2015 Fiscal Year Annual Research Report
発熱・放熱制御と排熱有効利用を実現する超低消費電力デバイスの計算科学的デザイン
Project/Area Number |
15H03523
|
Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
山本 貴博 東京理科大学, 工学部, 准教授 (30408695)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
相馬 聡文 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20432560)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | ナノスケール熱制御 / ナノ材料 / 物性理論 / 計算物質科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、次の2つの項目に関して以下の研究を実施した。
項目1(ナノ構造レベルで発熱・放熱制御されたナノデバイスの創成)では、有限温度での原子振動(フォノン)の影響を考慮に入れた電子輸送シミュレータを世界に先駆けて開発し、次世代LSIの配線材料として注目されている金属カーボンナノチューブに応用した。金属カーボンナノチューブに対して、量子バリスティック伝導から古典オーミック伝導までの電子輸送特性を系統的に調査した。また、グラフェンの歪誘起擬似磁場効果を利用した電流スイッチング素子表記の素子において、電子-フォノン散乱の影響を考慮に入れるためのシミュレーションプログラムの拡張を行った。それを用いて、グラフェン自身のフォノンが素子性能に与える影響を解析した。また、これまではアームチェア軸方向の歪みのみに焦点を当ててきたが、より一般の方向の歪みの影響を解析するための理論構築を行った。さらに、グラフェンのエッジ効果と量子ポンプ効果を活用したスピン流素子を純粋スピン流生成モジュールとして用いるため、モジュールであるスピン偏極したジグザグ端グラフェンナノリボン(ZGNR)がスピン偏極していないZGNRリードにつながっている場合でもスピン流の生成が可能である事を確認した。
項目2(新規な熱電変換機構の探索と低温熱電発電を実現するナノ材料の創成)では、ナノカーボン材料、有機材料、シリサイド材料の熱電物性を調査し、それらの基礎物性データベースを構築した。特に、グラフェンナノリボンの熱電物性に及ぼすエッジラフネスの影響を詳細かつ系統的に調べ、エッジ構造とリボン長を制御することで熱電パフォーマンスを最適化し得ることを発見し、様々なエッジラフネス濃度に対して熱電パフォーマンスを最適化するリボン長を明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
有限温度での原子振動(フォノン)の影響を取り入れて電子輸送計算のプログラムを作製し、カーボンナノチューブに適応することで、量子力学的バリスティック伝導から古典的オーミック伝導までの全ての伝導領域をシームレスに再現することに成功した。また、グラフェンの歪誘起擬似磁場効果を利用した電流スイッチング素子に関しては、素子における発熱分布、及びその素子特性への影響を明らかにする第一歩として、今年度は、フォノン散乱の影響を考慮に入れる事を目標に研究を行った。グラフェンFETの場合、基板のフォノンの影響を考慮に入れる事も重要になるが、今年度はまず、グラフェン自身のフォノンの影響のみを取り入れた。さらに、ジグザグ端グラフェン(ZGNR)のエッジ効果と量子ポンプ効果を活用したスピン流素子の研究に関しては、スピン偏極していなリードをもつ素子についても計算を行い、この場合でも純粋スピン流が生成されうる事を明らかにした。また、従来の解析手法は、ポンプ電圧が小さく1次の摂動効果として扱える場合に限定されていたが、純粋スピン生成モジュールとしての可能性の検討のためにはより一般のポンプ電圧での特性を評価する必要があるため、それを目的とした、非平衡グリーン関数法に基づく理論形式の検討を行った。 以上のように、本年度の進捗状況は、申請当初の予定通り順調に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
ナノデバイスの発熱評価に関する研究に関しては、電子系からフォノン系への相互作用のフィードバック効果を取り入れた手法を開発することで、発熱の高精度な評価を行う。また、今年度は伸張グラフェンの歪誘起擬似磁場効果を利用した電流スイッチング素子の実用性を、電子輸送の立場から検討したが、来年度は熱物性、とりわけ熱伝導性についても調査する。 グラフェンの歪誘起擬似磁場効果を利用した電流スイッチング素子の研究に関しては、基板とグラフェンの接触に起因するバンド構造の変化、基板のフォノン、荷電不純物などの影響を明らかにするとともに、局所的な発熱分布、及びその素子特性への影響を明らかにする。更に、実験における理想的な歪みの印加方法や現実的な歪み分布などを分子動力学によって明らかにする。 グラフェンのエッジ効果と量子ポンプ効果を活用したスピン流素子に関する研究に関しては、ZGNRスピン流生成モジュールがスピン偏極していないリードにつながれた場合について、特にリード部分における電荷流及びスピン流の空間分布や、それにともなう熱の発生についての解析を行う。また、断熱近似を用いない理論形式でのスピン流生成の計算を行い、生成されるスピン流についての定量的な評価を行う。 低温廃熱の有効利用に関しては、今年度に引き続き、グラフェンナノリボンの熱電性能の最適化を系統的に調べることを進めるが、特に、様々なリボン幅依存性を明らかにする予定である。また、グラフェンナノリボンなどのナノカーボン材料に限らず、PEDOT:PSSなどの熱電特性の最適化を行う。また今年度は、実験グループとの連携研究を開始し、得られた理論結果の実証実験を行う予定である。
|
Research Products
(54 results)