2016 Fiscal Year Annual Research Report
運動量にロックされたスピン分極を持つ物質における電子構造の解明と新現象の探索
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15H03683
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石坂 香子 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (20376651)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 光電子分光 / スピン軌道相互作用 / ワイル半金属 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、空間反転対称性の破れやトポロジカルな要因で生じる固体の電子バンドの自発スピン分極(spin-momentum locking)に注目し、超伝導転移や極性-非極性構造相転移に伴う電子構造の変化を運動量・エネルギー分解して直接観測することを目的とする。本年度は、主に極性構造相転移を示すワイル半金属候補物質MoTe2、および特徴的なジグザグ鎖の構造相転移を示す(V,Ti)Te2を対象とした研究を推進した。 MoTe2は250 Kで非極性-極性構造相転移を示す半金属であり、2015年の理論予測によりトポロジカルワイル半金属であるとの提案がされている。レーザーを用いた高分解能角度分解光電子分光実験によりこの物質の電子構造の測定を行ったところ、数100ミクロン程度のサイズを持つドメイン構造の存在を発見した。レーザー光源を100ミクロン以下に絞り表面を走査した実験を行うことにより、それぞれのドメインのバンド構造を明らかにすることに成功した。またスピン分解実験を行い各バンドのスピン偏極を調べることにより、それぞれのドメインが互いに逆向きの極性に由来する逆向きのスピン偏極を持つバルクバンドで特徴づけられることを確認した。なお、第一原理計算によると、この物質で予測されるワイル点のエネルギー位置はフェルミ準位より6 -40 meV程度上側にあるとされ、通常の光電子分光実験による測定は難しい。これをふまえ、100 K程度に温度を上げた状態で角度分解実験を行うことにより、非占有側におけるフェルミアークを示唆する電子状態を観測することに成功した。これらの実験結果を第一原理計算によるバルクおよび表面スラブ計算と比較することにより、それぞれのドメインが(0 0 1)および(0 0 -1)表面と対応していることを明らかにした。この結果は、Phys. Rev. B誌に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
MoTe2については、計画当初は極性ドメインがサブミクロンサイズで混入すると予想し、通常の測定で分離は不可能であると想定していた。しかし実際には、実験を進めるにつれ、ドメインのサイズが数100ミクロン程度であることを示唆する結果を得た。これにより、レーザー光源を可能な限り小さくするなどの調整を行った。このため一部の計画に多少の遅れが出たが、結果的にはドメインを明瞭に分離した測定を行うことに成功した。これにより、極性ワイル半金属が持つ表と裏双方の表面において、それぞれ異なる形状を持つフェルミアークを示唆する結果を得ることが可能となった。また、紫外レーザー光源を用いたスピン分解光電子分光実験(東大物性研究所辛研究室)を行うことにより、当初計画よりはるかにエネルギー・波数分解能の高いスピン偏極観測を行うことが可能となった。この点では、当初の計画を越え、フェルミ準位近傍に半金属特有の複雑なバンド構造をもつMoTe2のトポロジカルな性質に踏み込むことができたと言える。 一方VTe2は当初の計画では研究対象としていなかったが、本研究開始後にその特徴的な電子構造と構造相転移に注目し、実験に着手した。これまでVジグザグ鎖を形成する構造相転移が報告されているほかは、物性、電子構造ともほとんど解明されていない。今回角度分解光電子分光を行うことにより、初めてフェルミ面やバンド構造が明らかとなり、ブリルアンゾーンの一部においてトポロジカルに非自明な構造を有することが示唆されている。
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Strategy for Future Research Activity |
MoTe2においては、Nb置換によるホールドーピング依存性や温度変化の測定を行うことにより、特徴的な極性-非極性構造相転移にともなう電子構造の変化を明らかにする。これにより、構造相転移近傍におけるトポロジカル相転移の観測を目指すとともに、ゼーベック係数の増強、超伝導出現などの異常電子物性の起源を探る。 (V,Ti)Te2においては、構造相転移にともなう電子構造の変化を明らかにするとともに、スピン分解実験によりトポロジカル表面状態の検出を行う。VTe2の巨大なジグザグ鎖格子変形をともなう構造相転移の起源を明らかにするとともに、これによるバルクのバンド構造とトポロジカル表面状態への影響を精査し、低対称相におけるトポロジカルな性質に関する知見を得る。 PdBi系超伝導体については、極低温角度分解光電子分光実験により、超伝導状態における電子構造の解明を行う。バルクと表面のバンドにおける超伝導ギャップの運動量依存性を明らかにし、トポロジカル表面状態が示す超伝導についての知見を得る。 以上の結果をまとめ、多様な物質が示すspin-momentum lockingやその背景にある結晶構造と電子構造を明らかにし、総括する。
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Research Products
(7 results)
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[Journal Article] Observation of spin-polarized bands and domain-dependent Fermi arcs in polar Weyl semimetal MoTe22017
Author(s)
M. Sakano,M. S. Bahramy, H. Tsuji, Araya, K. Ikeura, H. Sakai, S. Ishiwata, K. Yaji, K. Kuroda, A. Harasawa, S. Shin, and K. Ishizaka
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Journal Title
Phys. Rev. B
Volume: 95
Pages: 121101(R)-1-6
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research / Acknowledgement Compliant
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