2016 Fiscal Year Annual Research Report
細胞内酸化ストレスに基づくプラズマ生体相互作用の理解
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15H03583
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
北野 勝久 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (20379118)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
座古 保 愛媛大学, 理工学研究科(理学系), 教授 (50399440)
白木 賢太郎 筑波大学, 数理物質系, 教授 (90334797)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | プラズマ医療 / プラズマ処理水 / 過硝酸 / 大気圧プラズマ / 低温プラズマ / 化学反応速度 / 液中プラズマ / 酸化ストレス |
Outline of Annual Research Achievements |
プラズマ誘起液中化学反応というコンセプトに基づき、溶液中に供給される活性種の診断を進めた。プラズマはヘリウムを用いているが、その周囲のガスや溶存ガスによって、液中い生成される活性種は異なることがわかっており、その物理化学機構に関して検討を進めた。特に我々の研究グループでは、純水にプラズマを照射したプラズマ処理水の研究を進めており、プラズマ処理水を、段階希釈して殺菌力、電子スピン共鳴法によるスーパーオキシドのスピンアダクト生成能力、酸化力を測定する発色試薬による定量、イオンクロマトグラフによるキー活性種の定量などの手法により診断をしている。時間変化ならび温度依存を評価する実験系を構築して化学反応速度論による評価を進めている。 プラズマと生体の相互作用には化学活性種が関わっているが、それぞれの化学種による生体への影響という観点では多くの研究がなされている。プラズマ医療を化学種ベースで新しい研究だと証明するためには、化学種を同定した上でその作用を明らかにしていく必要がある。上記の実験を通じて、プラズマ処理水のキー活性種が過硝酸(HOONO2、PNA: peroxynitric acid)であることが判明した。これまで過硝酸という物質はほとんど着目されておらず、文論ならび特許検索を行っても殺菌に関する文献は見つかっておらず、過硝酸による殺菌を世界で初めて発見したと言える。過硝酸という物質は生体でも他の作用をもたらす可能性を有しており、今後の研究展開が重要である。その基礎的な研究として本申請の研究を進めており、過硝酸が生体高分子に与える影響を生化学的に評価したり、反応速度から計算される活性化エネルギーなどの観点から研究を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
プラズマの医療応用は、多数の物質から構成される生体に対してプラズマから活性種が供給されて化学反応が進む多次元の化学反応系と考える事ができる。そのような化学反応を理解するアプローチとして、それぞれの化学種とそれぞれの物質の化学反応を一つずつクリアーにしていく必要がある。本年度はプラズマ処理水中のキー活性種である過硝酸に重点を置いて研究を進めた。 モデルタンパク質としてリゾチームを用い、過硝酸と混合による酵素活性と立体構造の時間変化を評価した。酵素活性は混合から指数関数的に減少しており、その反応速度は温度によって大きく異なった。同様の温度依存特性は殺菌実験でも見られており、擬一次反応による化学反応が支配的であると考えられる。このとき、タンパク質の構造情報を含む円偏光二色性スペクトルのピーク強度が大きく減少しており、酵素活性の減衰と良い相関を示していた。これらの結果から、プラズマ照射と同様に、過硝酸混合処理もアミノ酸残基の化学修飾により引き起こされるマクロな立体構造の変化が酵素活性の失活をもたらしていると推察される。 生体という複雑系に対する反応系の理解を高めるために、有機夾雑物存在下での殺菌実験を行った。酸化作用のある殺菌剤は有機夾雑物ならび細菌と同時に反応するが、その反応速度比は殺菌剤ごとに異なると考えられる。殺菌剤としてのリファレンスとして次亜塩素酸を用いて殺菌速度の検証を行った。有機夾雑物としてはウシ血清アルブミンを用いて、菌液と混合しておくことによる殺菌速度の比較を行った結果、次亜塩素酸に比べて過硝酸による殺菌では有機夾雑物を30倍程度高濃度にしても同程度の殺菌作用が得られた。このことは過硝酸は相対的にウシ血清アルブミンとの反応速度が低い事を意味している。
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Strategy for Future Research Activity |
プラズマ処理水中の過硝酸による生体高分子の酸化作用に関しては様々な結果が得られている。反応速度論的な評価を行うために活性化エネルギーを共通指針として研究を進めていく予定である。新たに始めている量子化学計算を用いて、各種活性種と生体高分子との反応に関する活性化エネルギーが求まりつつある状況であるが、この値と実験値を照らし合わせることで機構解明を科学的に検証することが可能であると考えている。 また、人工細胞としてリポソームを用いた研究も引き続き進める。リポソームに内包した試薬を利用することで生体内酸化ストレスを評価する実験系を構築できるが、これまでに酸化反応試薬を内包することに成功しており、反応速度論的な解釈が可能な時間変化に関する実験データの取得を進める予定である。 昨年度は過硝酸に重点を置いて研究を進めたが、プラズマならびプラズマ処理水ではそれ以外の化学種も作用していると考えられるため、そのような活性種の反応を実験的にも理論計算でも網羅的に理解するような研究を参画メンバーにより勧める予定である。 また、タンパク質のフォールディングに着目した研究も引き続き進める予定である。タンパク質は単なる構造としての物質や、特定の化学反応を加速する酵素などの特徴を有しているが、立体構造が重要な役割を果たしている。その立体構造を正しいフォールディングに行うシャペロンというタンパク質が存在するが、シャペロンには複数の機能を有しており、プラズマ照射によりどのような特性が変化するのかというのを検証する。機能面での評価のみならず、ペプチドマスフィンガープリントとMALDIなどを用いることでタンパク質のどの部位への酸化・ニトロ化反応が役割を果たしているのかというのを検証しながら、科学的な作用機序解明を進める予定である。
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Research Products
(10 results)