2015 Fiscal Year Annual Research Report
超流動ヘリウム流れ場における量子渦の運動状態の研究
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15H03694
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
矢野 英雄 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (70231652)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 低温物性 / 流体 / 超流動ヘリウム / 量子渦 |
Outline of Annual Research Achievements |
超流動ヘリウム(4He)の渦の量子化の発見から半世紀がたつが、量子渦の動的な性質はいまだ明らかになっていない。それは渦芯が0.1 nmと大変細く、渦の運動を観測する手段が少ないためである。我々は、超流動ヘリウムの量子渦が境界(壁)に付着し、境界の振動に伴って量子渦が運動することを発見した。この量子渦のユニークな性質を利用し、渦の運動状態を実験的に明らかにすることを目的としている。これまでの主な研究実績は以下のとおりである。 1.超流動ヘリウムの振動流れ場による量子渦の生成・伸長過程と、振動流れ場から放出される量子渦の運動を研究する。振動流れ場は、物体を振動させることにより、相対的に駆動される超流動流を利用する。振動物体として直径2μmの超伝導極微細線(NbTi)を製作した。振動物体に極微細線を用いることで自身の質量を軽くし、渦の生成・伸張に伴って失うエネルギー損失を精密に測定する。また渦の検出器として渦の付着を抑制した極微細線を用いる。この極微細線を振動させた状態で渦がぶつかると、渦が細線に付着・伸長し、このときエネルギーを失うことを利用して渦を検出する。渦の生成器と渦の検出器を製作し、これらの動作テストと渦生成と放出に関する実験を行った。さらに量子渦放出の統計性に関する予備的な結果を得た。 2.超流動中の回転物体に付着する量子渦の運動と、これらの運動に伴う超流動流れ場を研究する。超流動ヘリウム中(絶対温度2K以下)で動作するモーターと、流れを駆動するために6枚羽根のブレードを設置した装置を開発した。粘性の無い超流動ヘリウム中では、ブレードの回転によって流れを駆動できない。しかし量子渦がブレードに付着すると、回転によってブレード周辺に駆動される超流動流によって量子渦が生成・伸長する。これらの量子渦を介して、ブレードから離れた場所でも超流動回転流を引き起こすことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画どおり実験装置の開発・製作をおこなった。 実績1については、渦の生成器と検出器について超流動ヘリウム中で動作テストを行い、計画どおりの結果を得た。さらに渦の生成器から放出される量子渦を、検出器で検出することに成功した。これらの組合せにより量子渦放出の統計性に関する予備的な実験を行い、これらの研究成果を国際会議や日本物理学会などで報告した。 実績2については、超流動ヘリウム中で動作するモーターを開発し、超流動ヘリウム中でブレードを回転させることで、ブレードから離れた場所に回転流を駆動することに成功した。これらの研究成果を国際会議や日本物理学会などで報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
実績1と実績2について、今後次の研究を推進する。 1.超流動ヘリウム振動流によって、量子渦が生成・伸長を始める臨界速度を研究する。量子渦の生成・伸長に伴って失うエネルギー損失を精密に測定ことで臨界速度を研究し、振動流れ場における量子渦の運動状態を明らかにする。また量子渦の伸張と再結合によって放出される渦輪を、量子渦検出センサーで観測する。振動ワイヤでエネルギー損失が始まる時間から渦輪が検出されるまでの時間を測定し、その時間分布から渦輪生成の統計を研究する。さらに、放出される渦輪の放出方向の分布と渦輪サイズの分布を研究する。これらの研究をもとに、振動ワイヤの周囲に形成される量子渦領域(渦のタングル領域)の成長過程を研究し、超流動振動流れ場における量子渦の運動状態の研究を推進する。 2.量子渦の伸長によって駆動される超流動ヘリウム回転流を、自由表面の形状から研究する。また回転流から超流動流を取り出すことによって、量子渦の運動状態を探る研究を推進する。これらの研究をもとに、超流動回転流れ場における量子渦運動状態の研究を推進する。
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Research Products
(7 results)
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[Presentation] 振動物体が生成する超流動乱流2016
Author(s)
矢野英雄*
Organizer
物性研究所短期研究会「量子乱流と古典乱流の邂逅」
Place of Presentation
東京大学物性研究所(千葉県柏市)
Year and Date
2016-01-05 – 2016-01-07
Invited
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