2015 Fiscal Year Annual Research Report
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15H03668
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
石川 正 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 計算科学センター, 准教授 (90184481)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加藤 潔 工学院大学, 公私立大学の部局等, 教授 (50152707)
安井 良彰 東京経営短期大学, その他部局等, 准教授 (50389839)
台坂 博 一橋大学, 商学研究科, 准教授 (80399295)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 素粒子論 / 計算物理 / 計算システム / 数理解析 / 素粒子実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
素粒子物理学においてはヒッグス粒子の発見により、標準模型の精密な検証および標準模型を超える粒子を探索するという時代に突入した。このためには標準模型における2ループの電弱相互作用における補正計算を行うことが必要不可欠になっている。しかしながら、1ループの輻射補正に比べ、ダイアグラムの数が増えしかもファイマン・ループ積分も複雑になる。このためダイアグラムを生成し、ファインマン・ループ積分の紫外発散の処理を行い数値計算可能式を導出し、ファンマン・ループの数値積分を行う処理を計算機上で自動的に遂行することを目指している。 平成27年度はミュオン異常磁気能率への2ループ補正電弱相互作用の寄与の解析を目的として理論的定式化のプログラム作成とファインマン・ループ積分を実行するための専用システムの研究開発を行った。 ミュオン異常磁気能率の2ループ・ファインマン・ダイアグラムは1780個あり、これらは14種類のトポロジーに分類される。トポロジー毎の次元正則化を行い、紫外部分と有限部分に分離し、数値計算の2ループ積分のソース・コードを生成する。on-shell繰り込みを用いて対応するカウンター項の1ループ・ファインマン・ダイアグラムは70個あり、2ループ積分とカウンター項の紫外発散は数値的に相殺されることを確認した。 物理的な値となる有限項の計算については、2ループのQEDダイアグラムについては、先行計算と一致を確認した。QEDダイアグラムとその他の電弱相互作用のダイアグラムの絶対値のオーダとしては、ミュオンの質量/ボゾンの質量の二乗の桁で小さくなる。そのため、電弱相互作用としては、QEDのオーダより5,6桁ほど小さくなる。ダイアグラム間で5,6桁程度の大きな相殺が発生しており、多倍長計算可能な専用システムを構築して数値的検証を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ミュオン異常磁気能率の2ループ電弱相互作用の補正計算に関しては、2ループバーテックス型のトポロジー14種類に対しての理論的定式化とそれを数式処理するためのプログラムの研究開発を行った。プログラムでは、ファインマン・ループ積分を遂行するための式を出力し、数値積分シミュレーションをして数値結果を分析している。数式処理から数値積分までの一連の流れはできたので概ね自動化の目途がたったと考えている。 計算結果を確認するために、2ループでも1ループと分離できるトポロジーについては、2ループを一度に解かず、連続して求める処方を確立し、数式処理プログラムを開発・数値的な検証を行った。また一部ではあるが、セルフ型の2ループについては、繰り込み部分を合わせたものを数式処理する方法を確立し、こちらについても数値的な検証を行うことができた。 一方、多倍長計算専用システムについては、アクセラレータとして用いるFPGAボードの入荷が遅れたが、年度内のシステムを構築することができた。全体として4倍精度、6倍精度、8倍精度と精度を変更できるシステムである。多倍長演算については、商用のCPUでソフトでも実現できるが、それらに比べて100倍以上の性能を有する。多倍長が必要なQEDの計算などで検証を進めている。 また、積分プログラムのアルゴリズムなどの研究開発も行った。とりわけ次元正則化のパラメータ自体をプログラムの変数として数値計算を行い、紫外発散・有限の部分を求める方法を確立した。高精度の計算を遂行するための効果的な式の導出方法が必要があることが分かった。 自動化システム、専用システム、積分アルゴリズムに関しては共同研究者らと日本物理学会で発表を行った。また、ファインマン・ループ積分の高速化について情報処理学会の研究会で発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
ミュオン異常磁気能率の2ループの電弱相互作用補正計算の数値結果を求めることを主たる目的である。モデルには5つの非線形ゲージ項を導入しており、これらの5つをパラメータとしてダイアグラム毎に数値計算を行う。これらの計算には、長いCPU時間が必要となる。シミュレーションの数値結果について非線形ゲージのパラメータ毎、種々のダイアグラムのセット毎に分析して数値結果の分析を行う。 ゲージ相殺が6,7桁に及ぶような多倍長計算が必要と考えられるダイアグラムについては、多倍長計算専用システムを用いる。専用システムは計算を加速するための多倍長計算を高速に処理するアクセラレータ・ボードを用いているが、16ボードから倍の32ボードに増強を行い、計算需要に対応する。専用システム自体の高速化についてもハード・ソフト面で考察も引き続き行う。 平成28年度は、2体から2体についての散乱過程における2ループ補正計算の自動化に向けての詳細設計を行う。この過程には全部で100程度のトポロジーが出現するが、バーテックス型・セルフ型のトポロジーについては、既存の方法にて行う予定であり、数式処理プログラムを有効に利用することができる。新たに出現するのは、ボックス型のトポロジーであり、プロトタイプを作成することが必要である。物理過程としては、リニアコライダーの電子・陽電子散乱を目的にしており、偏極の取扱うことが必要であり、これに対しての理論定式化を行う。 困難と思われるのは2ループ・ボックス型のファインマン・ループ積分自体である。2ループ・ボックス型のスカラー・ループ積分を用い、精度が高く高速化のためのアルゴリズムについて実際出現するダイアグラムを用いて研究開発を進める。 また数値検証のために、リダクション法による独立した計算方法についても検討を進める。
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