2016 Fiscal Year Annual Research Report
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15H03669
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
北野 龍一郎 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (50543451)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山田 憲和 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 研究機関講師 (50399432)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 素粒子論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、素粒子の奇妙な性質である「強いCP問題」に関して理論的、また数値的な手法により問題自体をより深く理解し、その解法を探るものである。これまで、格子ゲージ理論を用いて、位相荷を直接測定する方法を試み、高温領域での振る舞いを調べ、その理論的解釈を行ってきた。また、それを用いて強いCP問題の解の一つである「アクシオン模型」における宇宙のアクシオンの存在量の計算を行った。 今年度は、この直接的手法には高温領域、もしくは、クォーク質量の小さい領域では計算能力に限界があることを踏まえ、位相荷を固定して作用の期待値を計算することにより、非自明な位相荷の情報を統計的限界なく調べる手法を開発し、その有用性を確かめ、論文として発表した。 また、強いCP問題のもう一つの解とされる「ゼロ質量クォーク」についての研究も進めた。これまで、格子ゲージ理論による中間子質量計算と実測値との比較から、一番軽いとされるアップクォークの質量は統計的に有意にゼロでないことが知られていて、強いCP問題はこの方向では解決されないという理解がされてきた。しかし、理論的にはクォークの質量は観測量ではないため、その定義自体に曖昧さが残る。特に、実際の世界のようにクォークの質量が縮退していない場合は、非摂動的に生成される加法的くりこみ(量子論的な質量のずれ)の効果を考慮すると「ゼロ質量」の定義はエネルギースケールやくりこみ手法に依存したものとなってしまう。そこで、我々は一般的に使われているクォーク質量の定義(ウィルソンフェルミオンにおけるPCAC質量)に基づき、それが「ゼロ」となる場合に、実際に強いCP問題は解決されるのか?つまり、インスタントンが現れなくなるのか?という問いを人工的にアップクォークの質量だけを小さくしたような世界でシミュレーションを行い、研究の進展状況をLattice2016国際会議で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
位相感受率の測定において、新手法の開発をおこない、世界に先駆けてそれを発表できた。また、クォーク質量のユニークな計算も順調に進んでいる。ただ、予期せぬ事態として、高エネルギー加速器研究機構のスーパーコンピューターが2017年度途中で停止することとなり、2016年度中にその代わりの計算資源の獲得努力が必要となった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、新手法にさらに理論的考察を取り入れ、位相感受率だけでなく、様々な物理量を有限温度で調べる方法を探る。また、クォーク質量の研究では、さらに統計量を増やし、連続極限での振る舞いや、格子化したことによる効果の見積もりなどを行い、「ゼロ質量問題」の決着を目指す。
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Research Products
(20 results)