画していた)を先に調べ始めている。グラフェン-ナノリボンにおいては端状態のスピン自由度とモアレが強く関係するであろうという、申請時には想定していなかった新しい着想を早期に研究へと移し結果を報告することが、学術の発展上、より重要な事だと判断したからである。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画に沿って、同種および異種の原子膜物質をねじれ積層した場合の物性とモアレの相関について調べて行く。ただし、「モアレと熱伝導性」「モアレと磁性」「モアレと電気伝導性」という研究計画後半の主題に関しても、学術上、先に調べることがより重要であると考えられる着想があった場合には、優先して研究を行う。また、3年目以降の研究で必要となる新しい計算コードの開発も平行して進めて行く必要がある。
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