2016 Fiscal Year Annual Research Report
1光子検出かつ1分子感度を有する先端増強近接場分光法の開発
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15H03569
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
早澤 紀彦 国立研究開発法人理化学研究所, Kim表面界面科学研究室, 専任研究員 (90392076)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 走査プローブ顕微鏡 / ナノ材料 / メゾスコピック系 / 光物性 / 表面・界面物性 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究課題名である「1光子検出かつ1分子感度を有する先端増強近接場分光法の開発」において、平成27年度は“1光子検出”の開発に注力したことに続き、平成28年度は“1分子感度”の開発に注力した。この感度には、信号感度と空間分解能の感度の2つを考慮する必要があり、特に後者の開発を行った。即ち、常温大気中~不活性ガス環境制御下での高安定性を有する走査トンネル顕微鏡(STM)の開発を自作により行った。研究費により環境制御用小型チャンバー、STM用ピエゾ素子および高電圧アンプ、低熱膨張合金等を購入し、極めて安定性の高いSTMを作製した。また、小型チャンバー内に収まるコンパクトかつ遠隔操作可能な光学系を構築し、STM探針による先端増強ラマン散乱(TERS)が得られることを確認した。また、所属研究室に既存のUHV-LT(超高真空・極低温環境)STMを使用させて頂く幸運にも恵まれたことから、UHV-LT-STMに、独自に光学系を設計・設置し、銀単結晶(Ag(111))上にポルフィリン分子を吸着させ、単一分子およびその自己組織化単層膜の作製に成功し、STM像を取得した。現在、単一分子からのSTM-TERS信号の取得を試みている段階であり、そのためには信号感度の最適化、即ちSTM探針の最適化が必須となり、そのプロトコルの構築が来年度への課題である。以上の開発状況により、常温大気中~ガス環境制御下~超高真空・極低温環境と総合的に装置開発を行い、互いにノウハウをフィードバックし、分析装置として多様な試料に適した測定環境を提供できると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は“1分子感度”の開発に注力した。さらに、UHV-LT-STMを使用できるという想定外の幸運にも恵まれ、より効率のよい開発が行えるようになった。常温大気中~ガス環境制御下での開発では、オリジナルの新規チャンバー内に、自作STMおよび光学系を構築し、高安定かつSTM-TERS信号の取得を確認した。UHV-LT環境下での開発では、単一分子試料の作製に成功し、STM像の取得を確認した。また、光学系を構築し、単一分子TERS信号の取得を試みる段階に達している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題名である「1光子検出かつ1分子感度を有する先端増強近接場分光法の開発」に挑戦するための基盤となるハードウェアの開発はほぼ完了した。今後は、1分子信号感度の達成に注力する。そのためには、主にSTM探針先端形状の最適化が重要である。そこで、UHV-LT-STMにおいて原子分解能を有する探針を作製する技術に注目している。本技術は、STMにおいては基本的な技術であるが、TERSにおいては、先端増強の高効率化のための先端構造の変化に活用できると期待している。また、UHV-LT-STMでは、その高安定性と清浄表面により、バイアス電圧を数Vに調整することで、探針-基板間のギャッププラズモンによる発光が観測可能である。この発光はプラズモン共鳴に関する情報を与えることから、STM探針形状の変化と評価がその場で可能となり、先端形状の最適化が効率的にできると期待される。一方、常温大気中では、このような発光を観察することは通常困難である。主な原因は、常温におけるSTMの安定性と表面状態の悪さである。特に表面に吸着した大気中の水分子が原因であると考えられる。これらを克服するため、チャンバー内を真空引きその後窒素雰囲気とすることで、基板表面の清浄化とSTMの安定化が可能であると考えられる。この環境制御と、開発した低熱膨張合金製のSTMとの組み合わせにより、UHV-LT環境と同様に、STMギャップからのプラズモン発光を試みる。 探針の最適化の後、平成27年度に開発した1光子検出装置と、平成28年度に開発した常温大気中~ガス環境制御下~超高真空・極低温環境STMを融合し、真に1光子検出かつ1分子感度を有する先端増強近接場分光法の開発を平成29年度完結させる。
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Research Products
(15 results)