2015 Fiscal Year Annual Research Report
ウィークボソンの散乱振幅を精密測定する:新粒子・新物理のエネルギースケールの決定
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15H03657
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
石野 雅也 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (30334238)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
隅田 土詞 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (80624543)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | テラスケール / 素粒子物理 / ミューオントリガー / カロリメタートリガー / ウィークボソン散乱 / 高エネルギー加速器 |
Outline of Annual Research Achievements |
H27年度はLHC加速器が運転を再開して13TeVでの陽子衝突イベントを生成した.LHC第1運転期の陽子衝突エネルギーが8TeVであったのに比較して陽子の重心系の衝突エネルギーは約2倍に増加して本研究で取り扱うウィークボソン散乱の断面積も大きくなったため,これらの事象を高統計で精密測定して標準模型の予測値からのズレを探索する実験環境は整った.ただし,H27年度は加速器が実験チームに供給することができた積分ルミノシティーが,3 [ /fb ] と少なかったため,データを用いた解析結果についてはLHC第1期より悪い精度でしかウィークボソン散乱振幅の大きさを測定できていない.このため,13TeV陽子衝突においてウィークボソン散乱事象を高い効率で選びだし,背景事象をより多く棄却できる解析方法をシミュレーションデータを使って研究した.この研究を進める中で,背景事象に関するシミューレションデータの記述がズレているパラメーターがいくつか見つかり,それらについては,データとの整合が良くなる補正をかけた. また新粒子の早期発見と各種物理プロセスの精密測定を可能にするために加速器が輝度を上昇させ,バックグラウンド環境が悪化した状況においても現在と同程度のクオリティーのデータを取得するため,従来のハードウエアミューオントリガーとカロリメタートリガーを融合した新しいミューオントリガーの構築を目的としている.H27年度は,新たに作成したカロリメターの信号波形処理モジュールをインストールし,従来のミューオントリガーシステムへの配線を完了した.それに引き続いてビーム衝突データを使用してシステムのコミッショニングを進め,特にカロリメタ-のがミューオンを捉えた時の信号とノイズの分離が良くなるパラメーターをみつけることに成功した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H27年度はLHC加速器の運転を2年ぶりに再開し,エネルギーも8TeVから13TeVに上げ,各種のオペレーション条件も変化したこともあり,安定に運転できる時間の確保が短かく積分ルミノシティーは予定を下回り,3 [ /fb ] と少なかった.このため現時点の解析結果ではLHC第1期よりも悪い精度でしかウィークボソン散乱振幅の大きさを測定できていないが,信号事象を高い効率で選択して背景事象をより多く棄却できる解析方法をシミュレーションデータを用いて研究することは達成できた.また,背景事象を正しくシミュレーションがデータを再現できていない点について,整合を良くするための補正をかけることができ,あとはデータが多く蓄積するのを待ち,今年度開発した手法をあてがえば過去最高の結果が得られるという状態を整えることができた. 従来のハードウエアミューオントリガーとカロリメタートリガーを融合した新しいミューオントリガーの開発については,新規作成のカロリメター信号処理回路16枚と,その出力を従来型ミューオントリガーシステムにつなぎこむ作業を予定通り完了した.陽子衝突事象が充分に蓄積するより前のタイミングで決定したプレリミナリーなキャリブレーションパラメーターではノイズの幅が予定していた幅よりも広く,ミューオン信号の低エネルギー側のテールに被ってしまっており,そのままではトリガーに使えずに困るという状況があったが,年度後半に蓄積した高統計データを処理して,新たなキャリブレーションパラメーターを作成して用いたところ,圧倒的にノイズの幅が狭くなり,信号とノイズの分離能力が高まった.この成果により,カロリメター信号をミューオントリガーに組み込む準備が整ったと言える.
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Strategy for Future Research Activity |
H27年度に開発した信号事象選択・背景事象棄却の方針を,H28年度に取得する高統計のデータにあてがって,20 [ /fb ] 程度の積分ルミノシティー蓄積データにおいて素粒子の標準理論からのズレが見られないか,13TeVの陽子衝突データとして最初の結果を出す.その際,背景事象のデータとシミューレションの記述の相違について,再度,注意深く比較して必要な補正があればそれをあてがうことで,より精度の高い,系統誤差の小さな結果を出せるようにする. 新しいミューオントリガーの開発については,昨年度までにカロリメターの信号処理回路のキャリブレーション手法がひと通り理解できたので,H28年度のデータを使って大きな統計で,再度キャリブレーションをおこなう.その後,カロリメターからの出力信号と,コインシデンスをとる対象の従来型ミューオントリガー信号のタイミングあわせを完了し,モニタリングモードで運転しながらトリガー性能の評価をおこなう.各セグメントに最適な,ミューオン信号確認閾値を設定し,すべてのセグメントで98%以上のミューオンに対する効率がえられるように調整した後,実際の実験に投入して,より性能の高いミューオントリガーを実現する.
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Research Products
(9 results)